第13話「声、眼、人」

 はやくやれよ…

 お前ホントにグズだな…

 時間稼ぎしても無駄だかんな…


 頭の中で俺を急かす複数の声がする。

 耳の奥にある音を捉える為の器官ではなく脳髄へと直接響いたその声は、男の様でありながら女の様でもあり、女と男のどちらでもない様でもあった。


 マジで早くしろよ…

 ずっと待ってんだからさ…

 誰かが代わりにやってくれるとか考えんなよ…


 俺の知らない何者かのその声は毎回違う声で俺に何かを急かし続けた。


「何を急かしているんだ?俺は一体何をすればいい?」


 思わず言葉くちにしていた。

 はっきりと聞こえる声量で独り言を呟いた俺に周囲の人々が視線を向けた。


 いいからやれよ…

 さっさとやれ…

 これ以上待たせるな…


「だから何をやれってんだよ!」


 俺の言葉ことばに周囲がざわついた。

 独り言を呟くのではなく、大声で誰かに怒鳴り付けた俺は周囲の人々からすればなのだろう。


 うるせえな…

 声だけはでけえな…

 器は小せえクセに…


 やれ…ヤれ…やレ…ヤれ…やレ…ヤれ…やレ…ヤれ…やレ…ヤれ…やレ…ヤれ…ヤレ…


 壊れたラジオから流れるノイズの様なその声達は俺を急かし続けた。

 何をすればいいのか…

 何をやれというのか…

 何を求めているのか…

 何をやらせようとしているのか…

 何一つとしてわからないまま俺は何かに突き動かされる様な衝動を感じた。


「やります…やリます…やりマす…やりまス…ヤります…ヤリマス…」


 俺の口が勝手にそう言っていた。

 勝手に発せられる俺の言葉が周囲の視線を更に集めていた。

 無数の眼、無数の意思、無数の人間が急かす様に俺を視ていた。


 

 周囲のが俺を急かし続けた。


 気がつくと俺は密室にいた。

 一切の光がないその部屋は手を伸ばせば壁も天井も床も俺も触れられるほどにしかない部屋だった。

 俺自身の指先すら視ることの叶わないその部屋の中でを帯びた十三のが俺を視ていた。

 そのは俺に何かを言っていた。


 はやくやれよ…


 その声は俺の口から聞こえた。

 俺は人差し指を耳に当て、ゆっくりと鼓膜を突き破ると急いで目玉を抉り出した。


 はやくやれよ…


 俺を急かすそのこえと十三のは消えることはなかった。


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