第9話「生ゴミ売りと売れ残った多元宇宙論」
「生ゴミはいらんかね?」
「は?」
腰の曲がった老婆がスーツを着た男に尋ねた。男は言葉の意味が理解出来なかった。
男は生ゴミになった。
「生ゴミはいらんかね?」
「えっ?お婆さん何言ってんの?」
腰の曲がった老婆が薄着の女に尋ねた。
女は老婆のことを異常者であるかの様に怪訝そうな顔で問い返した。
女は生ゴミになった。
「生ゴミはいらんかね?」
「………」
「生ゴミはいらんかね?」
「………」
腰の曲がった老婆がランドセルを背負った小さな女の子に繰り返し尋ねた。
女の子は老婆を無視した。
「生ゴミはいらんかね?」
「………」
「生ゴミはいらんかね?」
「………」
「生ゴミはいらんかね?」
「………」
腰の曲がった老婆は更に続けて三度尋ねたが、ランドセルを背負った小さな女の子は三度共に老婆を無視した。
老婆は悲しげな瞳で女の子を見送った。
女の子は家に帰ると両親に老婆の話をした。
両親が学校に連絡するとエリアメールが配信されて老婆の事は不審者情報として拡散された。
「生ゴミはいらんかね?」
「うわっ!出た!生ゴミババアだ!キモチワリイ!」
腰の曲がった老婆がランドセルを背負った男の子に尋ねた。
男の子は老婆を警戒しつつも物珍しさから老婆に言葉を返した。
男の子は生ゴミになった。
「生ゴミはいらんかね?」
「死ね!ババア!」
腰の曲がった老婆が詰襟を着た男子中学生に尋ねた。
男子中学生は老婆を見るなり蹴り飛ばした。
男子中学生は生ゴミになった。
「生ゴミはいらんかね?」
「え?あ、要りません」
腰の曲がった老婆がブレザーを着た女子高生に尋ねた。
女子高生ははっきりと答えた。
「本当にいらんのかね?」
「はい。申し訳ありませんけど、生ゴミは要りません」
腰の曲がった老婆は念を押す様にブレザーを着た女子高生に尋ねた。
女子高生は老婆の瞳を真っ直ぐ見詰め、はっきりと断った。
老婆は笑顔を見せて帰った。
次の日の朝、女子高生は寮のごみ捨て場に生ゴミを捨てたが、不燃ごみの日だったので寮長に怒られた。
「生ゴミはいらんかね?」
「んんー?生コン?」
腰の曲がった老婆が酔っ払った男に尋ねた。
男は老婆に聞き返した。
「生ゴミはいらんかね?」
「あぁん?生ゴミ?おうおう、そんなんナンボでも買うてやるぞ!」
腰の曲がった老婆が再び酔っ払った男に尋ねた。
男は買うと答えた。
すると老婆は腰を真っ直ぐに伸ばして快活な声でこう言った。
「そうかい、ならお前さんで決まりだな」
「へ?」
それ以来、老婆はいなくなり、男は連続殺人の罪で逮捕されて八年後に死刑になった。
逮捕された男の自宅からは二百五十三体の死体が発見された。
その死体は全て黒いごみ袋に入れられていた。
そして、男の死刑が執行されてから一年程が経ったある日…
「な、生ゴミを買っていただけませんか?」
「は?お姉さん狂ってんの?」
若い綺麗な女が若い男に尋ねた。
男は残念そうな
男は生ゴミになった。
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