第8話「目玉焼きと若い老婆」
ガラガラと音を立てて、小さな屋台がやってきた。
「ヤッてきました!ヨッてこい!ミてキてコロしてタベチャッて!メダマヤキ屋さんのオデマシだよー!」
逆立ちをした腕のない若い老婆が両脚を天に突き出して耳から声を出すと、老婆の背中目掛けて目玉のない子供達が群がった。
「ギブミー!」
「ギブミー!」
「ギブミー!」
「ギブミー!」
目玉のない子供達の単なる窪みとなった眼窩には無数の小さな蝸牛が蠢いていた。
子供達はその蝸牛を落とさぬように右腕で蓋をしながら、左手の指を親指から順番に噛み千切って老婆へと差し出した。
噛み千切った指は老婆の背中にある弾痕の様な穴へと詰め込まれ、数秒で指は背中と癒着した。
「プリーズ!」
「プリーズ!」
「プリーズ!」
「プリーズ!」
子供達がそう言うと若い老婆は小さな声でこう言った。
「テクビ…ヒダリ…」
その言葉を合図に子供達は自分の左手首に渾身の力で噛みついた。
噛みついた部分から鮮血が飛び、その鮮血が老婆の髪の毛を赤く染めた。
夥しい血が流れ、子供達と老婆の足元には真っ赤な
尚も噛み続ける子供達の左手首はミシミシと音を立て始め、グチャッという音と共に全ての子供達の左手が
落下した左手は
それを見た老婆は笑いながら小さな声でこう言った。
「シンゾウ…」
それは、悪魔の囁きにも似た救世主の思し召しだった。
若い老婆の言葉に子供達は狂喜乱舞しながら近くにいる者の左胸に右手の五指を突き立てた。
突き立てられた者は心臓を抉り出されながら近くにいる者の左胸に右手の五指を突き立てた。
円を描くようにして全ての子供達が隣の者に心臓を抉り出された。
抉り出された心臓は愉快な笑い声を上げながら自らを抉り出した者の口の中に入っていった。
子供達は抉り出した心臓の味を舌の先から喉の奥で味わい、手首から先がない左腕で自分の心臓があった場所を押さえながらタップダンスを踊った。
カラカラと音を立てて眼窩から蝸牛が落下し、落下した蝸牛は
それを視ていた若い老婆は満足そうな表情をしながら手のない腕で拍手をした。
そして、老婆はこう言った。
「ハイよ。メダマヤキ百六十四人前。アツいからフーフーしなよ」
四個の目玉が串に刺さった目玉焼きが八十二本、計三百二十八個の眼球が
置かれた目玉焼きは消え行く老婆の後ろ姿に一礼をして空へと飛び立ち、直後に雷に打たれて天使となった。
こうして、目玉焼きは今日も昨日と同じように明日の誰かの心へと還ったのだった。
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