第4話「コップの中で溺れる灼熱の炎に包まれた鮫の見た夢。」
耳で視たのは権力者の左腕を喰いちぎる山羊の群れ。
目で嗅いだのは空を飛ぶ無数の南瓜とその中に潜む太古のタイムマシンの油の匂い。
鼻で味わったのは昨日抱いた赤ん坊の臍の緒に巻き付く初恋の人の
舌先に聴こえたのは狂ったように泣き叫ぶ女王蜂を亡くした象の王様。
何かが足りない。
そう感じた時、俺の右手は俺自身の左胸から心臓を抉り出していた。
その心臓はケタケタと笑いながら俺を見ていた。
その心臓は愉しそうに笑いながら俺を見ていた。
何かが足りない。
俺は手探りするように左腕を動かした。
すると、左腕の先端にある左手の指先に何かが触れた。
俺はそれを掴むと一心不乱に
右手に持つ俺の心臓はその様子を愉しそうに見ていた。
何かが足りない。
そう感じた時、俺の目の前には最愛の人が転がっていた。
気がつくと俺はそこにいた。
気がつくと俺は俺の心臓を手放していた。
意識から一瞬遅れて俺の右手は自分の左胸を触った。
そこには何もなかった。
そこには何も変わったものはなく、ただ俺自身の左胸だけがあった。
抉り出したはずの心臓は胸の中にあった。
俺を笑いながら見ていた俺の心臓は俺自身の左胸の中に入れられたままだった。
何かが足りない。
俺は辺りを見回した。
辺りは一面赤かった。
辺りは一面赤い液体で染まっていた。
俺は近くにある赤い液体による水溜まりに手を浸けるとその水を嘗めた。
生き物臭い鉄の味がした…
赤い液体は水ではなかった。
赤い液体は水ではなく血だった。
何かが足りない。
何かが足りない。
何かが足りない。
俺は再び辺りを見回した。
赤く染まった壁、赤く染まった床、赤く染まった天井、赤く染まった俺、赤く染まった最愛の人、赤く染まった何か。
俺は赤く染まった壁は赤く染まった壁だとわかった。
俺は赤く染まった床は赤く染まった床だとわかった。
俺は赤く染まった天井は赤く染まった天井だとわかった。
俺は赤く染まった最愛の人は赤く染まった最愛の人だったものだとわかった。
俺は赤く染まった何かが赤く染まった何なのかわからなかった。
何かを見つけた。
何かをやっと見つけた。
足りない何かをやっと見つけた。
俺はその何かに近づくと赤くなった俺の口の中に放り込んだ。
生き物臭い肉の味がした…
何かが足りない。
俺は再び何かを探し出した。
そこにはもう俺の求める何かはなかった。
俺はそこから出ることに決めた。
赤く染まった最愛の人だったものを残して俺はそこから出ていった。
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