第2話 彼の日常

 肩書きは学生、ということになっている。実際は違う。街を守る仕事をしていて、たまたまその関係で潜入する必要があった。それだけ。


「ふう」


 ギアをオフに。仮想空間が解けて、現実の空間が現れる。何もない、だだっ広い体育館。床には、なんとなく気休めのマット。硬めのやつ。洗濯の、なんというか柔軟剤の、いい匂いがする。


 終わったか、という学生仲間の声。


「終わってしまいました」


 答えながら、ギアを外していく。膝のプロテクター兼モーションセンサー。ひじのプロテクター兼モーションセンサー。手首の、スマートウォッチ。


「楽しかったです」


「そうか。好きだよなお前も。いまどき、こんな古いゲームを」


「好きなので、仕方ありません」


「まあ、そうか」


 普通の学生仲間。こういうのが、潜伏には重要だった。誰が敵で、誰が味方なのか分からない。この学生仲間は、仕事仲間が徹底した身元検査スクリーニングを行っていた。こいつは、何もかもが普通の一般学生。だからこそ、潜伏中の擬装には向いている。


「彼女でもいんのか、対戦ゲームのなかに」


「まあ、そんなところです。対戦相手は女性のかたですし」


「まじか。おれもやろうかな」


「やめといたほうがいいですよ。彼女、現実リアルで会ったらごりらまっちょかもしれない」


「うわ。それは、やだな」


「でしょう?」


 個人的には、それでもいいと思っている。人間の外見なんて。どうせ50年もすれば枯れる。

 じゃあ、精神は。

 枯れないのか。

 衰えないのか。

 死にたがっている自分には、多少、刺さる問いだった。

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