第4話 旅立ち
「俺もこの任務に参加させてもらいます。」
「いいのか?危険な状況になることもあるだろうし今までの生活もできなくなるぞ。」
今までの生活?書類生活なんてしたいやつがいるか?いるわけがない!
「大丈夫です。ていうかぜひとも参加させてほしいです!」
ここが俺の分岐ルートだ!
次に書類から解放される機会がいつ来るか分からないんだ。
絶対にこのチャンスを逃すわけにはいかない!
「そうか。お前の覚悟に感謝する。苦労するだろうが精進してがんばってほしいのじゃ。」
「了解です。」
「絶妙に嚙み合っていないけどまあいいか。」
隣でナラルが何か呟いていたが今はそんなことはどうでもいい。
「すまないが、入学試験までの時間がないので今すぐ人界、天界に向かってほしいのじゃ。」
「今すぐ行きます。」
「お主、聞き分けがよすぎじゃろ。」
魔王様は引きつった笑みを浮かべていた。
「いえいえ、上司の命令にすぐ答えられるのが優秀の部下の務めですよ。」
いち早く書類生活から離れたい俺からすればこれは僥倖だ。
荷物まとめてすぐに引っ越し作業だ!
「まあ、よい。ナラルもすまないが準備してくれ。」
「了解。」
「それでは解散なのじゃ!」
黒髪と金髪の少年が扉に体を向け歩きはじめる。
「すまない。二人のこれから歩む人生に幸があらん事を。」
リロが呟いた言葉は二人に聞こえることはなかった。
扉がゆっくりと閉じた。
「よっしゃー、書類生活から解放されたぞ!」
「おめでとう。新生活のはじまりだね。」
そんなことを言いながら二人は廊下を歩き始めた。
「ありがとな。だけどお前はどうして潜入任務なんて受けたんだ?」
魔人将の座についてるナラルが潜入任務を受けるメリットが何かあるのだろうか。
俺みたいな書類生活をしているわけではないし、、、、、、
「うーん、そうだね。」
と言ったナラルから次の言葉は出てこなかった。
それからしばらく無言の時間が経過していく。
急に黙り込んでしまったナラルが気になり俺は視線をナラルに移すと次に吐き出す言葉を躊躇しているとかではなく平然としていた。
無言の時間があまりにも長いためとりあえず謝っておこうとイルスは口を開く。
「悪い。言いたくないなら言わなくていいんだ。」
この空気感を変えようと試みるもナラルは返事をしなかった。
何考えてんだこいつ。
歩みを進めている分かれ道が見えてきた。それぞれの執務室に向かうために俺は左、ナラルは右に行く。
分かれ道に到着する一歩手前まで来た。
すると一言も喋らず無言の時間を作っていたナラルの重い口が到頭、開かれた。
「ごめん、変な気を遣わせたね。でもこれはイルスにも聞いておいてほしいことだから言うよ。」
右と左に分かれる道で歩みを止めた二人は向かい合って視線を交差させた。これから放たれる言葉がイルスにとってどのような意味を持つのか分からないがこいつの理由になることに関係することだけは理解できる。
「僕は魔人将だ。多くの人の命を背負う立場の者なんだ。だけど魔人将として戦っているうちにある疑問が湧いてきた。」
「その疑問てのは?」
「この戦争を続ける意味だよ。魔界では戦争が始まった理由が不明になっていることは知っているはずさ。」
そうだ。不明なのに戦争は終わる気配を見せない。今も死ななくていいはずの魔界の人たちが前線ではたくさん死んでいるはずだ。
「でも魔界は戦力を投入しないといけない状態だ。この状態は人界と天界が前線に戦力を送り続けているから。送り続けているということは何かしらの理由があるとみていいと思うんだ。」
「確かにそれは理由があるかもしれないけどそれくらいのこと魔界にいる誰かしらが思うはずだろ?」
同意を求めるように疑問を問いかけた。
「そうかもしれない。だけど実際に理由が解明されているわけじゃないだろ?
そんな時に招集されある任務が与えられた。」
「あーそういうこと。この任務で何かしらの理由を知ろうとしているのね。」
「そういうこと。で、そこでなんだけど。」
「「人界の理由調べてきてくんない?」」
二人の声が重なった。
ナラルは驚嘆と言わんばかりに何度か瞬きしたあと。
朗らかな笑みを浮かべた。
「いいの?仕事増えちゃうけど?」
「いいよ。書類仕事から解放されて気分いいから調べるよ。」
戦争なんてやらないほうが絶対いいからな。
これはしっかり調べよう。
「ありがと、でも無茶しないようにね。」
「お互いにな。」
二人は別れの握手を交わしそれぞれの執務室に向かうのであった。
執務室に戻ったイルスは魔王城から出発するための準備を開始した。
ここで、なぜ執務室で出発の準備が出来てしまうのかという疑問を抱いただろう。それは書類生活で家に帰るのがめんどくさいという悲しい理由である。
「さて、準備もできたことだし最後に父さんと母さんに挨拶して旅立つか。」
執務室を出たイルスは大木が立つある丘に訪れた。
大木の下には二つの墓がありその周りは多くの桃色の花が咲き誇っていた。
「父さん、母さんしばらくの間、来れなくてごめんね。書類仕事が忙しくて中々時間が作れなかったんだ。」
暖かな風が吹き花たちが風を揺する。まるでこれから別れを告げる一人の男の旅立ちに答えるように。
「俺さ人界に潜入任務することになったんだ。だからまたしばらく会えなくなる。
でも次会うときは今より逞しくなって来るから楽しみにしといてよ。」
歯車が嚙み合い回り始めた。
彼が紡ぐ物語の幕がゆっくりと開き始める。
「じゃあ、行ってきます。」
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