第3話 魔王との話

扉の向こう側には身に纏う覇気に似つかわしくない小柄な体つき、淡い藍色の瞳に深い背中に燃えるような紅髪を垂らした少女が座っていた。

俺とナラルは魔王様の前まで歩き、作法通りに片膝をついて話しかけられるのを待った。

「ナラル、イルスよく来てくれた!二人とも忙しいだろうにわざわざすまないな!

面を上げてくれ。」


俺は魔王様の言葉通り顔を上げた。


これが現魔王 リロ・トーラ 20歳

 20歳という若さで魔王の座を引き継いだ天才。

だが20歳とは思えないな。紅髪がチャームポイントのリロ・トーラ9歳です‘て言われても何も違和感を感じないくらい幼児体系だ。


「そうですよ。忙しいんですから帰っていいですか?」


ナラルは魔王様といつも通りに話している。

堅苦しいのは嫌いて言ってたけど本当にこんな口調でいいのか?

俺は不安に駆られながら隣に座っているナラルをチラ見した。

するとナラルは俺にしか分からないウインク信号で何かを伝えようとしていた。

なんだって?

‘砕けた口調で軽い冗談とか言わないと燃やされるかもよ’

えっそんなことあるの。

本当だとしたら冗談じゃないけど… 

燃やされるんだったら俺じゃなくて溜まってる書類たちが燃えろよ!と心の中で叫んだ後

俺の脳は燃やされないための最適解を瞬時に叩き出した。


「全くその通りです魔王様。今日のノルマの書類を処理しないと快眠することが出来ませんよ。まあ、眠ることはできるんですけどね。」


軽い冗談にボケを加えてやった。

俺は指示待ち人間ではなく自分で考え要求以上のことができることが可能なのだ。

これも地獄の書類処理生活で身に着けた力だ。

さてさて魔王様はどういう反応をしているかな。

魔王様の反応が気になり視線を前方に向けると、俺の目に移った魔王様の姿はあまりの衝撃に言葉が出ないという様子だった。

これはやらかした。また嵌めやがったな。

と恨めしい気持ちを抱きながら体をナラルの方に向けると至って真顔だった。

わけが分からなかった。

嵌めたなら喜びに満ちた笑みを浮かべているはずなのだがそうではない。

どういうことなのだろうか。

すると顔一杯に笑いを広げながら魔王様はこう言ってきたのだ。


「イルス、お前初めて会うのに分かっておるではないか。」


何が分かったんでしょう。


「我は堅苦しいのが苦手でな、魔人将にこのことについて言ったんじゃ。だがのう柔軟な考え方が出来ないやつが何人かいたんじゃよ。」


なるほど、なるほど。


「だから燃やしてやったんじゃよ。」


絶句である。


「勿論、死に至るほどの炎ではないぞ。そんなこともあって今では皆、軽い感じでしゃべってくれるぞ。」


つまり炎という名の恐怖で一部の魔人将の考えを矯正したってことか。

怖。

「だがイルスお前は最初から我がしてほしいことができていた! 

やはりお前を選び呼んで正解だった。」


誉められた。後でナラルにお礼を言わなければ。


「だがこのようなことを話している暇はないな。早速、二人を呼んだ理由を話そうと思う。」


場の空気が変わったな。空気がピリピリしている。


「お前たち二人には別々で学園に潜入してもらいたい。」


学園に潜入?


「学園に潜入とはどういうことですか?」


ナラルは動揺しているのか若干、声が裏返った。


「そのままの意味じゃ。イルスには人界の学園、ナラルには天界の学園に潜入してもらいそこで調査をしてほしい。現在、人界、魔界、天界の戦力は拮抗しているのは勿論知っているはずじゃ。」


それは知ってる。拮抗状態を崩すための案についての書類は飽きるほど見た。


「しかし潜入させていた間者からある報告が届いた。人界では勇者、天界では天導者が秘密裏に育てられていたということじゃ。」


突然、放たれた勇者と天道者という単語に俺は目を大きく見開いた。


勇者 

人界に現れる救世主。魔王様と同等の力をいずれ持つ者と呼ばれている存在。圧倒的強者を前にして更なる成長をし強者をも超える力を身に着け強者を倒すということが多々あることから魔界では出会えば即時撤退をするように命令されている。魔界では奴が強者を前に立ち向かうことの事例があまりも多いためドMが選ばれるのではないかという説が取り上げられている。

天導者

天界を導く者。圧倒的な能力を生まれつきもって現れる者。魔王様と同等、条件によってはそれ以上の力を持つ者。圧倒的能力を完全に操るまでの過程が長いが操ることが可能になった時はこちらも即時撤退をするように命令されている。だが執拗に追ってくるためこちらはドSが選ばれるのではという説が取り上げられている。


過去に勇者と天導者が現れることはあったが同じ時代に現れるということは初めてなはずだ。

「同時期に現れるということは今回が初めてなはずだし、それが本当なら非常にまずい状況ですね。」


声を発したナラルを見ると顔を顰め、眉間に皺を寄せた表情を浮かべていた。

こんな表情、久しぶりに見たな。


「そうじゃ。魔界側はこれまで我がいてやっと拮抗状態を保っていた。だが二つの存在が現れたことを知った今ではいつこの状態が崩れてもおかしくないと思っている。」


確かに今の魔界は魔王様の力にとても依存している状態だ。3年前の出来事がなければこんなことにならなかったんだろうけど。


「なるほど。理解しました。潜入して勇者および天導者の調査をし正体を探れということですね。」


「その通りじゃ。後、その喋り方をやめろ。また燃やすぞ。」


燃やされたのお前かい。

だから真顔だったんだな。


「僕はその潜入任務受けますよ。」


「そうか。すまないなナラル。イルスはどうする?これは別に強制ではないから断ってもいいのじゃぞ。」


「へえ、そうなんすね。一つ聞いてもいいですか?なんで俺とナラルなんですか?」


「それは学園に入学するのに適した年齢かつ魔人将と魔人将の副官の座に就き年齢にそぐわない強さを持っているからじゃ。後お前ら二人の固有魔法ならそれぞれの学園の試験にも魔人だということがばれず入学ができるからじゃ。」


そういうことね。それに俺らの固有魔法なら魔人だとばれずにそれぞれの試験を突破できるかもしれないな。


「他には何もないか?」


「はい、大丈夫です。」


「ならばイルス、お前の選択を聞こう。」

俺は

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