第2話 開扉

「とりあえずこの命令を聞かない限り何も始まらないな。さっさと魔王様の所に行くぞ。」


「そうだね、魔王様を待たせるのも申し訳ないからね。早く行こうか。」

俺は机の上に置いてある紫色のロケットペンダントを取り執務室を出た。


「この城の廊下も随分変わったな。」


「確かにね。魔王の座を魔王様が引き継がれてから城の外観も部屋も一気に模様替えされたからね。」


廊下の床は白と黒のチェック柄に綺麗に塗装されており、側面の壁には光を灯す魔道具が等間隔に配置されていた。目に見える範囲でゴミが一つもなく毎日メイドさんが真面目に掃除していることがよく分かる。


「任命されてから一番最初にした配下への命令が‘この城は暗すぎる、前魔王の陰気臭ささが乗り移ったようだ。よって改装工事をする!‘だからね」


「あの時は普通に驚いたな。俺が今まで見て形成していた魔王のイメージが崩された瞬間だったわ。魔王がそんなこと命令するなんて思わないし。」


「あれは僕も驚いたね。まあ今の魔王城の方が僕は好きだけどね。」


「確かに俺も今の方が好きだわ。」

魔王城のことについて談笑していると視界の奥に豪華に飾られた扉が見えてきた。他の扉とは違う雰囲気を纏い、扉の向こう側にいる存在を強く感じさせた。


「流石に緊張してきたな。初めて招集命令受けたんだけど魔王様と対面する時にしなければいけない作法はあるのか?」


「まあ、一応あるね。簡単に説明すると入り口を通過して立ち止まり、片膝ついて話かけられるのを待つ。それくらいかな。だけど魔王様は堅苦しいのは嫌いだから、すぐに楽な姿勢にさせてくれるよ。安心しなよ。」


作法について聞いていると、とうとう扉の目の前まで着いてしまった。


「本当かよ、嘘じゃないだろうな。」


「信用してよ、僕は嘘はつかないよ。」


執務室から魔王様の所に来るまでだけで俺のことを散々弄り倒していた奴の言葉を信じろという方が難しいだろと思った奴は俺だけじゃないはずだ。だが今に至るまでの会話を思い出してみると確かに嫌味な言葉を吐き続けるあいつの弄りマウスも嘘だけは吐いてないな。

魔王様と城について話し合い廊下を歩いていた俺たちは気が付けば扉の前に辿り着いていた。思っていた以上に話が盛り上がってたみたいだ。


「おい、これ入っていいのか?それとも待つのか?」


「あっ、このこと説明してなかった。とりあえず説明する前にみてよ。」


するとナラルは扉の前で息を大きく吸い込み始めた。


「魔人将が一人、ドS魔公子ナラル・ラスレル。招集命令を受け参上しました。」


廊下に男にしては少し高い声が響き渡った。ツッコミどころ満載なんだがこれはボケているのか?

それともドS魔公子と言われていることを気に入ってるとかか?

どちらにしろ俺はどうすればいいんだ?

するとナラルが困っている俺の表情を見て心の底から楽しいといわんばかりに笑みを浮かべていた。


「これはね、魔王様が出来心で始めたことなんだけど、自分の特徴とか周りに呼ばれているあだ名的なものをここで言わないといけないんだよ。」


「つまり肩書的なものを言うてことだな。なあ、魔人将全員これをやってるのか?」


「一応やってるね。でも今、三つの派閥に分かれて揉めてるんだよ。肩書を言うことを気に入ってる推進派、恥ずかしいし毎回めんどくさいて言ってる抑止派、僕みたいなどっちでもいいよていう中立派。推進派の派閥に所属する人が若干多いんだったかな。どちらにしてもイルスは今ここで自分の肩書を言わないと入れないからね。今から考えなよ。」


こんなことで揉めてて魔界は大丈夫だろうか。


「そうだな、とりあえず考えるか。」


まずは俺の特徴だ。黒髪、黒目で顔は日々の書類仕事の所為で少しやつれ気味だ。これもあの激務の所為だ。

周りに言われていることと言えば ‘書類が友達’ ‘あいつは紙に呪われている’  

‘書類を処理するために生まれた処理人’とかね


どれもこれもひどい肩書ばかりで正直言いたくないことばかりだな。でも魔王様に嘘をついて扉を通過して何かが起きてからでは手遅れだ。

つまり俺にできる最善は....


「魔人将が副官、書類が友達で紙に呪われていて書類を処理するために生まれた処理人 イルス・ロウリンス!招集命令を受け参上しました!」


正直に言われてることをはっきりと大きな声で叫ぶだけだ!勢いで何とかなるとか考えても何も浮かばなかったとかでは決してないぞ。


「よかろう、ナラル・ラスレル イルス・ロウリンス 二人の入室を許可しよう。入るがよい。」


扉の向こう側から幼さを感じさせつつ覇気のある声が聞こえてきた。

その声に呼応したかのように静かに扉が開き始める。

扉が開き始めイルスは一歩を踏み出した。自分の書類生活が終わることを願って。

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