第二十八話:ギルド試験狂騒曲㉑/少女たちへの祝砲、それは天使の断末魔



「これが──ギルドの『冒険者』である事を証明する“許可証ライセンス”だ」


 ギルド選抜試験の閉幕から数時間後──日は徐々にかたむき始め、カヴェレのギルド支部も人の動きが慌ただしくなっていた。


 試験に見事合格したスティアとフィナンシェは、ギルド支部の受付カウンターに戻ったエスティから、ギルド公認の『冒険者』である事を証明する“許可証ライセンス”を渡される。


「これが──ギルドの“許可証ライセンス”……!!」


 折りたたみ式のかわの手帳に納められた鉄色のプレート。そこにはギルドの紋章──つるぎと盾と、荒れ狂う“力の神”をかたどった意匠いしょうが刻まれていた。


「失くすと大変だからな……。失くさないように身体のどこかに縫い付けておきなさい」

「怖っ!!?」

「…………冗談だよ。とまぁ、“許可証ライセンス”は授与したが、まだ手続きがあるからな。早速だが……ふたりの『職業クラス』の登録をしておこうか」


「「…………『職業クラス』…………??」」


 聞き覚えのない単語にスティアとその横で“許可証ライセンス”を食い入るように眺めていたフィナンシェは仲良く首を傾げる。


「ギルドの依頼クエストを円滑に進める為の区分だと思えば良い。例えば──剣士フェンサー弓兵アーチャー魔法使いソーサラー格闘家ファイター治癒術師ヒーラー猛獣使いテイマー斥候スカウト錬金術師アルケミスト騎士ナイト……などなど、冒険者それぞれの特性に合わせた“職業クラス”を登録する事で、依頼クエストでの適性てきせいの有無の判断や、パーティを組む際のマッチングをしやすく出来るんだ」


「なるほど~。じゃあ、あたしは“剣士フェンサー”かな……?」

「わたしは……“魔法使いソーサラー”……? ううん、“治癒術師ヒーラー”かな?」

「承知した。エンブレム嬢は“剣士フェンサー”、フォルテッシモ嬢は“治癒術師ヒーラー”として登録しておこう。これは何時でも変更出来るからな、変えたくなったら各地にあるギルド支部で申請すると良い」


ちなみに……ふたりの前に“許可証ライセンス”を渡したラウラ嬢は、かたくなに“騎士ナイト”で登録しようとしたが──試験中、『爆炎球ファイア・ボール』しか使っていなかったから“魔法使いソーサラー”で登録しておいた」


「「────でしょうね」」


 エスティのこそこそ話を聴いたふたりは、受付カウンターのすぐ脇にいるラウラとトウリに目を向ける。


「あぁ〜〜、何故ですの!? わたくしは絶対“騎士ナイト”が相応しいですのよ〜〜!!」

絶対ぜってーちげぇし……!! 試験中、ほぼ魔法……って言うか『爆炎球ファイア・ボール』ばっかだったじゃねぇか!!」

「嫌ですの嫌ですの嫌ですの〜〜っ!! わたくしもレイティアさんみたいな“騎士ナイト”が良いですの〜〜!!」

「わがまま言うなって!! 駄々こねて暴れるなコラッ!!」


「「「……………………。」」」


 “騎士ナイト”がいいと、床に寝そべって子どもみたいにジタバタしながら抗議しているラウラを、そばで母親みたいにしかっているトウリに託すと──3人は逸れた話を元に戻す。


「オイ、テメェ等!! 何スルーしてんだ!? お前らもこのアホお嬢様を何とかしてくれよッ!!!」

「…………。」

「…………。」

「…………さて、次の話だが……」

「この薄情者はくじょうものーーッ!!」


 いよいよラウラに膝にすがり付かれたトウリを華麗に無視スルーすると、エスティは自身の持つ青銅色ブロンズのギルドの“許可証ライセンス”を取り出して、トントンと表面を叩きながら話を始める。


「──次に説明するのはギルドにおける“階級ランク”について。ギルドでは冒険者の功績や実力を考慮こうりょした六つの“階級ランク”が用意されているわ」


「まずは“階級ランク1”──『アイアン』。所謂いわゆる初心者……ギルドの冒険者になりたての者たちに与えられる“階級ランク”。今のあなた達がこの“階級ランク”ね」


「次に“階級ランク2”──『青銅ブロンズ』。因みに、私がここね。次は“階級ランク3”──『白銀シルバー』。多くの冒険者が一生涯いっしょうがいをこのふたつの階級ランクで過ごすわ」


「そして、此処ここからが“選ばれし強者”の領域……“階級ランク4”──『黄金ゴールド』。ここ最近でこの階級ランクに到達した者は、凶悪な『魔人種デーモン』をたった独りで討伐した騎士──通称“魔人殺し”だけね。」


「そして、“階級ランク5”──『白金プラチナ』。ギルドでも選りすぐりの精鋭たち。多くが“ギルドマスター”のおかかえの冒険者ね」


「最後に、“階級ランク6”──『勇者ブレイブ』。ギルドでも6人しかいない──人類最強の集団よ……!!」


「“勇者ブレイブ”……!!」


 エスティの言葉にスティアは全霊を傾けて聴き入る。ギルドでも最高位の称号──『勇者ブレイブ』。其処そここそが──スティアが目指す場所なのだから。


「この階級ランク制度には個人のある程度の力量を示すだけで無く、『依頼クエスト』の受注制限にも関わっているわ。危険性と報酬の高い“高階級ランク”の依頼クエストを受けたかったら、早く上の階級ランクに上がることね」

「え〜っ、じゃあドラゴン退治とかはすぐに出来ないの?」

「そうなるわ。依頼クエスト階級ランクに見合っていない低階級ランクの雑魚を派遣して、無駄死にされても経費の無駄だからね」


「因みに〜♪ 最高に可愛いアイノアちゃんの階級ランクは……妥協して『白金プラチナ』で〜っす♡」

「うわっ、でた……!!」


 そして、エスティの堅苦しい説明が終わった瞬間──隣で別の冒険者の依頼クエストの受理を行っていたアイノアがひょっこりと顔を出して話に割り込んできた。


「はいはい、あんたの仕事は“依頼クエストの発行と受理”でしょ……? 黙って仕事をしなさい……!!」

「あんえ……エフフィはんひろいれす〜!!(約:なんで……エスティちゃんひどいです〜!!)」


 突然の横槍に怒りを露わにしたエスティにほっぺをぎゅうっと押されながら、アイノアが元いた位置まで押し戻されて行く。


「ともかく、これがギルドの仕組みだ……! では、改めてようこそ──ギルドへ、駆け出しの冒険者たち……! スティア=エンブレム、フィナンシェ=フォルテッシモ、あなた達の目まぐるしい活躍を我々は期待しています」

「…………ハイ!!」

「…………はい!!」


 かけられたのは“期待”と“歓迎”の言葉。スティアとフィナンシェは──これからギルドの“冒険者”として、道を歩むことになる。


(あ〜ぁ、らないでちゅよ……。“冒険者ぼうけんちゃ”も“勇者ゆうちゃ”もろくなもんじゃないでちゅよ〜)


「あとこれ、ギルドの新米向けのガイドブック。よーく読むように……!!」


 ──『ゴブリンでも分かる! 楽しいギルド♪』


「…………ハイ」

「…………はい」


(二回目の返事が明らかにやる気ない!!?)

(その本もらう人、いっつも『俺はゴブリンと同じ扱いなのか……!』ってすっごい微妙ビミョー表情かおするんですよね〜♡)


「いやー、良かったッスね、ふたりとも……!」


 エスティの歓迎の言葉をカティスがフィナンシェの背中から清聴せいちょうしていると、背後からオヴェラが賛辞さんじの言葉をかけながら近付いてくる。


「あっ……! オヴェラさん!」

「フィナンシェちゃん、スティアちゃん、おめでとうッス! これで名実共に──立派な冒険者ッスね!」

「はい♪ オヴェラさんがくれた推薦状のお陰です。本当にありがとうございます」


 フィナンシェはオヴェラに深々と頭を下げながら、彼に感謝の言葉を伝える。彼のお陰でふたりは選抜試験に参加できたのだから。


「オイラは“きっかけ”を作ったに過ぎないッス。れっきとした“冒険者”になれたのは──紛れもなくふたりの実力ッスよ」


(い〜や、おれのおかげでちゅよ……!!)


「…………はい!!」


 そのフィナンシェの笑顔に満足したのか、オヴェラはきびすを返してギルド支部の出口へと歩き出す。


「もうふたりなら大丈夫ッスね」

「…………オヴェラさん?」

「オイラは……そろそろ行くッス。此処でお別れッスね」

「うん、わかったバイバイ」

「オヴェラさん、さようなら〜♪」

「アレーーーッ!!? 思ってた反応と違うーーーーッ!!?」


「…………くすっ♡ 冗談ですよ♡」

「あー、びっくりした〜」

「……で、オヴェラさんはこれからどうするの?」

「昨日の“迷宮ダンジョン”調査の報告は“”報告したし、オイラはこれから出発する通商キャラバンに乗せてもらって隣街のリステウスにいるヴェステリエッジさんに報告をして来るッス! それじゃ……さよならッス!」


 ふたりにそう言い残し、オヴェラは歩き出す。


「さようなら……オヴェラさん」

「…………次はオイラも、ふたりに見られても恥ずかしくない──立派な冒険者になるッスよ!!」


 フィナンシェに見送られ、手を振りながら──改心した冒険者の男は去って行く。支部の扉をくぐり、やがてお互いの姿が見えなくなるまで、手を振り続けながら。


「う〜ん♪ 素晴らしきかな別れの時♡ アイノアちゃん、感動しちゃいました〜♡」

「あたしもそろそろ帰ろっか……? この子もそろそろミルクの時間だろうし」

「ばぶ、ばぶぶばぶぶぶっ……!!(約:いや、おれはミルクは嫌いでちゅ……!!)」

「そうだね♪ フオリさんやアヤさんにも“冒険者”になれたって報告しないとね♪」

「ちょっ……アイノアちゃんを無視しないで〜〜っ!!」


 その様子の一部始終いちぶしじゅうを眺めて、すかさず横からちゃちゃを入れてきたアイノアを無視しながら、スティアとフィナンシェは帰り支度を始める。


 しかし──、


「あっ、本来の用件、思い出しました〜♡ 試験で集めてくれたアイノアちゃんじるしの“タグ”は……あなた達にプレゼントしちゃいまーす♡ いつでもどこでも、可愛いアイノアちゃんを愛してね♡」


「「い・り・ま・せ・ん!!!!」」


 ──アイノアのその言葉に、無性にムカついたスティアとフィナンシェは“ドンッ!!”と大きな音をたてながら、ふところに仕舞っていたアイノアの“タグ”を思いっ切り受付カウンターに叩き付けて返却した。


「ひ、ひどい!!? アイノアちゃんがそれを作るのにどれだけの時間と魔力を費やしたと思ってるんですかーっ!!?」


 叩きつけられたアイノア印の“タグ”(40ポイント分)を、ショックで震える手ですくいながら──アイノアはわざとらしく涙を流しながら、嘆きを訴える。


 その時だった──、


「エンブレム嬢、フォルテッシモ嬢、その“タグ”……不要なら私が頂こう」


 ──エスティが思いもよらぬ発言をする。


「…………え、こんな趣味の悪いゲテモノいるんですか……?」

「やだー、フィナンシェちゃんったら意外と口悪くちわるい〜♡ アイノアちゃん、めっちゃ傷付く〜♡」

「まぁ、これにはこれで使……!」


 そう、にこやかに言いながらエスティはカウンターに置かれた“タグ”を自分の手元に引き寄せる。


「エスティちゃん……そんなにも……そんなにも、アイノアちゃんのことを……///」


 両手を頬に添えながら、アイノアはくねくねと身体をくねらせている。


「「…………うわ、キモい」」


 スティアとフィナンシェの軽蔑けいべつの眼差しも物ともせずに、アイノアは自分の世界に浸っているが──、


「実はな……参加者たちが集めたり、果樹園に散らばっていた“タグ”は回収していてな……♪」


 ──そのエスティの言葉に、アイノアはほんの少しだけ“嫌な予感”を感じ、背中にはゾワゾワと悪寒おかんが走り始める。


「エスティちゃん……??」

「それでだ♪ この気味の悪い“タグ”をな……この袋にぜーんぶ詰めて♡」

「なんでアイノアちゃんの……私の口調を真似するんですか……?」

「受付カウンターの前にポーイッ♡」


 エスティの作られた可愛らしい声色こわいろと貼り付けられた笑顔と共に、放り投げられたアイノアの“タグ”が詰まった袋が“ドサッ”と重い音を立てて床へと落下する。


 何事かと集まって来た冒険者に円陣を組むように袋は囲まれ、あたかも──のような様相ようそうていしてくる。


「ラウラ嬢、早速で悪いが──ひとつ“依頼クエスト”を頼めるか?」

「ちょっと……エスティちゃん、ホントにやめて……!」

「あー、なるほど~♪ 良いですわよ、エスティさん。特別に──無料タダで引き受けますわ♪」

「ねぇ……ほんとにやめて? 今度、スイーツでも何でも奢るから〜っ!!」


 そして、エスティの依頼クエストこころよく引き受けたラウラは、にっこりと笑顔をアイノアに向けながら、舌なめずりと共に背中の大剣をゆっくりと引き抜く。


 これから起きる事を理解したアイノアが抵抗を始めようとした瞬間──、


「ちょ、やめ────」

「取り押さえろ!!」


「「「イエッサーーーーーッ!!!」」」


 ──エスティの指示と共に、複数のギルド支部の職員たちがアイノアを背後から羽交い締めにする。


「は、放して〜っ!! どこ触ってるんですか、変態ッ!! エ、エスティちゃん! そ、そんな事したら、アイノアちゃんが大変な事になっちゃうんですよ!?」

「えぇ、知ってます〜♡ 確か“タグ”はあなたの魔力を流し込んでて…………♡」

「────ひっ!?」

「アイノア、あんた……ラスヴァーさんに言ったわよね……?」


 羽交い締めにされ、恐怖で顔面蒼白になっているアイノアに顔を近付けながら、エスティは彼女の全身を舐め回すように言葉をささやき始める。


「悪い事するなら、裁かれる覚悟が無いとダメだって……♡ なら、あなたも勿論、?」


 ささやく言葉は──アイノアが破滅するラスヴァーに贈った言葉。今それが、巨大なブーメランとなってアイノアに戻ってくる。


「お願い……やめて……アイノアちゃんの恥ずかし痴態ちたいなんて観て愉しいですか……?」

「うん♡ とっても愉しい♡」

「やめて……アイノアちゃんがとんでもない事になっちゃうんですよ!? 健全な青少年には刺激が強過ぎる惨劇さんげきになっちゃうんですよ!? だから──」


 自分がどう言う目に合うかを理解しているからこそ、アイノアは必死にエスティに許しを請うが──、


「だ〜め♪ ラウラ嬢……“始末してはじめて”!!」


 ──エスティは笑顔のまま無慈悲に、処刑人のように大剣を構えるラウラにを命じる。


「ハーイ♡ “爆炎よ 爆ぜろ”──」

「ちょ──やめっ! こうなったら、“天使の歌ごテウラストス・アーニ──ッ!!?」


 それを阻止すべくアイノアは声を振り絞って抵抗を試みるが──、


(こ、声が出ない……!? ど、どうして……!!?)


 ──フィナンシェの背中にいるカティスの干渉によって、アイノアの声は急に掻き消されて聴こえなくなってしまう。得意の美声がでなくなり、彼女は打ち上げられた金魚きんぎょのように口をパクパクとさせながら絶望に表情かおゆがめている。


(“魔王九九九まおうきゅうひゃくきゅうじゅうきゅうちゅき”──『静寂なる叫びちゃイレント・ちゅクリーム』)


 魔王九九九式まおうきゅうひゃくきゅうじゅうきゅうしき──『静寂なる叫びサイレント・スクリーム』、周囲の“音”を奪い盗る事象干渉系統の『紋章術式クレスト・アーツ』。


 周囲を無差別、又は対象を指定して──その者や物質が発する“音”を消し去る事が出来る。詠唱が必要な魔法の阻害や聴覚に作用する“呪縛ギアス”の無力化などに効果を発揮。特に、『声・音・歌』を術式の媒介ばいかいにしているアイノアにとっては、まさにな一手である。


(魔犬の女王とその子どもたちよ……。約束やくちょくの光景を贈るでちゅ……!!)


「────!! 〜〜〜〜〜〜!!?」


 声にならない叫びをあげて、アイノアは自分の分身とも言える“タグ”に必死に手を伸ばす。


「今日一日、さんざん好き勝手やって、あまつさえ──しょーもない、悪戯イタズラを企んでいた罰だ! 存分に無様ぶざまを晒しなさい!!」


(あとは──お前にちゅき勝手、もてあちょばれた魔犬たちの分でちゅよ……!!)


「────『爆炎球ファイア・ボール』!!」


 そして、エスティの断罪の言葉と共に──ラウラが振り下ろした大剣から火球が放たれる。


(『静寂なる叫びちゃイレント・ちゅクリーム』──解除!)


「────ッ、やめてぇええええええ!!」


 最後の最後に、カティスの術から開放されたアイノアが悲痛な叫びを上げるが──時すでに遅し。


 ──ボォオオン!!


 爆音と爆炎と共に、大量の“タグ”の詰まった袋は爆発に巻き込まれ木っ端微塵に吹き飛んでしまう。


 そして、その瞬間──、


「────ッ、んっっっっっぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」


 ──アイノアの無様な断末魔だんまつまが、建物中に響き渡った。爆破された“タグ”にかかった全ての負荷が魔力の“繋がりパス”を通じてアイノアに流入、一気に身体を駆け巡った凄まじい次元レベルの衝撃の影響で、アイノアは全身をガクガクと痙攣けいれんさせながら絶叫を上げ続ける。


「ねぇ……フィーネ? あれ、どうなってるの……??」

「……多分、“タグ”そのものがアイノアさんの──せ、性感帯せいかんたいみたいになってるから……その、全身を激痛レベルの快感が襲ってるんじゃないかな……?」

「フィーネの説明がえらい具体的で、あたし今、若干引いてる」

「//////」


「あぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???」


 アイノアは立ったまま、年頃の女の子がとてもじゃないが──全身を貫く、恐ろしいレベルの快感を味わい続けている。


 その感じる快感は──常人が許容出来る快感の数百倍。生半なまなかな強さの人間なら数秒で脳が快感で焼き切れて、即廃人になるレベルだ。


「う〜ん、最っ高/// この光景だけでもオカズには十分だわ〜///」


 そんなアイノアの無様な断末魔を、エスティは恍惚こうこつ表情ひょうじょうで眺め続けている。


 そして、アイノアが叫び続けること1分後──、


「ぁぁぁぁ────────ぁ♡♡♡」


 ──とうとう快感に脳が焼き切れたのか、最後に妙になまめかしい声をあげて──アイノアはゆっくりと背中から床に崩れ落ちた。


「────────。」


 そして、身体をピクピクと痙攣させ、口から泡を吹き、白目を剝きながら──アイノア=アスターは完全にのびてしまった。


「──よしっ!! アイノアバカは沈黙した!! あとはこのバカの服をフォレストフロッグの溶解液で溶かして裸にひん剥いて、この支部の看板に縄で縛って吊るしておけ……!!」


 エスティの指示に職員たちは無言の敬礼をすると、失神したアイノアの首根っこを乱暴に掴むと──ずるずると引摺ひきずりながら奥の部屋へと連行していった。


「うわぁ……」

「よく見ておきなさい、トウリさん。あれが……“因果応報いんがおうほう”ですわ……!」


「あ〜、スッキリした/// 私、いま人生で一番幸せ〜〜///」


 神妙な面持ちでアイノアの末路を見届けた周囲の冒険者たちとは正反対に、エスティは上機嫌に鼻歌を歌いながら受付カウンターに戻っていく。


「あー、あたし達も帰ろっか……?」

「そう……だね……」


 その後、くる日の朝、意識を取り戻すまで──アイノア=アスターは全裸にひん剥かれ、胸元に『私は悪い子です♡』と書かれたプレートをぶら下げながら、ギルド支部の看板に縛り吊るされたのであった。

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