第二十一話:ギルド試験狂騒曲⑭/アイノア=アスターの企み


 3分後──アイノアに“タグ”の破壊行為を厳重注意されたカティスは(※実際に注意されたのはフィナンシェ)、渋々『彼方より来たるダークサイド破滅の光・ビーム』を解除、アイノア・エスティ・フィナンシェが呑気にお喋りしている間、怪光線ビームを喰らい続けていたスティアはようやく開放されるのだった。


「大丈夫、スティアちゃん……?」

「…………大丈夫に見えますか……?」


 心配そうに見つめるフィナンシェの目の前で、スティアはお尻を突き出しながらぐったりとうつ伏せに突っ伏しており、焼け焦げた衣服のあちこちから黒い煙を吐き出していた。


「いま回復魔法を掛けてあげるね♡ “癒やしの光よ 我らに祝福を”──『癒やしの光ヒール・ライト』」


 傷付いたスティアを癒やすためにフィナンシェが魔法を唱えると、突っ伏したスティアに白い光が降り注ぎ、みるみると彼女の傷付いた身体を癒やしていった。


(下級の回復魔法ヒーリングの割には回復量が多いでちゅね……。どうやらフィナンシェは魔法適正てきちぇいが高いみたいでちゅね……!)


『おぉーっと、フィナンシェ選手のSMプレイで絶頂ぜっちょうして倒れていたスティア選手──ようやく復帰だぁーーっ!!』


「────あのさぁ……誤解を招くこと言わないでくれる……? あ〜、酷い目にあった……」

「……スティアちゃん、大丈夫? 後でもう一回、さっきのプレイ──やってもいい?」

「…………やめて」


『フォルテッシモ嬢に支えられ、エンブレム嬢もようやく起き上がったな』

『さぁ〜、ふたりはまだ3ポイント♡ ここからどう行動するつもりなのかぁーー!?』


「うるさい実況だなぁ……」

「でも……このままだと、合格には少し厳しいかも……!」

「う~ん、やっぱり外に行くべきじゃない……?」


『ち・な・み・に〜♪ ラウラ選手とトウリ選手はこのラスヴァー家旧邸宅の裏庭──果樹園かじゅえんに向かいましたよ〜♡』

『おい、アイノア! 参加者になに余計な事を言っているんだ……!?』

『まぁまぁ、エスティちゃん♡ トラブr──こほんっ、合格者は多い方がアイノアちゃん的にも撮れ高は高いですし〜、これ位はアイノアちゃんのご奉仕サービスってことで♡』

『全く──気まぐれ女め……!』


「……だって、どうするフィーネ?」

「でも……アイノアさんがああ言うってことは──きっとすっごく危ない場所だと思うなー?」


(ひぃ〜、アイノアちゃんの目論見もくろみが見破られてる〜!?)

(アイノアのあの顔……悪巧わるだくみがばれた時の顔だ……)


「ともかく、このまま屋敷の中でいても間に合わないよ! あたしたちも果樹園かじゅえんに行こう!!」


(ちゃっき、ちゅライム如きに苦戦ちた小娘こむちゅめが何言ってるんでちゅかね……?)


「そうだね……。ねっ、わたし達いまから果樹園かじゅえんに向かおうと思うんだけど……いいかな?」


『……? フォルテッシモ嬢、何故か赤ちゃんに許可を求めているな……?』

『どうやらあの3人の中で、決定権を持っているのはあの赤ちゃんのようですね♡』


「ばぶっ……!!(約:ダメッ……!!)」


 ──バシバシッ!!──


「あっ、地味に痛いです……!!」


『赤ちゃんがフォルテッシモ嬢の肩をバシバシ叩いて拒否しているな』


「フィーネ! フィーネ十八番おはこのお色気いろけで赤ちゃんを懐柔かいじゅうして!!」

十八番おはこじゃ無いよ〜! もぅ……ねぇ、果樹園かじゅえんに行かせてくれたら──ママのおっぱい……す、吸わせてあげるね///」

「………………。」


『おぉーっと、フィナンシェ選手、ここで授乳じゅにゅう宣言だぁーーーー!! 羨ましい〜、アイノアちゃんも吸い付きたい〜♡』

『お前は自分のちちでも舐めてろ!』


「……………………。」


(赤ちゃんが黙った……。い、いける……?)

(う、うぅ〜/// 恥ずかしい〜///)


「ばぁぶ♡ はぁぶばぶぶ♡(約:全く♡ しょうがないでちゅねぇ♡)」


(いけた!? あの赤ちゃん、フィーネにちょろ過ぎる!!?)


『フォルテッシモ嬢のおっぱいと引き換えに、赤ちゃんの譲渡じょうとを引き出したな』

『恐るべきフィナンシェ選手、その魔性ましょうのおっぱいにあらがえる者はいないのでしょうか? アイノアちゃんはあらがえそうにありませ〜ん♡』


「と、とにかく、わたし達も早く果樹園かじゅえんに向かいましょう……///」

「ねぇ、フィーネ……? 試験に合格したら、あ、あたしもおっぱい吸っていい……?」

「だ・め・で・す〜///」


『おやおや~♡ スティア選手とフィナンシェ選手はアイノアちゃんのオススメ通り、果樹園かじゅえんに向かうようですねぇ〜♡ ではでは~、アイノアちゃん達も果樹園かじゅえんの中継に向かいましょー♪』


「おい……アイノア、どう言うつもりだ……!? お前──!?」

「あら〜♡ エスティちゃん、“秘密オフレコ”な話ですかぁ〜? もぉ〜、アイノアちゃんを独り占めするなんて──エスティちゃんったら、欲張りさんなんだから〜♡」

とぼけるな。アイノア……果樹園かじゅえんには?」

「………………♡ 知りたいですか♡」

「言え……さもないと──!」

「はいはい〜♪ じゃあ、エスティちゃんにだけ特別に……♡ あそこ──果樹園かじゅえんには〜、アイノアちゃんがしつけた『フォレストフロッグ』がいま〜す♡」


 その魔物モンスターの名を聞いた時、エスティは思わず眉をひそめてしまう。


 フォレストフロッグ──その名の通り、“森に棲み着く蛙”の魔物モンスターである。


「フォレストフロッグってぇ〜、獲物えものを捕らえる時に、んですよね〜♡」

「それは私も周知しゅうちしている……。エサとなる……ま、まさかお前!?」

「ピンポンピンポーン、エスティちゃん、大正解〜♪ そう、フォレストフロッグの溶解液は──動物の肉を直に食べる為に〜、邪魔になる毛皮だけを都合よく溶かす特殊な酸なの〜♡ もし、それが人間に当たれば……どうなると思いますか……?」


 邪魔な毛だけを都合よく溶かす液──実は、人間がそれを浴びても大事には至らない。精々、頭髪が少々だけいたむ程度で済む──、の話だが。


「フォレストフロッグの溶解液は──動物の毛で編まれた人間の衣服だけを都合よく溶かす♡ 後はもう……分かりますよね〜♡」

「────呆れた。参加者たちを素っ裸にして晒し者にする気か!?」

「うっふっふっふっ、愉しそうでしょう〜♡ フォレストフロッグの溶解液にヤラれて、スティアちゃんやフィナンシェちゃんが一糸いっしまとわぬあられもない姿になるのを観るのはぁ〜♡」

「──とんだ下衆だな、アイノア……!! その内、……!?」

「どうぞ〜天罰でも何でもアイノアちゃんに落としてみて下さい〜♡♡♡ さぁさぁ、それじゃあ──美男美女びなんびじょの恥ずかしい姿を観に──果樹園かじゅえんへとレッツゴー☆」


 ──この時、アイノア=アスターは気付いていなかった。この下衆の極みのような発言のせいで──後で自分がとんでもないはずかしめを受ける羽目になってしまう事を──。

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