第十九話:ギルド試験狂騒曲⑫/“令嬢騎士”ラウラ&“闘犬少女”トウリ - A Little Bird Knight & The Dog Fighter -


『さぁー♡ 選抜試験開始から間もなく15分が経過しよーとしていまーす♪ 参加者さんは現在どのような状況になっているでしょーか、解説役のエスティちゃんー、お願いしまーす♡』

『はいはい……。現在、ラスヴァー家旧邸宅に突入した参加者たちは大きくけて、三ヶ所さんかしょに散らばって魔物モンスターの討伐及び“タグ”集めにいそしんでいます』


 選抜試験開始から15分が経過し、選抜試験の参加者たちはラスヴァー家旧邸宅のあちこちに散らばり、各々のやり方で魔物モンスターと戦っていた。


 そんな参加者の様子を空飛ぶワイバーンに乗って俯瞰ふかんするアイノアとエスティは、実況解説を続けていた。


『まずは門から邸宅の玄関まで伸びる長いアプローチ。視界が広がっており魔物モンスターの数もそれなりに多いが、反面──此処に居座る参加者も現在8名程で、参加者同士で魔物モンスターの取り合いをしていると言う状況だ』


『なるほどなるほど♪ 安定した狩場かりばではあるが、それ故に其処そこで稼ぎを行う参加者が被ってしまう状況になってる訳ですね〜♡』


『その通り。あまり此処に固執こしつすると最終的なポイントが不足する可能性があるな』




『──続いてはアプローチの左右から邸宅の側面に広がる迷宮庭園だが、こちらは現在──左右合わせて6名の参加者が乗り込んで魔物モンスターの討伐にあたっている』


『ほうほう……庭園の大きさも申し分ないですし──アイノアちゃん的には此処は絶好の狩場だと思うな〜♡』


『──ところがそう言う訳にもいかない。庭園が迷路めいろのようになっているせいで、参加者は狭い通路で──いつ魔物モンスター遭遇エンカウントするか分からない状況になっている。もし──運悪く複数の魔物モンスターに囲まれてしまうと、一瞬で袋叩きにされてしまう可能性があると言う訳だ』


『なるほど~♪ ハイリスク、ハイリターンな場所と言う訳ですねっ♡』




『次に邸宅内部──此処ここは唯一の屋内だな。現在此処には4名──失礼、例の赤ちゃんも含めて総勢5名の参加者が魔物モンスターの討伐にあたっている』


『屋内はなんだが活気がありませんね〜?』


『屋内まで入り込む魔物モンスターは少ないからな……。安全に狩りができる反面、一番実入りが少ないと言えるだろう』


『此処も固執こしつ禁物きんもつ〜ですねっ♡』



 ワイバーンに乗って邸宅を大きく旋回しながら、アイノアとエスティは少しずつ変化していく状況を事細ことこまかに実況していく。


「フィナンシェちゃーん、スティアちゃーん! 頑張るッスよーーっ!!」


 観客席にいる観覧者かんらんしゃたちも、それぞれの思い入れのある者たちに声援エールを送り続けている。


 そして、戦いの只中にいる参加者たちも、少しずつ──秘めたる真価を見せ始めていく。



 ──ドォォン!!──


『最後のエリアである裏庭の果樹園かじゅえんだが──』

『あぁーーっと、旧邸宅左側──迷宮庭園で爆発だぁーーーー♪』

『──あー、はいはい……爆発ですね〜』

『一体何が起こってるのでしょうか〜?? アイノアちゃん、早速確認チェックに向かいますよ〜♪』


 ──ドォォン──ドォォン──ドォォン!!──


『お〜っと、何事ですか〜っ!? 迷宮庭園で爆発が立て続けに起こっていますね〜!』

『何者かが爆発を引き起こしてるようだな』

『爆発にギリギリまで近付いてみましょ〜♪ さぁ、アイノアちゃんの可愛い下僕げぼく──間違えました〜♡ 可愛い下僕ペットのワイバーンちゃん、爆発の地点へレッツゴー♪』


 迷宮庭園で連続的に発生する爆発に関心を持った実況のアイノアは、ワイバーンを操り“騒動ハプニング”の元へと駆け付ける。


『あぁーっと、爆発の最先端に──迷宮を凄まじい勢いで駆け抜ける二人組がいまーすっ!? アレは誰でしょうかーっ!?』


 アイノアとエスティが目撃したのは──迷宮庭園を爆発をともないながら、ひたすらに駆け抜けるふたりの──少女の姿だった。


「オラオラオラーーッ、どけどけどけどけーーーーっ!!」

「オーホッホッホッ!! さぁ、お退きなさい、このラウラとトウリが──まかり通りますわよーーーーっ!!」


『なんとなんと〜、ラウラ選手とトウリ選手ですーっ!! すっごーい!! 迷宮庭園を迷う事なく全力で疾走しっそうしています!!』

『これは驚いた……! 狭く見通みとおしの悪い迷宮庭園であそこまで爆走ばくそうするとは……!』

『彼女たちは勇敢ゆうかんなのでしょうか!? それとも、ただのおバカさんなんでしょうかーーっ!?』


「────スンスンスン……! ラウラ、次の曲がり角──においが二つ、どっちも“魔犬”だ!!」

「承知しましたわ!!」


『これは──匂いだぁーーっ!! トウリ選手が魔物モンスターの匂いを嗅ぎ取っていますーーっ!!』

『なるほど──犬系亜人種の優れた嗅覚きゅうかくを活かして、魔物モンスターの居場所を確実に掴んでいるのか……!!』


「そのとーり!! 匂いさえ嗅ぎ取っちまえば、迷宮だろうが森の中だろうが──居場所なんて丸わかりなんだよ!!」

「居場所さえ判ってしまえば──後は倒すだけですわーっ! さぁ、行きますわよ〜!!」


『ここでラウラ選手、武器を取ったーーっ!! 身の丈に合わない大きな剣を両手でどっしりと構えて、次の交戦エンゲージに備えています!!』


「──スンスン……動いてる……! ラウラ──あっち側もおれたちに気が付いたみたいだぜ……!! このまま行けば、あの曲がり角で衝突ごっつんこだ!!」

「上等ですわ……!! わたくし華麗かれいに返り討ちにして差し上げますわーーっ!!」


『まさか……ラウラ嬢とトウリ嬢は──!!?』

『まさに、“猪突猛進ちょとつもうしん”!! まさかの脳筋のうきんぶりに──アイノアちゃん、驚きを通り越して感激しています……!!』


「そら──そろそろぶつかるぜ……!! 3──2──1──“交戦エンゲージ”!!」

「さぁ──魔物モンスターさん、ごめんあそばせーーっ!!」


 ──ガッキィィィイン!!──


『ラウラ嬢の構えた大剣と魔犬の牙がかち合って──』

『魔犬が大きく弾かれましたーーっ!!』


「体勢が崩れましたわね……!! さぁ、一気に攻め込みますわ!!」


『そのままラウラ選手──大剣を大きく振りかぶりましたぁ!! このまま一刀両断いっとうりょうだんに伏せるのかぁーーっ!?』


「ふっふっふっ……“爆炎よ 爆ぜろ”──『爆炎球ファイア・ボール』!!」


 ──ドォォオオオオン!!──


『魔法だぁーーーーっ!! これ見よがしに大剣を構えたのに──刀身から出てきたのは、まさかまさかの魔法攻撃だぁーーーーっ!!?』

『あの大剣は飾りなのか!!?』


「オーホッホッホッ!! この大剣は──“飾り”ですわーーーーっ!!」


『飾りでしたーーーーっ!! アイノアちゃん、いま最高に困惑していまーすっ!!』


「そもそも──わたくしのような可憐な美少女が、こんな大剣扱える筈もありませんわーーっ!!」


『ならなんで大剣を背負ってるんだ!!?』


「それは勿論──わたくし、“騎士ナイト”に憧れているからですわーーっ!!」


『単純な理由でしたーーっ!!』


「チッ、ラウラ!! 気を抜くな──!!」


『おおーっと、ラウラ選手が繰り出した魔法で発生した爆炎の向こう側から──もう一匹の魔犬が凄まじい勢いで迫って来ていまぁーすっ!!』

『ラウラ嬢──どう対処する気だ……!?』


「最初の一匹がやられるのを見て警戒してるな……!! ラウラ──同じ手段は通じないぜ!!」

「なら──次は貴女あなたの番ですわ、トウリさん!!」

「────ッ!! はいよ……仰せのままに──お嬢様!!」

「“爆炎よ 爆ぜろ”──『爆炎球ファイア・ボール』!!」


 ──ドォォオオオン!!──


『あぁーっと、ラウラ選手──今度は目の前の地面に向かって“爆炎球ファイア・ボール”をぶっ放したーーっ!!』


「Garrrrrr────!!」


『今の爆炎で視界と匂いをさえぎられて……魔犬の動きが止まった……!?』

『どうやらラウラ選手──魔法を“目くらまし”に使ったようですねー♡』


「さぁ、トウリさん──お行きなさい!!」

「ハイ……よ──っと!!」


『おぉっと、トウリ選手がラウラ選手の大剣を踏み台にして高く跳躍ジャンプ──って、こっちに来ましたーーーーッ!!?』


「よう! ちょっとワイバーン、使わせてもらう──ぜ!!」


『トウリ嬢、アイノアのワイバーンの脚部を踏切台ふみきりだいにして──そのまま地面に向かって突撃していっただと!!?』

『コラーーッ!! 実況役のアイノアちゃんを“役物ギミック”扱いするなーーっ!!』

『まさか……あの勢いで!!?』


「へっへっへっ──ラウラの爆炎で、見えねぇし、匂わねぇだろ……? 同じ『犬』だからな──よーく分かるぜ!!」


「────Garr!?」


「今さら気付いたって──もう遅いっつーの!!」


『トウリ嬢が──右腕を大きく振りかぶった!!』

魔物モンスターに向かって突っ込むトウリ選手の鉄拳てっけんが〜〜くうを切り裂きながら激しくうなる!!』


「お見せしなさい、トウリさん──我が“相棒バディ”!!」

「オラ、喰らいやがれ!! 必殺──」


 うなるは鉄拳。空を断ち、降り注ぐ──若き闘犬のたける牙。


「────『断・空・牙フォーリング・スマッシャー』!!!」


『行ったぁーーーー!!! トウリ選手の鉄拳が、立ちすくむ魔犬に炸裂ぅ〜〜!!!』

『凄まじい威力だな……。上空にいる私たちの所にも衝撃波が……!!』

『あらら〜、魔犬さんが完全に地面にめり込んでしまってますね〜♪』


「──っしゃあ!! おれの勝ち〜☆」

「じゃあ、魔犬さんからも“タグ”はいただきますわー♪」


『ハァーイ♡ アイノアちゃんじるしの“タグ”……ゲットー♡ こちらの“タグ”は〜、2ポイントになってま〜す♡』


「…………何でこの“タグ”……アイノアの声で喋るんだよ……」

「そもそものデザインが、無駄に可愛らしくデフォルトされたアイノアさんなのも……無性にイラッとしますわ……!」


『可愛いでしょ〜♡ 因みにそれ──集めた分だけプレゼントしますね♡』


「「いらんわっ!!」」


『ガ~ン!! アイノアちゃん、せっかく頑張って作ったのに〜〜!!』

『はぁ……ラウラ嬢にトウリ嬢、選抜試験が終わったら捨てていいぞー』

『ちょ、エスティちゃんまで〜!』


「全く……騒がしい実況ですわ……!」

「だな。……ともかく、さっき集めた1ポイントの“タグよっつと──」

「──いま手に入れた2ポイントふたつで……計8ポイント、ゲットですわーーっ!!」


『ラウラ選手、トウリ選手──計8ポイントゲットでぇ〜、選抜試験合格に大きく近付きましたーー♪』


「さぁー、トウリさん! このまま迷宮庭園を突っ切って──裏庭の果樹園かじゅえんを目指しますわよーーっ!!」

「よーし、いっくぜーーーーッ!!」


『おぉーっと、舌の根も乾かぬうちにラウラ選手とトウリ選手──再び迷宮庭園を爆走し始めましたーーッ!!』

『ラウラ嬢とトウリ嬢はこのまま果樹園かじゅえんを──……!!』

『さっすが~♪ そのチャレンジ精神──アイノアちゃんだ~い好き♡』


(流石は──“雀公爵すずめこうしゃく”の御息女ごそくじょきもが座ってますねぇ……♡)


 かくして──ラウラとトウリは迷宮庭園を走り抜ける。


 目指す先は──ラスヴァー家旧邸宅の最奥、果樹園かじゅえん


 アイノア=アスターがかき集めた──選りすぐりの魔物モンスター徘徊はいかいする危険地帯。


 ──ラウラ&トウリ、現在8ポイント。選抜試験合格まで、ふたり合わせて──あと32ポイント。


 選抜試験残り時間──1時間と40分。

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