RE:Play Baby ― その赤ちゃん、史上最強の魔王の生まれ変わり。 〜ちゅいまちぇん、世界の片隅で平穏に暮らちたいので冒険に連れ回ちゅのやめてもらっていいでちゅか?〜
第十八話:ギルド試験狂騒曲⑪/開演 - 天使の歌声
第十八話:ギルド試験狂騒曲⑪/開演 - 天使の歌声
──ギルド支部での騒動から30分後。カヴェレ郊外、ラスヴァー家旧邸宅。
「ひぃいいいい……!! 高い〜、怖い〜、ワイバーンの背中硬い〜……!!」
今は使われていないサルカス=ラスヴァーの大きな邸宅を、囲うように旋回しながら飛行する竜種の
そのワイバーンに取り付けた
恐怖で身を
長さ20センチ程の棒状の杖は、先端にピンク色に発光している魔石が取り付けられており──アイノアがその白くなめらかな指先で“コツンコツン”と魔石を突くと、それに
「ん〜、今日も調子はオッケ〜♪」
その反響音を確認したアイノアは上機嫌にそう呟くと、杖を口元に──魔石にその柔らかなプリンのように弾むピンク色の
『あー、マイクテスト、マイクテスト』
するとどうだろうか──小さく
その響き渡った自分の美声に満足したのか、アイノアは大きく息を吸うと──その魔石に向かって大声で声を上げ始めた。
『紳士淑女のみな皆さーん♪ こんにちっはーーーーっ♪』
周囲一帯にアイノアの声が大きく響き渡る。
ラスヴァー家旧邸宅──中央にある“
『本日は──ギルド冒険者選抜試験にようこそー♪ 今回の選抜試験の舞台はー、此処、今は亡きカヴェレ支部の支配者──サルカス=ラスヴァーさんの旧邸宅からお送りしまーす♪』
「いやいや、ラスヴァーさんはまだ死んでないから……! アイノア、勝手に人を殺すのはやめなさい」
『エスティちゃん、うるさいですー。っと失礼しましたー♡ 今回の舞台であるラスヴァー家旧邸宅はー、なんとあのラスヴァーさんがギルドの為にと、敷地を丸ごと提供してくれたのを使わせて頂いてまーす♡』
「嘘つけ!? あんたがラスヴァーさんがギルド支部の新人受付嬢に手を出したスキャンダルで
『えーっ、何の事ですかー♡ アイノアちゃん、全然分かりません〜♡』
上空を旋回するワイバーンからふたりの少女の喧嘩声が聞こえてくる。
一方、地上──ラスヴァー家旧邸宅の門前。固く閉ざされた大きな門の前には、20人程の人が集っていた。皆、今回の選抜試験の参加者──つまりギルドの冒険者を志す者たちであり、剣や杖、様々な
その中には、ほんの半刻前に──見事、選抜試験への飛び入り参加を勝ち取ったスティアとフィナンシェの姿もあった。
「いいから、君はオイラと一緒にあっちに建てられた観客席で見学するッス!! な、なんて力の強い赤ちゃんッスか──早く、フィナンシェちゃんから離れるッス……!!」
選抜試験の開幕まで残り数分と迫る中──スティアとオヴェラは、フィナンシェの胸に引っ付いて離れようとしないカティスを引き剥がそうと奮闘していた。
「ばぶぶ! ばぁっぶぅうううう!!(約:嫌でちゅー! おれが離れたらふたりが死ぬでちゅううう!!)」
「痛たたたた!! もぉ〜、おっぱいとれちゃうよ〜!!」
「早くフィーネから離れなさいっての、このエロガキ〜!!」
一方、カティスは試験の場に突入しようとするスティアとフィナンシェに同行しようと必死になっていた。
(
ふたりの
故に──カティスはフィナンシェにしがみつき、無理矢理にでも試験会場に乗り込もうとしていた。
「あらあら……誰かと思えば、スティアさんとフィナンシェさん、それに可愛らしい赤ちゃんじゃありませんか? ご機嫌いかがですか?」
カティスを引き剥がそうと擦った揉んだしているスティアフィナンシェに気が付いたのか、軽い挨拶をしながらふたりの少女が近付いてくる。
「あっ、ラウラさんにトウリさん! 昨日ぶりですね♪ ──い、痛い〜引っ張らないで〜!」
「何が昨日ぶりだよ……! おれ達を見捨ててどっか行った癖にー!」
ふたりに声を掛けたのはラウラとトウリ、昨日──
「まぁまぁ、トウリさん。それにしても……
「じゃあ、あんた達も……? ──この、大人しくしなさい……!!」
「オーッホッホッホッ!
「また悪役令嬢みたいな品のねぇ笑い方してるし……。っと、さっきからあんた等、真っ昼間からフィナンシェのおっぱいなんか揉んで何してんだ……?
スティアとオヴェラがフィナンシェに向かって何かをしている事に気付いたトウリが、興味深そうに様子を
「──────何してんだ、この赤ちゃん??」
「トウリさんもこの子を引き剥がすの手伝って下さい〜。あぁん/// ちょっと、そんなに強く引っ張らないで〜///」
「ちょっとフィーネ、変な声出さないでよ/// あたし達が昼間っからエッチな事してると思われるじゃない///」
「例の赤ちゃんがフィナンシェさんから離れたがらないですの? だったら、いっそ連れて行ってしまえば良いのでは……?」
カティスを引き剥がそうと
「な、何言ってるんですか、この
──フィナンシェに凄まじい勢いで怒られてしまう。
「な、
『はぁーい♡ 選抜試験参加者の皆さーん、アイノアちゃんの声──聴こえてますかーーっ?』
フィナンシェとラウラが口論に発展しかけたその時、空を旋回しているワイバーンからアイノアの声が門の前に集まっている参加者達に掛けられる。
その場にいた全員が上を見上げると、そこにはワイバーンに
『もうすぐ選抜試験が始まりますのでー、部外者はあちらにご用意しました観客席へとどうぞー♪ 聴こえてますかー? 貴方の事ですよ〜、オヴェラさ〜ん♡』
オヴェラを名指しで呼びながら、アイノアは大きく腕を使ってラスヴァー家旧邸宅の敷地の側に建てられていた、高さ数メートル程の大きな観客席を指し示す。
「げっ、名指しで注意されちゃったッス……!!」
「この、早くフィーネから、離れて、オヴェラさんと一緒に、観客席に行きなさい〜! こいつ昨日もだけど、力強すぎ〜!!」
(フハハハハッ、莫迦め! この魔王カティちゅがその程度の腕力で離れる訳がないでちゅ!!)
などど、得意気な
『あぁ、そうそう……アイノアちゃん、伝え忘れてましたー♡ スティア=エンブレムさーん、フィナンシェ=フォルテッシモさーん、聴こえますかー?』
──アイノアは、今度はスティアとフィナンシェをご指名してくる。
「えっ!? あたし達、何かした!?」
「わたしは何かされてる途中です〜、助けて〜!!」
『おふたりには〜アイノアちゃんからの
「「────えぇ!!?」」
「ばぶぅ!!?(約:ハァ!!?)」
スティアとフィナンシェに対して、唐突にアイノアから下されたのは『赤ちゃんも連れて選抜試験に参加しろ』と言うとんでもない指令だった。
「ち、ちょっと、あんた何言ってるの!?」
「そ、そうです! こんな小さな赤ちゃんを連れて試験を受けろだなんて正気ですか!?」
『はいざんねーん♡ おふたりは飛び入り参加の身分、アイノアちゃんに逆らう事は許しませ〜ん♡ 嫌なら今からでも参加権利を
「「ひ、卑怯者ーーっ!!」」
『卑怯で結構〜、苦情はエスティちゃんにお願いしま〜す♪ ではでは〜、アイノアちゃんは開始宣言があるのでこれにて失礼〜♡』
アイノアの
「運営からの直々のお
「……だな。あのアイノアって女、なに考えてるか分かんねーから、逆らわないほうが身のためだぜ」
ラウラとトウリの忠告に、スティアは「ぐぎぎっ」と悔しそうな声を上げながら、
それまで引っ張られていた状態だったカティスは、放された勢いでフィナンシェの胸に激突──ポイーンっと言う軽快な音をさせながら、彼女の大きく柔らかな乳房をトランポリンにして大きく跳ね上がる。
「──すげぇ!!?」
「あぁん///」
そして──空中に大きく投げ出されたカティスはそのまま身をくるりと
「ふい〜、ばぁぶばぶばぶ……!(約:ふい〜、やっぱここでちゅね……!)」
「はぁ〜、しょーがないッスね……。と、とにかく
その──傍から見れば非常にだらしのない
ラスヴァー家旧邸宅──上空。
「ぬっふっふっふ〜♡ これであのふたりは赤ちゃんを連れて参加せざるをえない……♪ んん〜、アイノアちゃんってやっぱり天才〜♡」
「…………『
「まぁまぁ、エスティちゃん♡ いざと言うときは──アイノアちゃんが“
「全く……!!」
幼いカティスを
「さぁ! そろそろ始まりますよー♪ エスティちゃんも……マイクパース♪」
上機嫌にアイノアはエスティ用の
やがて──羽ばたきながら、ラスヴァー家旧邸宅を大きく旋回していた二匹のワイバーンは、アイノアとエスティの指示を受けて舞台の側に設置されていた観客席の前で停止し──
設置された観客席には
選抜試験の参加者の親族、野次馬に来たカヴェレの住人たち、未来の後輩もしくは
その
『さあさあさあ……おっ待たせしましたー!! 冒険者選抜試験──いよいよ開幕でーす♪』
アイノアの声は杖の魔石によって大きく、響き渡るように拡散し──
「始まった……!! いよいよだよ、フィーネ……!!」
「うん、頑張ろうねスティアちゃん……!!」
来たる時に──スティアとフィナンシェは胸を高鳴らせる。
夢に観た──冒険者になる為の、試練はすぐそこに。
夢に観た──冒険者への
「さぁ、これで準備オッケーッス!! ふたりとも、応援してるッスよ〜!!」
「ありがとうございます、オヴェラさん……!!」
オヴェラが取り出した白い布製の紐で作られた簡易的な“おんぶひも”によって、カティスはフィナンシェの背中にしっかりと固定される。
(あのアイノアとか言う女……一体何を企んでいるんでちゅかね……? まぁ、おれ的には好都合でちたが……)
「巻き込んじゃってこめんね〜♡ お姉ちゃんが守ってあげるから、一緒に頑張ろうね〜♡」
「ばぁぶ♡(約:は~い♡)」
「いや〜ん、かわいい〜///」
「何してんの……フィーネ……??」
フィナンシェの甘く
(ちまった……乗ちぇられたでちゅ……! おれがフィナンシェを“守る”立場でちた……!!)
──本来の立場に気付いたカティスは首をブンブンと振るうと、ふたりと同じく迫る開幕の時に備え始める。
この先で待ち受けるのは──果たして、ふたりの少女の凄惨な『死』か、それとも早とちりな魔王のただの『杞憂』か?
──それを見極める為に。
『本日の選抜試験──実況を務めますは〜この私!! ご存知、ギルドのアイドル♪ 最高に可愛い〜、アイノア=アスターちゃんと〜〜♡』
『やる気がありませーん、早く帰りたいでーす、解説役のシト=エスティでーす。誰か助けてー』
『──の、ふたりでお送りしっまーす♡♡♡』
カティスの心配を他所に、空中ではアイノアとエスティによる司会進行が続いている。
本日の主役たち──選抜試験の参加者たちを喰いかねない勢いでトークをすすめるアイノアは、ますますヒートアップしたのか、
『さあさあ、可愛いみんなのアイドル──アイノアちゃんの登場ですよ〜♡ 黄色い声援──行ってみよ〜♪』
そして、アイノアが観客席に声援を要求した瞬間──、
「「「“
──凄まじい
(あの女、どんだけヘイトを貯めとるんでちゅかーーーー!?)
『や〜ん♪ ファンの皆さんの熱烈な
雨あられと飛んでくる矢と魔法を騎乗しているワイバーンと息を合わせて
「「「この人間の屑ー!! 日頃の恨み、喰らいやがれーーっ!!」」」
『どこが熱烈な
『あははははは♡ アイノアちゃん、人気者です〜♪』
当然、アイノアに向けられたそれが“黄色い声援”でないのは誰が見ても明らかだった──アイノア以外には。
『こんな状態じゃおちおち実況も出来ないぞ! 万が一、ワイバーンに直撃して
『う〜ん、確かにそうですね〜。──仕方ありません、ファンの皆さんには申し訳ありませんが、少し大人しくして貰いましょ〜♪』
攻撃を必死に避けながら忠告を飛ばすエスティに渋々納得したアイノアは、手にしていた
『
『あ〜、一般
アイノアが構え、エスティが警告を発した瞬間──、
『
──アイノアの天使の様な
『Laaaaaaa────♪』
そして、彼女の歌は瞬く間に観客席を包み込み──たちまちに、放たれていたアイノアへの攻撃はピタリと停止する。
『──まーたやっちゃった……! あんたのその“歌”──
『──えへ♡ 母性溢れる聖母が如きアイノアちゃんの前では──人は皆、“赤ちゃん”になるのでした〜♡』
聴くと精神が
「な──何が起こったんですの?」
「耳塞いでたからよく分かんねーけど、無事じゃねえのがこっちにも
門の前に立つ選抜試験の参加者たちにもその“歌”は響いており──反応が遅れ、耳を塞ぎ損ねた
『あぁーっと、選抜試験が始まる前から脱落しちゃう
『あんたのせいだよ──この人でなし!!』
『残念ですが〜、こんな所でおねんねしちゃう悪い子は脱落ですねっ♪
『元に戻るって断言してあげて!!?』
アイノアは大量の被害者を出したにも関わらず、まるで他人事のように言い捨て──彼女の“歌”の犠牲になった
(アレは──『
カティスだけは──門外不出である筈の『
(アーリアめ……! 何故、エルフ族の秘術を一般に
何故なら、その秘術を知りうるのは──
『外道で結構……!! オヴェラ、フィナンシェは“
(通りで──ラウッカが『
だが、実際にただの人間であるアイノアが『
(まぁいい──今は目の前のことに集中ちゅるでちゅ……!!)
しかし──今のカティスにとってその
(ん〜、さっきの“歌”──あの赤ちゃんには
先程の“歌”を耳すら塞がずに平然と受け流したカティスに──より深い興味を抱きながら、アイノアは再び高らかに声を張り上げる。
『さてさて、アイノアちゃんの
『アレはあんたの“ファン”じゃなくて──“アンチ”だ……!』
『今回の舞台はこのラスヴァーさんの旧邸宅の敷地全て!! そしてそして〜、今回のルールはぁ〜、ズバリッ──
『参加者の皆さ〜ん♡ 旧邸宅の敷地の中をご覧下さーい♡』
「「「「
『あ〜、…………ハイ♡ 失礼しました〜♪ アイノアちゃんが説明してあげますね〜♡』
『この旧邸宅には〜アイノアちゃんが洗脳──こほんっ、アイノアちゃんが仲良くなった
(今、洗脳って言いましたわ!!?)
『そして、
(アイノアちゃん
『その“
『皆さんはその
(いま凄く物騒な言い方をしましたわ!!?)
『その“
「2時間に20ポイントって結構キツくない? 最低でも7匹でしょ?」
『それぐらいの勢いで倒せないと──ギルドの冒険者の看板は背負わせませんよ〜♡』
「だって。とにかく精一杯頑張ろうね♡」
『ルールはご理解いただけましたか〜♡ それでは……いよいよ皆さんの目の前の“門”を開いて──選抜試験を開幕しま〜す♪』
ルールを一通り説明し、アイノアがいよいよ開幕を予告した瞬間──参加者たちの空気がピリッと張り詰める。
『皆さん準備は
その貼り付けた空気をワイバーンの上から観たアイノアは、嬉しそうににやにやと笑うと──再び喉元に“紋章”を浮かばせながら、左手をラッパのように口元に添える。
そして──、
『
術式を唱えると共に、アイノアは小さく
『“
愛らしく、可愛らしく、憂いらしく──ただ、“パンッ”っと──。
次の瞬間──、
──パアァァン!!──
──と、けたたましい“破裂音”と共に、門の
(なんと──
カティスだけは目の前で起きた異常を見抜いたが──他の参加者たちはアイノアがした行為を理解出来ずに立ち竦んでいる。
『さぁー、もう試験は始まりましたよ〜♡』
しかし、アイノアの急かすような実況に促され──参加者たちはそれぞれの武器を取って、勢い良く──戦いの場へとなだれ込む。
「行こう──フィーネ!!」
「うん……一緒に冒険者になろうね、スティアちゃん!」
(はてちゃて──鬼が出るか、蛇が出るか……どうなる事やら)
『さぁ〜、いよいよ始まりましたギルド冒険者選抜試験♪ 果たして──ギルドの冒険者になるのは一体誰か!?』
『愛と勇気──希望が織り成す“
かくして──波乱と混乱渦巻く『ギルド試験狂騒曲』は幕を上げる。参加者たちはまだ誰も知らない。
まさか──あんな大惨事が起こり得るなどとは、まだ誰も。
〜〜〜
『すいませ〜ん♪ 観客席向かってのそのそと走ってるオヴェラさーん♡ 鍵を上から落としますので〜、アイノアちゃんが壊した門に──鍵を掛けておいて下さーい♡♡♡』
「ハァ!!? ふざけんなッス、この人間の屑ーー!!」
『じゃあ、アイノアちゃん……実況で忙しいので〜、これにて失礼しま〜す♡』
「待てやこの…………クッソ
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