第七話:目覚めの時⑦/序曲 〜魔王再誕〜
「はぁ……はぁ……大……丈夫……? ごめ……んね……怖い……思い……させ……て…………!」
自らに『死』の危機が迫る中で──傷だらけの身体を
串刺しにされ、血塗れで
「ごめんね……ごめんね……!」
(自分が死にそうだと言うのに……
彼女たちは助からない──今しがた殺された盗賊たちの様に、あの人形に
(しかし──おれが原因である以上、少しこの
その原因を作ったのが他ならぬ自分である事を、カティスは少しだけ申し訳なく思う。
「お姉……ちゃん、が……最期まで……いて、あげる……から…………怖く……ない、よ……」
フィナンシェの顔には既に
そんな状況でも、自らの『死』が実感出来る程に近付いていても──彼女はカティスに寄り添い続ける。
(
それを観て──カティスは心が
「
カツン──カツン──、無機質な音を響かせて、『
カツン──カツン──、不気味な音を響かせて、『
「やめ……て…………フィー……ネ……逃げ……て…………っ!」
それを観たスティアは必死に立ち上がろうとする。しかし、彼女の命も──もう限界が近付いていた。
出血は
「もう……これ……以上、あた……し……から、大……事な……人、を…………奪わ……ない……で…………!!」
立ち上がらなきゃ殺される、戦わなければ殺される、守らないと殺される──大事な人が殺される。
ただ一人、守りたい『
「
『
「だめ……この子……だけ……は、傷……つけ…………ない……で…………!」
フィナンシェは
命尽きようとも、決して“希望”は諦めない。
(…………
二人の少女の瞳は──
「──
そして、
「フィー……ネ…………!!」
「────ぁあ!!?」
振り下ろされた
ぼとり──、と斬り落とされた腕が冷たい地面に落ちていく。
「あぁ──あぁあああああああ!!」
少女の悲痛な叫びが響き渡る。
「よくも……よく……も…………!!」
死に逝く少女の拳に力が
(
身を
「あぁ──ぐぅ……っ!! この……子……だけ…………は…………絶……対……に…………傷……つけ…………させ……ない…………!!」
どれだけ傷付こうとも、どれだけ絶望的でも──少女は諦めない。
「
それでも『
「ぜっ……たい……に、諦め……ない…………!!」
──絶望が這い寄ってくる。
「
──死が音をたてながら迫ってくる。
「やめ……ろぉおおおおおおお!!!」
それでも──少女たちは止まらない。
「スティ……ア…………ちゃ…………ん…………?」
(……こいつ、まだ動けたんでちゅか……!?)
『
(いや……違うでちゅ!? こいつ、限界を乗り越えて……立ち上がったのでちゅか……!!?)
「やめ……ろ…………フィーネ……と……この子……を…………殺す…………な!!」
既に、いつ死んでもおかしくない状態なのに、彼女は力強く
「
そう言って人形は──ふらふらの状態で立ち
「がはっ……ちく…………しょう…………!!」
そして、スティアが動けなくなったのを確認すると──人形の冷たく黒い腕が、フィナンシェに向けて
たった
(……
けれども──、
「
たったそれだけの──、
「…………やめ…………ろ…………!!」
時間稼ぎでも──、
「…………だめ…………だめぇえええ!!」
たったそれだけの──、
(…………
(…………
──その『
「…………………………え?」
「…………………………な?」
風を
死にかけたふたりの少女の眼に、朽ちかけた人形の眼に、映っていたのは──振り下ろされた『死』を受け止める小さな小さな赤ちゃんの姿。
柔らかな、小さな無垢の手が──硬く、鋭く尖った人形の腕をビタリと受け止めている。
「…………
声が響く──まだ
瞬間──人形は大きく後ろに
「──────
初めて──無機質な人形の声が震えた。
「──弱く、
地下祭殿を
「だが──だからこそ、
フィナンシェの右腕の中で包まれていた無垢な赤子は、その身からは考えられない程の魔力を
「実に──
不敵に笑みを浮かべる赤ん坊から、赤黒く脈打つ魔力が溢れ出す。
「しかと
意識は
「故に──
降り注いだ理不尽に負けず、襲い掛かった不条理に
「喜べよ
──希望を
「──その
──無様に、滑稽に、
「──その眼に焼き付けろ! その魂に刻み込め!! そして、憶えられると後で困るから──記憶からは
──生まれたばかりの小さな『
「────
──人形が大きく
「────許ちぇよ、我が忠実なる
「────おれが目覚めるまで、よくぞ
──『破壊』を
「──アァ──ナント、
僅かに──人形の口元が緩む。待ち
裁定の時は近付く──。
「───
その時はやって来る──。
「────オハヨウゴザイマス、
「────『
撃ち放たれるは“竜の咆哮”。
飛び掛かって来た人形を迎撃するように撃ち出された赤黒の波動は──人形を跡形も無く消し飛ばし、地下祭殿を突き抜けて、
「……………………なに……これ…………?」
薄れ行く意識の中で、今にも消えそうになる命の中で、スティアは
「あの……子…………いっ……たい…………?」
しかし、目の前で
「……………………フィー………ネ…………」
それでも──スティアは最期の力を振り絞り、
彼女の視線の先で、フィナンシェは赤ちゃんを抱えたまま倒れて身動き一つしていない。
フィナンシェの天使のような顔からは血の気は失せており、彼女が持っていた暖かな
──死んでいる。
分かってしまった。分かりたくなかったのに、分かってしまった。
──フィナンシェ=フォルテッシモは既に死んでいた。
最期の最期まで無垢な赤子を守り続けて──守り切る事ができたのを悟ったのか──
「だめ……だよ…………あたし……を、置い……て……行か…………ないで…………」
もう耳は聴こえない、もう身体の感覚はない、もう眼は
それでも、最期まで、一緒にいたい。それが──スティアの最後の願い。
死力を尽くしてフィナンシェの元まで辿り着いたスティアは、彼女の亡骸に抱かれながら
「ごめん……ね…………フィーネ、ごめ……ん……ね……名前……も……知ら……な……い…………あか……ちゃ…………ん」
もう──眼も見えない。段々と、小さくなっていく心臓の音だけが、彼女に感じれるものになっていた。
(…………あたし、こんな所で──死ぬんだ。嫌だなぁ……もっともっと生きたかったなぁ……)
徐々に薄れゆく意識の中で、スティアは希望を夢観る。
(…………ごめんね、フィーネ。あたしの
そして──そのまま眠るように、スティア=エンブレムは力尽きて──死んでいった。
──地下祭殿に聞こえるのは、
ただし──、
「く、くくくっ──はは、ははははははっ!! あぁ──なんて愉快な
「やはり──人間と言う生き物は
「おれをここ
「──だが、
「おれは言ったな? お前たちが生き続ける事を許ちゅ──と。逆に言えば、
「──まだまだ生きて貰うぞ? お前たちはそれ程の、至高の『
「もっと
──その笑い声は、
「…………………………あ~、
かくして──少女たちの命懸けの活躍で、
今はまだ、『名も無き』
そして──世界に
──その日、ヴェルソア平原一帯を、
暗い迷宮の底にて、産声を上げた小さな──しかして強大なる赤ちゃんが轟かせた
それは──生誕を
──今はまだ、知る者は誰もいない。
──第一節:目覚めの時 〜了──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます