第六話:目覚めの時⑥/ある盗賊たちの最期
ラウッカの腹部から突き抜けていた人形の
「が──がぁ、あぁ……がはっ──!!」
あまりの激痛に
「──────っ!!」
既に──ラウッカに意識は無い。身体をガクガクと
「──────ぁ」
そして──貫かれた腹と背から滝のような血を流しながら、眼をグリンと裏返して
(さっき、お前は言いまちたね……。『理不尽も不条理も、
次第に冷たくなっていく腕の中で──、
(これがお前に降り
──カティスだけが、彼女の『
べちゃ──!!
人形が腕を引き抜くと同時に、その腕と言う
「………………ラウッカ………………?」
「…………姐御…………?」
ヴァラスとオヴェラの呼び掛けに──血溜まりに横たわる
そこに『ラウッカ』は既に
「うそ──ラウッカ…………さん、死んじゃった……の…………?」
少し前まであんなに仲良く
(死んだの……? あんなにあっさりと……? 人ってあんなにあっさりと──死ぬんだ──!)
人が死ぬのを目の当たりにするのはフィナンシェにとって初めての経験だった。先程まで力強く命を
「ラウッカさん…………うっ──おえぇぇぇ…………!!」
その残酷な現実を観せられたフィナンシェは、恐怖とショックのあまりその場で
フィナンシェの
「────────
人形は、その場に倒れたラウッカ
「何だよありゃ──何なんだよアイツは!? あのやろう──ラウッカを、殺しやがった……!!」
「ラウッカの姐御が……、ひぃいいい!?」
ヴァラスとオヴェラが突然の
(あれは……
そう──その人形、ボロボロに朽ち果てたこの城のかつての従者は、
では、なぜ今その人形が動いているのか?
(あー、これは非常にマズいでちゅ……)
その答えを知っているのは、
(アレは間違いなく、生前のおれが
──カティスだけだった。
(う〜ん、どう考えても、さっき扉をぶっ飛ばちた時の魔力の
倒れたラウッカの腕から冷たい地面に投げ出されたカティスは、顔に
確かに──スティアの
(空間中に
しかし──先程、閉じ込められた石室から脱出を
着弾と同時に地下祭殿中に拡散したカティスの魔力──この僅かな魔力の残滓を掻き集める事で、人形は
つまり──、
(どー考えても、おれのちぇいでちゅね……。やらかちたでちゅ……)
──完全にカティスの
(……まずい…………あたしもフィーネも怪我でもう……動けない…………このままじゃ、みんな殺されちゃう……!!)
しかし、そんな
「ばぁぶ、ばぶばぶ……!(約:おい、先に
そんな事とはつゆ知らず、地面に転がっていたカティスは目の前に
「
「ばぁっぶ、ばぁああーー!?(約:無視どころか、邪魔扱いーー!?)」
──無視されるどころか、
「
しかしそれは人形が──
「ぐっ……あっ、…………ゲホ……ゲホっ…………!!」
フィナンシェは両手と
「ぅ…………ぁぁ……………!!」
スティアも腹部の刺創によって致命傷を負わされており、碌に身体を動かすどころか──既に余命幾ばくも無い状態だった。
スティアとフィナンシェは既に助からない──『死』に脚を掴まれている。
後は──
(…………
一方で──、
「オヴェラァーーーー! 今すぐけむり玉をまけーー!!」
ヴァラスは『生』に喰らいつこうと、
「り、了解ッスーーーー!!」
オヴェラも同じく、『死』に抗う為に身体と心を奮わせる。
「
人形の冷たい血の瞳が、二人の盗賊に向けられる。
ヴァラスの
撤退──それが彼等の選択だ。
地下祭殿の宝は惜しいが、『命』には代えられない。
ラウッカの事は残念だが、我が身が大事だ。
スティアとフィナンシェは
「────
オヴェラがけむり玉を地面に向かって投げつけると同時に、ヴァラスがナイフを全力で投げつける──。
「────っ!?
──事もあろうに、仲間であるオヴェラに向かって。
けむり玉が地面に当たって
オヴェラの肩に突き刺さったナイフから、
「悪いなオヴェラ……!
「そんな……ひどいッス……!?」
勢い良く突き刺さったナイフに仰け反り地面に倒れ込むオヴェラを、地面に這い蹲るスティアとフィナンシェを、ラウッカの
それを確認する間もなく──ヴァラスは
白煙に視界を
──俺が助かれば良い、俺が生きていれば良い、俺さえいれば『
走る、駆ける、出口へ向かって──早く、速く、疾く──!!
迫りくる白煙よりも疾く──ヴァラスは地下祭殿の出口へと
「着いた……ぜ……!!?」
だが──仲間を囮にして自分だけでも助かろうとした、ヴァラスの
「────
大きく
ガシャン──っと、人では出せない音を響かせて、大きく
着地の衝撃でボロボロの
そして──、
「…………っ!! 上等だ、こんな所でこの俺がやら────」
──ヴァラスが隠していた武器を構えるよりも疾く──彼の首を黒い
(仲間を
べちゃ──!!
白い煙に覆われた地下祭殿の壁に
それと同時に──首から上を失ったヴァラスの身体が、首の断面から勢い良く血を噴き出しながら──
「………………ヴ、ヴァラスの兄貴…………!?」
肩に突き刺さったナイフを引き抜き、傷口を押さえながら、オヴェラは目の前を横切った影の行き先──ヴァラスがいるであろう方向に目を向ける。
既に辺りは白煙に覆われて何も見えない。オヴェラには、ヴァラスどころか近くで這い蹲っているスティアとフィナンシェの姿すら視認出来ない。
「兄貴……やったッスか……!?」
だから──オヴェラは
恐らく、人形はヴァラスを最優先して狙った筈。であれば、ヴァラスが奇跡的にあの人形を返り討ちにしていれば
──甘い考えだ。道具袋に
白煙から人形が出てきません様に。ヴァラスの兄貴が『さっきはすまなかった』って言いながら姿を見せてくれます様に。
甘くて、都合良くて、どこまでも
だからこそ──、
「
「────!? ひぃ、ひぃいいいいいい!!?」
──
白煙から姿を表したのはボロボロの人形だった。全身に、さっき迄無かった筈の返り血を着けながら。
その姿に心の底から恐怖したオヴェラは腰を抜かしながら、這い蹲って人形から少しでも距離を取ろうとする。
のそのそと無様に這うその姿は、まるで
「たす、助けて、誰か助けてーー!!」
涙を流しながら、鼻水を
「──────
背後から、無機質な、不気味な、不条理な──『死』が迫ってくる。ゆっくりと、ゆっくりと──歩く様な疾さで。
「誰か……誰か……オイラを助けてぇ……!!」
──『
次第に白煙は薄まって行く。
そして、オヴェラの視界に映り込んできたのは──。
「………………オヴェラ…………さん………………!?」
──血塗れで、今にも死にそうな顔で、地べたに伏せているスティアとフィナンシェの姿だった。
(……二人に危害を加えなければ、まだ“希望”はあったのに残念だったでちゅね──オヴェラ……)
スティアとフィナンシェに暴行を加えなければ、二人が
オヴェラは、そこで
「…………ふたりとも…………ごめんなさい……ッス────」
そう──二人に
「────
こうして──盗賊ギルド『
しかして──事態はまだ終わらない。人形の朱い瞳が
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