第11話  奴らの生態

コンビニに着くと、別れたほかのメンバーも集まっていた。

コンビニの奥には行方不明だと思われていた亮二の姿もあった。


「亮二!生きてたか!おまえどこに行ってたんだよ!?」


真柄がドッと駆け込んでくる。


「あの戦闘の時、周りを囲まれてな……隙をついて逃げたらその先に歩たちがいたんだよ。いやーマジで危なかったね。」


亮二はいつも通りのヘラヘラとした口調でとんでもないことを話す。

こっちはずっと心配していたというのに……

俺も亮二のそばへ足を運ぶ。真柄が少し嫌そうな表情を浮かべる。


「亮二、生きててよかった。お前がいない間2番隊は桜が隊長をしてくれた。挨拶しに行っとけ。」


「そうなんだ。迷惑かけちゃったな。桜にも挨拶してくるわ。」


そう言うと、亮二は桜の方へ足早に向かっていった。

亮二を見送った後、俺はコンビニの隅で煙幕入りの瓶を整理している歩の方へ向かった。


「歩。ちょっと大事な話がある。今いいか?」


「ん?なんだ、悠希か。何?大事な話って。」


「ここだと目立つ。外に行こう。」


俺たちはコンビニを出て、近くのベンチに腰を降ろす。

外は少し曇っており、かなり冷え込んでいた。


「なぁ、あの俺たちに発砲してきたゾンビたちをお前はどういう風に見てる?」


少し声のトーンを落として話を切り出す。


「これはあくまで考察の一つに過ぎないが……おそらく生前の行動パターンがそのままゾンビに引き継がれているんだと思う。例えば陸上選手がゾンビになったら、そのゾンビもそのままの足の速さになるって感じ」


歩が言った仮説も一理ある。

確かにゾンビらしい動きをするゾンビは今までにいなかった。

だとすればかなり厄介だ。相手は日本が誇っていた熟練の兵士。真っ向勝負で勝てるわけがない。


(弓道部でもたぶん勝てないんだろうな。連射されたら弓を引いてる間に鉛玉食らっちゃうし……)


「歩、お前なんか勝てる方法とかあるか?」


「いや。ないな。正直なところ、スモークももうほとんどない。遠距離相手じゃ近接がメインの俺達には勝てねーわ」


確かになぁ……

それこそ、夜に夜襲でも仕掛けないと厳しいか……

俺たちはとても重要なことを忘れているような……


…………あ。


「「おい!!」」


二人同時に声が出る。

そう。俺たちはすっかり忘れていた。

ゾンビたちは夜には活動限界が来て、動けなくなってしまうということを。


「いけるんじゃねぇか悠希?3部隊に別れて、一斉に奴らをたたけばいけるぞ!」


「確かにな。じゃあ俺たち1番隊は正面から。2番隊は北側。3番隊は南側から攻撃を仕掛ける。お前が2番隊を引き連れて何かしらの合図をしろ。その合図と同時に、俺たちが突入する。」


「お前なんで3つの部隊で分けた?動かないから全員で正面から向かって行っていいだろ。」


「バカ。万が一ってもんがあるだろ。こないだのショッピングモールの時みたいにイレギュラーな奴が居たら一網打尽にされかねないからな。」


歩は「考えすぎじゃねぇのか……」とつぶやくも、この作戦を承諾してくれた。


「なぁ歩。作戦決行は?いつにするんだ?」


コンビニに備え付けてあった時計に目をやると、すでに16時を回っていた。


「そうだな……俺の煙幕とかの準備に少し時間がかかるから……20時出発にしよう。」


「了解。全員にこのことまわしてくる。」


「頼んだ。」


俺は立ち上がり、歩のもとから離れる。

歩も俺が店内に入ったのと同じタイミングで外にいる奴らに声をかけていっていた。


────────


「────ということだ。じゃあ、各自20時までに身の回りの準備しておいてくれ。」


俺は今後の行動について店内にいたメンバーに説明をした。

絶望の顔、決意の顔、いろいろな顔が視界に入る。

俺はゆっくりと前に歩き、飲み物棚の方へ向かう。

棚から一本の缶を取り出し、開けて一口飲む。

それを見ていた亮二がギョッとした顔でこちらを見てきた。


「おい?お前それ梅酒じゃねぇの?完全にアウトだろ。」


そう。俺が開けた缶はジュースのものではなく、お酒。アルコールだった。

もちろんうっかり間違えてのんじゃった。なんてことはなく、意図的にそれを飲んでいる。


「え?ああ。ガソリンガソリン。ハイテンションになったほうが戦いやすいし。それに今の日本じゃ法律違反だろうがそれを裁く奴もいねぇ。いいだろ。いつ死ぬかわかんねーんだ。少しぐらいはいいだろ」


そう言ってまたもう一口、口に含む。

事実いつ死ぬかわからない。そんな状況の中で俺たちは生きている。

多少のことについてとやかく言ったってしょうがない。


「まぁ、飲みすぎるのはよくねーからこの一本だけにしとくよ」


手に持っていた缶をヒラヒラさせながら亮二にそう宣言する。

そこは亮二も妥協してくれたのか、これ以上言及してくることはなかった。

俺は梅酒の缶を持ったまま、外に出る。

人気のないコンビニの裏側に回ると、隠し持っていたタブレットを取り出した。

タブレットを起動させると、ヒロシマ支部から連絡が来ていた


────────────


こちらヒロシマ支部研究科の永井だ。


奴らについてわかったことがある。彼らは日が差している時間しか活動できないようになっていると以前報告を受けていた。

確かにそれは正しい。だが、最近になって新しい個体が発見された。


正確に言うと、新しい個体ではなく新しい行動を取っているPXなのだが。


その新しい行動というのは、夜間の行動及び武装などの状態にあるものだ。

あくまでこれは仮説の一つでしかないが、恐らく奴らは順応し始めたのだろう。


最初の過程では体力のペース配分ができずに動くことができなかったが、徐々に体を慣らしていくことで配分の仕方を覚えた。そんなとこだろう。



それともう一つ。大型のPXについてなんだが、少しわかったことがある。ヒロシマにも複数体出現してね。

そのうち二体をサンプルとしてヒロシマに持って帰ってもらったんだ。

調べた結果、両方の大型に注射の跡が見つかった。

恐らく、何者かが意図的に指したことになる。そっちでも発見されていることから、団体グループだと推測できる。

あれは恐らく君でしか倒せないと思う。


現に、大型を倒すのに平均で15人の死者を出している。


気を付けてくれ。君の部隊の人間の死亡報告はまだ出ていないが、他の部隊の死亡報告は珍しくなくなってきている。

これは他の部隊の人間が弱体化しているわけではない。PXが徐々に強くなってきているのだ。


君と君の仲間の生存を心から願っているよ。



追記


あ、そうそう。最高司令官からの伝言があったんだ。


「どんな方法を使ってもいい。最悪、お前だけでも生きてヒロシマに来るんだ。」


だってさ。やっぱ好かれてるね~

頑張ってくれよ!!



━━━━ WUAO 日本支局研究科 永井比呂 ━━━


やはりこれは全国、いや全世界共通と考えておかしくないだろう。

次の戦いで車両を奪えるか否かで今後の状況が大きく変わることに変わりはない。


(今は目の前のことに集中するのが吉か……)


永井博士のメールに「了解」と一言打ち込み、コンビニの正面に足を運ぶ。


(次の戦い、ある程度本気を出して戦わないといけないな……)


俺は自分の中で一つ覚悟を決め、コンビニの中に入っていった。

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