第10話 激戦の予感

「よし!いくぞ!集中していけ!」


モールについてから約6時間が経った。俺は入口に全員を招集し、前で最後の点呼を行う。


「それと……亮二がいない間のかわりに2番隊隊長をしてくれる、桜だ。よろしく頼む。」


俺は手招きをし、桜を前に連れてくる。

桜は足早に前に出てくると、前を向き「よろしく。」と一言言って戻っていった。

真柄達は一番前で不満そうにしている。


(まぁ、しょうがないよなぁ……)


「北山の襲撃の時に別れた奴らも多分生きてると思う。ここから駐屯地まで約8キロ弱ある。あいつらより先に行って駐屯地周りのゾンビを制圧するぞ」


言い終わると、俺たちは隊列を組んで駐屯地に向かい一斉に歩き始めた。


────────────────────────


歩き始めて2時間。俺たちはゆっくりと駐屯地に向かいゆっくりと進んでいた。

何故か周りにはゾンビはおらず、気味が悪いほどに道路は静けさを帯びていた。


「なあ、悠希。いくら何でもゾンビがいなさすぎない?」


桜が話しかけて来る。

やはり周りの奴らもこのことに気が付いていたか。

普段ならここまでの間に何回か戦闘があるはずだ。だが、モールを出てからの戦闘回数はゼロ。これは明らかにおかしい。


「ああ。倒した跡もみられないな……移動でもしたのか?」


「どこに?」


「そんなもん俺に聞かれても困る。まぁ、生きてたらじきにわかるだろ。」


桜は眉間にしわを寄せながら考えだした。

でも確かに疑問が残る。仮に移動しているとして、一体どこに移動するというのだ。

倒されたというのはまずないだろう。俺が倒した大型ゾンビが残っていたことがそれを裏付けている。

そう考えると、やはり移動が有力な説になるだろう。

だがどこに?

やはり多くの疑問が残る。

堂々巡りになってしまった……


(まだまだやることは山積みか……)


そうこうしているうちに、駐屯地近くの十字路に差し掛かる。


「おい。そろそろ駐屯地に着くぞ。考えるのは一回やめて警戒しとけ。」


桜に注意をしたとき、パンと乾いた発砲音があたりに響いた。

隊列の一番後ろにいた、金、佐藤がその場に倒れこむ。

足を撃たれたようだ。足の部分から道路に深紅の液体がジワジワと広がっていった。


「おい!全員物陰に隠れろ!俺達から見て11時の方向!」


全員が一斉に散らばり、障害物に身を隠す。

その間も銃声が鳴り響き、金達を含める計4人が負傷した。

俺たちが持ってるのはすべて近距離の武器ばかり。

清水達がいたならまだ勝機があったが、あいにくここにはいない。


「こーれは……詰んだかなー」


ゆっくりと障害物の間から敵の様子を観察する。目測で確認できるのは三体。

やはり撃っているのは自衛隊の制服を着たゾンビだった。

精密な射撃はできないのだろうか。全員が身を潜めていると、ゾンビたちはキョロキョロとあたりを見回している。


(完全に視認しないと撃ってはこないか……)


もっとよく観察しようと少し前のめりになったとき、パリンという音と同時に、あたりが一面謎の煙に覆われた。


「おい!!悠希!大丈夫か!?」


走りながらこちらに走って来たのは、北山で別れた歩達だった。


「俺特製の煙幕だ!!作り方は聞くな?企業秘密なもんでね!ほら、さっさとついてこい!」


なんだよ企業秘密って。どこにも務めてないだろあいつ。


「金達は煙幕の間に龍太郎達に担がせた!早くお前らもついてこい!」


歩は煙幕をさらに投げ込見ながら、俺たちの手を取る。

そのまま歩は、近くのコンビニまで俺たちを走らせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る