第9話 休息
ショップングモールに着いた俺たちは各自で自由行動をしていた。朝からのゴタゴタもあり、全員が疲弊している。
休憩は6時間。中のゾンビは完全に狩り切っているので中は一時的だが、安全と言えるだろう。
俺はモールのどこにメンバーがいるかの確認のため、重い足を動かして確認をしていた。
入り口付近に龍太郎の姿をとらえる。
俺が真柄の前を通るとぶつぶつと龍太郎は俺の愚痴を言っていた。
亮二を置いていったことに腹が立ったのだろう。でも、あそこで闇雲に探していてゾンビに殺されるよりかは何倍もいい判断をしたと思っている。
亮二もまだ死んだ確認が取れているわけでは無い。まだ生きている可能性は十分あった。
俺は真柄の横を通り過ぎ、そのまま外に出る。外の空気はこんなことが起きているのにもかかわらず澄んでいた。
深呼吸をし、あたりを見回す。右手には昨日の戦闘の痕がまだ残っていた。
倒したゾンビは腐ることなく、その場に倒れている。
「……はぁ。なーにやってんだ俺。何にも出来てねぇ。ただ戦うことしかできない奴がみんなをまとめようなんて思わない方が良かったのかもな。」
自分自身を責めても意味の無いことだというのはわかっている。が、すでに1人死亡、1人行方不明という結果がある。
歩と一緒にまとめ上げてても、死人が出ているのなら意味がない。
近くの縁石に腰を下ろし項垂れていると、横からコツコツと足音が聞こえた。
ゾンビかと思い、刀を構える。
するとそこにはゾンビではなく、緑色の体液がついたバールを持った生身の少女━━━クラスメイトの一人、夏目 桜が立っていた。
「項垂れてんね。まぁ、今の現状を見たらリーダーやってる悠希は項垂れて当然か。隣座るよ。」
そう言って桜は俺の横に腰を下ろした。
「おう。ていうか、俺らはおまえをこっち側に編成した覚えはないんだが?」
「そう。でも私はこっちに居たいからこっちにいる。今までに私は43体のゾンビを殺した。文句ある?」
「……文句ないです。」
43体。今日の朝だけとは限らないがそれでも十分な戦績だ。
俺たちの刀よりリーチの短いバールでこんな戦果をあげているんだったら、もしかすると戦闘能力は俺たちよりも上かもしれない。
「……あれ、悠希が倒したの?」
桜は昨日俺が倒した大型のゾンビを指差しながら尋ねる。
「ん? ああ、そうだけど?」
そう答えると桜はどこか不思議そうな顔をした。
「んーなんかさ、腕とかの切り口が綺麗すぎると思うの。剣道は一応対人戦闘を想定してはいるけど……それでもつい最近刀を持った悠希がこんなに綺麗に切れるとは思えない」
「あー……お前には言ってなかったっけ。うちの家が天然理心流の道場なんだわ。その影響でちっちゃい頃から刀を握ってきた。だから刀には慣れてるんだ。」
「……なるほどね。まぁ、いいわ。そんなことより私はどこに配属されるの?」
「うーん……2番隊。隊長だな。」
その言葉に桜は目を丸くする。2番隊隊長が意外なようだ。
「隊長って……そこはもともと亮二の枠でしょ?なんで私が……」
「理由は2つ。1つはお前が亮二と同じくらいの敵を倒しているということ。もう1つはお前より強い奴が2番隊にはいないこと。」
「いいよ。隊長は引き受ける。だけどこっちにも条件が一つ。もし、亮二が生きていたら私じゃなくて彼が隊長になる。つまり、私は臨時の隊長ってこと。いい?」
「ああ。よろしく頼む。あぁ、あと武器は?そんなバールでいいのか?」
「いいの。使い続けると愛着が湧いてきてるの。それに、今更武器を変えちゃうとすぐにゾンビたちにやられてしうかもしれないし。」
「そっか。じゃあまた。」
桜はうなずくと「二階にいるから何かあったら呼んで」と言って、またモールの中に戻っていった。
俺も戦闘に必要な物資を集めるため立ち上がり、ゆっくりとモールの中に入っていった。
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