第8話 襲撃
「おい! 悠希起きろ! 戦闘だ!」
歩のその一言で咄嗟に目を覚ます。
あたりを見回すと、夜に見た雑魚寝集団はいなかった。いつも誰か2、3人は寝ている筈だ。
「歩! 何があった⁉︎」
「300メートル下で戦闘が起きてる! 理由は知らんがゾンビの集団がここをかぎつけたらしい! もうお前以外の奴らは下で戦ってる! お前も刀持って下に行け!」
近場にあったライターをポケットに突っ込む。流石に食料を持つとなるとリュックを背負わなければならないため、渋々諦めた。
支度を終えた俺は刀を抜刀し、山を駆け降りる。
戦場に着くとそこにはすでに戦っている仲間たちがいた。
「おい悠希! 遅えぞ! この貸しは今ここできっちり払ってもらうからな!」
真柄が戦いながら叫ぶ。どうやら大量に敵を倒したらしい。真柄の持っているバットは大量の体液で緑に染まっていた。
「おはよう真柄! 朝から客人か! 朝から押しかけてくるマナーのない客人には俺が朝飯食わしてやるよ! マナーのない客人の仲間になった奴はいるか?」
「まだいねぇな! 戦えねぇやつもまだ噛まれてないぜ!」
「了解! おい! 戦ってる奴は一旦引け! 遅れた仮を返してやんよ! 俺が攻撃したらお前らも合わせて攻撃しろよ!」
ゆっくり刀を構える。俺の指示を聞き、戦ってた奴らが下がったのを確認する。
「極・天然理心流『惨禍』」
そう言って俺は走って目の前にいたゾンビの口から刀を入れる。貫通した感触を確かめた後、一気に脳天まで刀を引き上げた。
あたりに血が舞う。1体目を処理した後、2体、3体と次々に倒していく。
ゾンビ側から見たら俺はまるで災害だろう。
俺の攻撃の後、戦っていた奴らもまた前線へと駆け出した。
「ぉーーぃ」
歩か?もうちょっとはっきり喋ろよ。
戦場はゾンビの唸りと真柄、俺の指示で歩の声がかき消されていた。
「ぉーーい! 後ろから大量に来るぞ!」
五百体ほどだろうか。
そこにある全てを飲み込む勢いでこちらに向かってくる軍勢があった。
矢野と清水がすかさず弓を引く。ほぼ全ての矢を当てたが、それでもほとんど光景は変わっていなかった。
「おい! 歩! まさかこれ北山の裏の町から来た奴らじゃないだろうな⁉︎」
「多分そうだ。にしてもなんで同じタイミングで2方向から同時に登って来たんだ……?」
歩はスッと下を向き、長考モードに入る。一回こうなると少なくとも2時間はもとにもどらない。
完全にゾーンに入られると、誰も手をつけられなくなる。
しかし結果は案外すぐに出た。
「今はそこじゃない!戦闘隊長!物資はまた取ってくればいい。今は“全員が”生きる指示をしろ!これはお前しか出来ねぇ!」
“どうして”ではなく、“どうやって”の事を考える合理的な判断。
さすが参謀、覚悟が違う。
「前の敵はもうさほどいない! だけど殲滅にはもう少し時間がかかる! 龍太郎! 3番隊を連れて戦えない奴らを護衛してくれ!」
龍太郎は「わかった!」と言い、下で戦ってるメンバーを招集しに行く。
「私達はどうしたらいい?」
清水が聞いてくる。
正直、遠距離系はなるべく戦闘に参加して欲しい。が、矢野と清水を分けると文句を言われるのは明白だ。
「お前は矢野と一緒に歩の援護をしてくれ!」
清水は少し嬉しそうに「わかった」と言うと、素早く戦えない人の誘導を始めた。
「歩! 2日後、駐屯地の正面の道路付近集合でいいな?」
「わかった! こっちもそれまでに色々準備しとく! 生きろよ、悠希!」
「お前もな! 歩!」
そう言い残し歩は別方向に駆け出し、俺は戦場に戻っていった。
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歩と別れ、戦場に戻る。残って戦っている隊員に背後からもゾンビが攻めてきているということを伝えつつ俺は周りにいるゾンビの頭をハネ落としていく。
「一回ここを突破するぞ! 挟み込まれたら元も子もねぇ!」
叫びながら前に進む。反対側のゾンビが登ってくるまでにここを突破しないと1、2番隊は全滅は免れないだろう。それは周りも重々承知していた。
しっかりと周りのゾンビを駆逐しつつ、山を降っていく。100メートルほど降った時、後ろから何かが落ちてくる音がした。
後ろを振り向くと、そこには先ほど後ろにいたゾンビ達が頂上からゴロゴロと落ちてきていた。
アニメ化したら放送事故レベルのグロテスクな落ち方をしている。転がっているゾンビの四肢は取れ、腸や脳みそが周囲に飛び散っている。まともに山を降りてくるゾンビはいなかった。
叩き起こされてから数十分経った頃。なんとか俺たちは山を降り切った。
後ろからはゴロゴロとゾンビが転がってきている。
「ハァ……ハァ……あっぶねぇ……後少し走り出すのが遅れたらみんな死んでた……」
全員息が上がっている。周りにはもうゾンビはいなかった。
襲撃されてから30分。
「物資の大半を失ったものの、人的被害は0。みんなよくやってくれた」
しかし周りは何やら落ち着かない様子。
「人的被害は1だ」
真柄からの一言で俺は、直ぐに誰が欠けているか気づいた。
「おい……嘘だろ? 亮二! 亮二はどこだ?」
歩について行った矢野、清水、そして非戦闘員を除いてもやはり一人、亮二の姿だけがここから消えていた。
「……死者は0だ。無くした物資を集めて駐屯地へ向かうぞ」
「おい! それでいいのかよ悠希!」
真柄が叫ぶ。
真柄は亮二と幼稚園からの仲だ。俺なんかとは非にならないくらいの年月を過ごしている。
いつも楽しげに話していて、これ以上ないコンビでもあった。
「おい! 聞いてんのか! なんか言えよ!」
俺は言葉が出なかった。タイムリミットまで二日。
どう考えても歩チームが二週間以上生き残ることはできない。
しかもそれはゾンビの襲撃がなかった場合だ。現状、そんなことはありえない。どこにいても必ず奴らを見かける。
正直言って別れたのは苦渋の決断だった。
だが、仕方がない。ここでモタモタしている暇などないのだ。
全員に駐屯地に行くようには伝えてある。亮二とて馬鹿ではない。無事にゾンビ達から生き残って駐屯地に行っているという可能性に俺は賭けるしかなかった。
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