第6話 会議と家族

 あれから一週間が経過した。

 山の頂上には木製の小さな家がポツポツとでき始めていた。

 幸いにも、清水の両親が建築関係の仕事をしていたので彼女が指揮を取り、仲間たちをまとめていた。

 昼は山の周りの警戒をし、夜になったら交代でホームセンターに角材とテントを回収している。

 そして今、12月7日午後8時。とうに日没の時間も過ぎて真っ暗な山の中に一つの明かりがあった。


「よし。第二回作戦会議を行う。今回の議題は駐屯地制圧作戦の概要についてだ。」


 歩が淡々と話し始める。

 この会議に参加しているのは前回と同じメンバーだった。


「なぁ、その前に一つ確認させてくれ。この作戦、もし駐屯地が奴らによって制圧されてなくて自衛隊が動いていたらどうする?」


 俺が歩に質問を投げかける。


「その時は全員の保護と同時に広島まで送ってもらえるように提案する。今はあくまでも駐屯地が壊滅していると仮定して話を進めていくから。」


「りょーかい」


「じゃあまず俺が考えてる作戦の概要を説明する。明日、まず全員で駐屯地まで歩いて移動する。そのあと、1〜3番隊を先頭に攻撃を仕掛ける。また、戦えない人はその時に無線、銃器、弾薬の確保を行う。ある程度制圧したらトラックを使って出雲からおさらばする。これが今作戦の主な概要だ。質問は?」


 机の上に広げられた出雲の地形のマップを指差しながら説明する。


「ねぇ、ルートはどうするの? 山の中通るのは危ないし、かと言って夜に移動するのは危なすぎる」


 清水が質問を投げかける。


「それなんだが、夕暮れどきに移動しようと思ってる。夕暮れだったら奴らの動きも鈍いだろうしな。それに、10キロ以上離れたところに向かうにしても着くのは深夜3時くらいだろ。その時間じゃ、まずゾンビは動いてないぜ。まぁ、うちには真剣持ってる悠希くんもいるしね。」


「俺に振るなよ。まぁ、ひとつ言えることはこの一週間鍛錬してきてるからゾンビに遭遇しても多分負けることはないってことかな。」


 そう。俺たちはこの一週間何もせずにダラダラ過ごしてきたわけじゃない。3時間素振りをした後、木材をゾンビに見立てて頭部を狙う練習を毎日してきた。少なくとも、一週間前よりかは強くなっているはずだ。


「おー頼もしいね。後方支援は僕と清水に任せてよ。」


 矢野がニコニコしながら言う。

 やっぱり、矢野と清水は二人で一組って思ったほうがいいかもしれない。

 実際、清水が指揮を取ってる時も率先して役割を見つけては完璧にこなしているところを多々見たことがある。

 まぁ、矢野たちは普段の学校生活でもくっついてたからな。


「おー頼むぜ弓道部。因みに矢の本数は何本ある?」


「ざっと120本。今後のことを考えたら30本くらいしか撃てないと思う。まぁ、今回の的は弓道の的の4倍くらいあるから多分外すことはほとんどないと思うよ」


「わかった。じゃあ、多数決を取ろうと思う。今回の作戦に賛成の人。挙手。」


 歩がそう言うと、5人全員が手を挙げる。


「満場一致ってことで。じゃあ悠希、全員に作戦の要項を伝えた後に各々のやることに取り掛かってもらっていいかな?」


「了解」


 俺はそう言って休憩所の方で休憩をしているメンバーたちに要項を伝えに行く。


「━━━ということが今回の作戦の内容だ。大丈夫。この一週間は部活以上の鍛錬を続けてきた。自分に自信を持て。以上だ。この後は自分たちのやることに取り掛かってだとよ。解散!」


 解散の号令をかけると各々自分たちのやることに取り掛かっていった。


「なぁ、悠希。ちょっといいか?」


 自分もやるべきことに取り掛かろうとした時、後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには亮二の姿があった。


「おー、どうした亮二? なんか聞きそびれたことでもあったか?」


「いいや、そうじゃない。ちょっと少しいいか? あんまり人に聴かれたくない話なんだ。」


 亮二がいつになく真剣な眼差しをこちらに向けてくる。

 普段ふざけている亮二がこんな風に真剣になると言うことは何か特別な事情でもあるのだろう。


「ん。わかった。じゃあ俺今からショッピングモールに行って食料の補充に行くからそこで話そうか。」


「おう」


 俺は歩に「ちょっと亮二と食料の補充に行ってくる」と伝え、亮二と一緒に山を降りて行った。


 ━━━━━━━━━━━━━━


 普段は夜でも車の通りが多い農道沿いを俺と亮二は歩いていた。

 この街が壊滅してから車の通りはなく、虫の声があたりに響いていた。


「で、亮二。話ってなんだ? お前があんな顔をするんだ。大体の話の内容の予想はつく。家族のことだろ?」


「ハハ……やっぱりわかっちゃうかぁ……」


「バカ、何年お前と付き合ってんだよ。流石にそんくらいわかるわ。」


「そっかぁ……あのな、俺多分家族はゾンビになったと思ってるんだ。でも、最近夢に出てくるんだ。両親と弟たちの顔が。」


「まぁ、ゾンビになっただろうな。というか、そもそももう俺たちはもう大人に縋って生きてはいけないんだ。あんまり親のことは思い返すなよ。」


「なぁ、悠希。お前はどうなんだ? 親とか心配じゃないのか?」


「俺か? 俺は全然だな。小さい時から父親には竹刀や鉄拳が毎日のように飛んできて痛い思いばっかさせられてな。理不尽なことで怒られることとかもしょっちゅうさ。しかも、母親に関しては助けてもくれなかったんだ。俺はそんな家族が大嫌いだ。だから全く心配はしてない。」


「そっか。でもお前って小四くらいの頃から剣道やり始めて強くなったよな。あれって何があったんだ?」


「ああ、それは普通に何かに熱中したかったからだな。特に深い意味はねぇ。」


「そっかぁ……でも……悲しいなぁ……ずっと一緒だった人たちが急に消えるのは。」


 亮二の啜り泣く音が聞こえる。

 亮二にとって家族とはいなくてはならないほどの物なのだろう。

 正直、俺には亮二の気持ちがよくわからなかった。恐らく育てられてきた環境の差だろう。亮二は両親から愛情を注がれて生きてきた。一方俺は酒癖が悪く理不尽に叱ってくる父親と、それを見て何も言わない母親によって育てられてきた。

 世間的には亮二の家庭が一般であり、理想的な家族なのだろう。俺はそんな亮二の家庭が羨ましかった。


「……お前は幸せだな」


「え?」


 つい心の声が漏れてしまう。


「あぁ、ごめん。つい…… なぁ、亮二。俺はお前は幸せだと思う。その幸せを与えてくれた両親には感謝すべきだとも思う。そんで、お前の両親を殺したゾンビの原因を一緒に突き止めようぜ。それが今は亡きお前の両親にできる精一杯の弔いじゃねぇか?」


「あぁ……そうか。お前から見たら充分幸せか……わかった。もうこの話はやめだ。ほら、もう着いたぞ悠希。行こうぜ。みんな腹空かせて待ってるかもな!」


 そう言って、亮二は涙を拭き店内へ進んでいった。


「……ほんとお前のそういうとこが羨ましいよ。」


 俺もそう呟き、亮二の後を追った。

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