第4話 作戦
激戦から数時間。時刻はすでに午後2時を過ぎていた。
時刻的には1日の中で一番暑い時間帯だが、俺たちの体には寒気が走り続けていた。
俺と亮二、それから歩の3人は日当たりの良い窓際に腰を下ろしていた。
正面玄関には交代で見張りをつけるようにしている。
「なぁ、悠希。なんでお前ってゾンビが出てきたりしても平気なんだ?普通ならめちゃくちゃ焦ったりする気がするんだけど……」
泣き止んだ亮二が不意にそんなことを聞いてきた。たしかに、現状では先生たちの避難指示も断り、バリケードによって防がれていたゾンビたちもわざわざ危険を冒してまで掃討しに行った。
普通の中学生ではそんなことはしない筈だ。てか、絶対にしない。
「うーん……俺は元々ゾンビアニメが大好きなんだ。そんでいっつも見終わったら自分が主人公みたいになったらどうするんだろうなぁって妄想してるわけ。だから俺から見た今の状況は自分の妄想が現実に起きてるって捉えてるんだ。例えば、先生が避難指示を出しただろ? あれは実はアニメだと避難会場にゾンビがいることが十八番なんだ。だからわざわざ清水を言いくるめて行かなかったわけ。」
「は、はぁ……」
俺が熱心に喋っていると、亮二がやや引きな目でこちらを見ていた。
何か間違ったことでも言ったかな……
「お、お前ってゾンオタなんだな……なんか意外……もっとガンオタとか武器オタとかそーいう系統のヤバい人間かと思ってたわ。」
「俺そういうふうにみられてたんか……間違ってねぇけどもさ……俺は世間でいうルールがわからないようなヤバいやつではない。」
キッパリと言い切ると即座に歩が話に入る。
「いーや、やばいやつだね。お前さっきの戦ってる時どんな顔してたと思う?無茶苦茶笑ってたぞ。上から覗いてたけど流石に引いたわ。」
……マジか。俺笑ってたんか!?
まぁ、真剣を振るのは楽しいけれども……なんかヤバいやつじゃん。
というかそもそもマッドサイエンティストみたいな歩にそんなこと言われたら俺もう終わりだろ。
静かに焦りを感じていながら俺はゆっくりと腰を上げた。
「悪い。そろそろ見張り番の交代の時間だ。歩は早く奴らの特徴を調べといてくれよ。」
「あーそういえばそのことなんだけどさ、ちょっと前からゾンビの速度が速くなってきてるんだよな。幸いこっちにきてないからいいけど……一部に緑の肌も見えて怪しいし……仮説としてはゾンビもの定番の夜に行動するってことができないんじゃねぇの?」
「え、それマジ? そうしたらだいぶ戦略立てやすいけど…」
「まだ仮説の話だ。まぁ頭の隅にでも置いとけ。あと作戦立案は俺だからここを出たら従ってもらうぞ」
「あいあい。その仮説を調べてくるわ。引き続き見といてくれ」
「ういー」
……たしかに一番暑い時間だったから俺の動きも鈍って気づかなかった。
鈍い動きでも割と優勢に戦えてたのはゾンビも鈍っていたからか…
そうなれば夜間の作戦が増えそうだ。あ、あと電気も最低限にしないとな。
俺はこれからの事をぼんやりと考えながら正面玄関へ向かった。
ゾンビ発生から8時間が経った。
日はすでに沈み、あたりは薄暗くなっている。
そんな中、中学校の西側の窓から明かりが漏れていた。
長机に歩を中心として、俺、清水、真柄、矢野の5人が代表として集まっていた。
「では、これより今後の作戦会議を始める。」
緊迫した空気の中、歩がゆっくりと喋りだす。
太陽の光がささない夜になるとゾンビが行動できない事が分かった今、この暗闇の時間になんらかのアクションを起こすしかなかった。
「まず、俺が考える案は今夜全員で北にある山へ移動。そこから駐屯地に行って武器を調達するって案だ。こうすることで、今後想定される敵への対処及び広島への行動がしやすくなると思う。」
歩が真っ先に提案する。
その案は、校舎の北側にある山へ移動するものだった。たしかに、山に入ればゾンビには襲われはしないが別の問題が発生する。
山の中には鹿や猿などの動物が住んでいる。そこでもし、鹿などではなく熊が出てきた場合、俺たちは一瞬で肉塊になってしまいかねないのだ。
「正直、このまま籠城はダメなのか? 夜にコンビニかどっかで食料だの衣類だのはパクってくればいいんだし。第一、広島に行くって言ったってあっちにゾンビが発生していたら何の意味もないじゃないか。」
真柄が発言する。
たしかにそれの選択肢もなくはない。
だが、助けがこらず、ずっと籠るってなるといつ正面玄関の守りが崩れてゾンビたちに突入されるか分からない。しかもずっといると周りの店からはどんどん食料がなくなっていく。持って1ヶ月くらいが限度かなぁ
そこを考慮するとこの案はあまりよくはないか……
「おーい、悠希はどうなんだよ?」
歩と真柄のふたつの案で会議が白熱する中、さっきからずっと出た案に対して考え事をしていて発案を一向にしない俺に呆れたのか歩が俺に声をかけてきた。
「うん? いやー正直俺は歩より頭は良くねぇから勝手に決めてくれ。俺は言われた通りに動くよ。指揮官殿。」
「いや、それじゃダメなんだよ。せめて誰かの案に賛成か反対かは教えてくれ。」
そこで俺は今まで考えたメリットとデメリットについて語った。
「……だから俺は歩の案の方がいいかなって思ったよ。」
「お前……意外とまともな発言するじゃん。正直お前ってバカだから何にも考えずにベラベラ喋るかと思ってた……」
真柄が意外そうな顔を向けながら俺へ賞賛の言葉を述べる。
どうも舐められてんだよなぁ俺って……まぁ、まともに意見を出したのはこれが初めてだけどさ……
「ま、そろそろ答えを出さないとね。そろそろ行動しないともう一日ここで戦闘することになっちゃうよ?」
矢野が優しい口調で提案する。ふと時計に目をやると既に10時を回っていた。
つまり、2時間以上も議論をしていたことになる。
たしかに、仮にこれ以上続けて歩の案になったとしても、もう1日はここにとどまることになる。
そうすると、今後の作戦に支障が出るはずだ。
「まぁ、多数決以上の公平性はないよな。」
俺が確認すると全員が首を縦に振った。
「じゃあ、歩の案に賛成の人は挙手ということで。」
そういうと、俺と歩、そして矢野が挙手をした。
そして、手をあげていない清水と真柄は籠城案に賛成と言う結果となった。
「じゃあ、歩の案で行こうか。作戦決行は約1時間後の11時からだ。それまでに、仮眠でもなんでもしといてくれ。あと、抜刀隊はこの作戦をみんなに回しといてくれ。」
「了解」
そう言って作戦会議をしていた俺たちは教室へ足を運んだ。
作戦決行まで残り1時間弱。
この作戦が俺たちの全てであり、命をかけるのもだと言うことをこの5人の誰もが理解していた。
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作戦会議から約1時間が経過した。
俺はあのあと、全員に作戦内容を伝えたあと15分の仮眠を取り終え、周りを見渡すとまだ何人かは眠りについている。
今日一日、色々なことがありすぎて全員疲れていたんだろう。周りの奴らが起こそうと体を揺さぶっても一向に起きる気配はない。
俺も教卓で突っ伏して寝ている歩を起こしに行くことにした。
「おーい、歩ー。時間みろー作戦がパァになっちまうぞー」
「……うるさいですわね……」
「あ? 今なんて?」
「……もっと寝さして、」
「女かテメェ!」
「は、男だが? さわる? ねぇさわる?」
「あぁうるさいうるさい! さっさとするぞ」
「へいへーい」
テンションがおかしい指揮官でいいのかはさておき、俺たちは山に向かうことにした。
幸い、歩が魔改造して生態系がぶっ壊れてるかもしれない。
しかし、山はここのあたりで一番見晴らしがいい。
司令塔にはもってこいな上、獣よりも山の地形を知り尽くしている歩がいる。
ここは任せても問題ないだろう。
「さてと、いきますかね。あ、歩。ブルーシートやら毛布やらなんやら色々持ってきといてくれ。俺は刀とか持ってくから。」
そう言って俺は立ち上がった。
それに合わせて、他のメンバーたちも立ち上がる。
ゾンビ発生から11時間。俺たちは反撃作戦を決行するため、移動を開始した。
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