『は じ め て の ざ つ だ ん は い し ん』

『 は じ め て の ざ つ だ ん は い し ん 』


 デビューして早くも?週間が経過した。事務所の力もあって早くもチャンネル登録者が?万人に到達していた。マネージャーが良いペースだよ、と喜んでいた。良いペースってなんだ、と思った。

天野さんとコラボしたし、それきっかけで今は他の先輩と何をするか決めている状態だ。

配信のメインは相変わらずゲーム(特にホラーゲーム)で、そういえば雑談を設けていなかったことに今更気づいた。

またやらないとそれはそれで何か言われそうでそれも嫌だったから、仕方なく枠立てを行うことにした。タイトルは「 は じ め て の ざ つ だ ん は い し ん 」。

あまり話すことに自信がないからすぐに終わるかも、と保険を概要欄に掛けておいてから配信を行うことにした。

 配信を予定通りに開始し、一旦息を吸ったものの、ため息としてそれを吐き出した。


「今まで何となくで雑談配信っていうのをしてなかったんだけどさ、気づいた。自分、そんなに話したいことがないのかもしれない」


 そう切り出すと、チャットでならばと思ったのか、話題提供がされた。

「コラボでは結構話せてた気がするんだけど、あれは天野さんが凄かったの?」。

これが気になった。あぁ、そっちだと話せていたんだ。他の先輩のときについては触れられていないけど、らしいのか。


「これ、触れるか」


 と、そのコメントを読んでいく。と、他の先輩とのコラボでも話せていたよね、とか

何なら話を盛り上げていってたし一人で話すのも得意なんじゃと思ってた、なんて意見も。


「自分で何かを拾って話すのって難しくない? 独り言でもなく、誰かと話しているわけでもなく、一人で知らない誰かに向かって何かを話すのって。

配信経験ある人ならわかるんじゃない?

でも話すより自分の意見を何かに書き込んでく方が得意かも。ツイートは単にしてないだけだけど」


 ツイートしろ、天原。 という文面はしっかりと無視させていただいた。


「コラボしたいとかは話すか。これきっかけに切り抜きとかで広めてもらえれば助かるし……鳩だけはやめてね、それ以外の広め方で」


 視聴者から思ったよりも話題が提供されたし、自分が普段下ネタを話していないからかそういった話題がチャットに表示されることも殆どなかった。もしあったとしても、自分は無視していたが。


「天原って名前だけど、どうして名字はあるのに名前はないの?」


 そんなこと聞く、と一瞬目を見開いたが、そういえばあの事務所から何か言われてた気がする。

「自分は天原であり、天原の構築者だ。天原の行く末をどうするかは全部君に委ねている。

何か、そういうこと好きそうに見えるし」

こんな感じのこと。後半はともかく、天原とは何なのか、を定義するのは紛れもない自分なのだと今更知った。というより、思い出していなかっただけなのかもしれあい。

 じゃあ、天原って何だ? 天原にはどうして名前がなくて、天原は何者で、天原は何?

しばらく考え込んでいたからか、チャットで大丈夫? というコメントが沢山流れていった。


「あ、あぁ。大丈夫。自分のこと、そういえばちゃんと話していなかったかもしれないね。

それなら今度、少しだけ天原のことを話す配信か何らかをする、これでいい?」


 初めての雑談配信はその話を最後に、僅か30分で終了した。

自分が何者なのか、考える必要性が出てきた。


 PCのWordを開いて、題して「天原とは何か」。書きまとめてみることにした。


「天原とは何か」


 題して「天原とは何か」。

 だが、気づく。何をどう書けばいい。そもそも初配信したときに自分は天原で学生で、なんてありふれたことしか話していない。ここに何か特異的な裏を持たせたら、面白いのだろうか?

本当はもう死んでいる、とか人間ではない、とか。これまでの人生がまともじゃないとか。

他の先輩たちにも設定というか、こういう事情があって始めました、とか云々あるらしい。そこを参考に、てかそこ自分、公式サイトだとどうなってたっけ?


「天原 

名前はそれだけ、どうしてそうなのかは本人も知らない。どこにでもいるただの学生」


 そんなことあるか、ってくらいに情報量がなかった。そういえばこれ決めといてね、ってマネージャーさんが話していたのかもしれない。完全に忘れてた。

 ツイターに「今度、機会があれば天原のことをちゃんと話す配信をする、おやすみ」とツイートした。尚、これに関しての具体的な日立てはない。


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