第31話「ん?」

 寮内



 そこでは夜ご飯を食べたあとの時間が流れていた。

 

「——っということで、明日皆で深奈さんのお見舞いに行きましょう!」


「いいね!神田君も喜ぶんじゃないかな」


「久々に喋る気がするわ」


「確かに…」


「まあ私と日菜ちゃんはもう話しちゃったんですけどね」


 深奈が寝たきりのとき、私たちは学校終わりに必ず深奈のところへ行っていた。

 だから会ってはいた。ただ話せないだけ。


 でもそれが一番怖く感じていた。


 でも実際、起きたら元気だったし何かしらの後遺症もないように見えた。

 起きたことによって何かが変わるとも思えないし、羽咲さんと保健室の先生もいるから大丈夫だと信じます。

 

 それはそれとして私はこの二週間、ずっと気になっていることがあり、それのことばかり考えています。


 それは、最後に私たちの目の前に現れ深奈を攫おうとした女性の言葉。



『あなたも彼のこと好きでしょ。でもごめんね?もう私のものだから』



 意識が朦朧としてる中、確かに言われた言葉。


 この言葉がずっと頭から離れない。

 そしてこの言葉が頭で再生されるたびに、


(っ………!!!!)


 顔が熱くなります。


 そんなわけない。あり得ない。

 何で私が熱くなってるのか分からない。


(てか、あの人は私の何を知ってるっていうんですか)


 少し火照った頬を髪で隠しながらゴニョゴニョ言っている七瀬をニヤニヤしながら見ていた椿が言う。


「七瀬ちゃん、ついに本気で……………」


「な、何ですか?」


 七瀬が恐る恐る聞き返す。


 すると椿がさらにニヤニヤしだす。


「何ですか!はっきり言えないんですか!」


「ど、どうしたの七瀬?顔真っ赤にして……」


 七瀬の声に驚いて南が反応する。


「い、いや……」


「南ちゃん、今はそっとしておいてあげて………。彼女は今、人生の分岐点に立っているのよ…」


「立ってませんから!」


「七瀬が顔真っ赤になる程に怒ってる!?」


 何なんですか!全く椿さんは!

 ………?


「………………」


「……………………」


 ぽーっと七瀬のことを眺めていた椿のことをじーっと見つめる美坂。


「? どうしたの、小南ちゃん?」


「…………いや………」


「?」


「…………神田さんが大変そうだなって……」


「? ………………ん?」








保健室


 体を拭き終わったあと、特に話すこともなくシーーン、という時間が流れていた。

 そこで先生がシャッとカーテンを開け口を開く。


「そろそろ羽咲さんも来ると思うから、心の準備しといてね」


「え? 心の準備?」


(別にいらない気がするんだけど………)


 と、そんなことを考えていたら廊下の方からとんでもないスピードで走ってきている音が聞こえ始めた。


「………………………」


 この時間に生徒が学校にいることは無い。


(こんな時間に廊下をガチで走るような先生がいるんだろうか………)




 ダッダッダッダッダッダッ……………!



(…………ふぅ………………)




 ダッダッダッダッダッダッダッダッダッ!


(なんかめっちゃ近づいてきてない?)


「あの、これなんですか?」


「………はぁ。全くあの人は………」


「?」


 先生が首を横に振って呆れた表情になっている。

 何か来るのか? あの人?


「深奈君」


「は、はい」


「頑張ってね」


「e………」



 ドバァァァァァァァン!!!!



「ギャァァァァ!?!?!?」


 俺は喉が壊れるほどに叫んだ。

 き、急に、ドアが……………ドアが吹っ飛んだ!?


「ちょっ、何ですkうぶゅへえ!」


 何かに締め付けられている! 敵?

いや、それにしては随分と柔らかい………。

 この感じ、何者かに抱きつかれてる?


「っ……うっ………うぅ………っ」


(え、泣いてる?)


「ちょっ、だ、誰ですか?」





「っ……じんなぐゥ〜〜〜〜〜んッ!!!」





「えええええええええええ!?!?」




 それは、めちゃくちゃに泣きじゃくってる羽咲さんだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る