第29話「刺客」


「私の寮生になにしてるのって聞いてるんだけど?」


 今まで羽咲さんが怒ってるとこ見たことないから分からんかったけど、これは怒らせちゃダメなやつだ。


「喧嘩売られたんだよ。だから教育してやっブフォッ!!!!」


 羽咲さんがゴリラの顎に鉄拳を喰らわす。


(いや、殴るモーションは?見えなかったのだが)


「……この状況でふざけられるってことは、まだ余裕があるのよね?」


「うぅぅ……っ!あ、あおあぁっ…!(顎がぁ)」


 砕けてる……。


「皆んな!!!」


 後ろから呼ぶ声がした。

 振り向くとそこには日菜がいた、のだが……。

 

「日菜!?」


 足、大怪我してるんだけど!?


「ヒナ!その足、その怪我の仕方って……」


「えへへ……無理しちゃいました……」


(この子は後先考えなくなるタイプの子か)


「バカ!こんなになるまで走らなくて良かったのに!」


「日菜ちゃん歩ける!?すぐ手当てしに行かないとダメだよ!」


「嫌です!皆んなで戦ってるんだから皆んなで勝敗を見届けないと意味がないです!」


(この子は時折頑固になるタイプの子だ)


「いや、もう終わってる………」


「「「え?」」」


 ほ、本当だ。ゴリラがあっちで倒れてる………。

 羽咲さんがこっちに駆け足で近づいてくる。


「皆んな!!早く保健室行こう!…って深奈くん!?」


「え?」


「え?じゃないよ!!血だらけじゃない!」


「そうよ!アンタの傷だと戦闘中死ななくても戦闘後に失血死するかもしれないわよ!」


 確かに!傷が広がってるし、出血量も増えてる気がする。

 これはまずい。マジで失血死するかも。


「それは嫌だ!」


「じゃあ早く行きましょう!」


「その必要は無いわ」


 後ろからスタスタと歩いてきた白いロングコートを着た女性に止められる。

 右手には医療キットと見られる四角いバックが見られる。


「とりあえず、そこの男の子から治療しますね」


「え、えーっと………」


「大丈夫。ちゃんと皆んな治療しますよ。ただ君の傷が一番酷いから」


「そうですか。ならお願いします」


 保健室の先生だろう。なら安心して任せられる。


「待って」


 女性が治療しようと注射針を俺の肌につけた直後羽咲さんが止めに入る。


「では治療を始めますね」


 が、女性はそのまま針を刺し治療を続ける。


「あ、あのー………」


 ドカッッッ!!!!


 女性が注射液を押し出し始めた瞬間羽咲さんが女性をぶっ飛ばした。


「は、羽咲さん!?」


「………ちょっと、治療中なので静かにしてくれません?」


 あの威力のパンチを喰らっているにも関わらず普通に起き上がる女性。


「黙ってください。あなた、誰ですか?」


「…………………」


「だ、誰って、保健室の先生じゃないんですか?」


「違います。保健室の先生とは仲がいいのでよく保健室に行って話をするんです。でもこの人は今までそこにいた記憶がありません」


 え、保健の先生じゃないってことは……。


「紛れもない敵です」


「………流石に無理だよね。そんなこと知ってましたよーだっ」


 白いロングコートが一瞬にして消え、本来の姿が現れる。


「て、敵………危なかった…………」


「馬鹿なの?」


「え?」


(馬鹿って、急に何言って…っ……!)


 な、何だ……視界が………歪んで……っ。


「もう手遅れよ」


「動ける人は深奈君と日菜ちゃん連れてここから離れて!早く!」


「「了解!!」」


 羽咲さんの指示を聞いた瞬間、敵の女性は動いた。


「させるわけないでしょっ!!」


「ひゃっ!!」


 椿さんを狙った攻撃だったが、当たる前に羽咲さんが止める。


「早く行って!」


「「は、はい!」」


(や、やばい………意識が、遠く………)


「深奈!?やばい!深奈が死んでる!」


「…死んでは、ない…………」


 すぐ殺すな。


「くっ!少し遅かったっっ!!」


「そうね。あの時もっと早く私を殴るべきだった」


 注射液が入った後に羽咲さんは動いた。

 その時点で俺はなんらかの液が体に入っていた。


「でも安心して。死んだりするような薬じゃないわ」


「私の寮生に手を出したこと、後悔させてあげます」








 その姿が自然と目に入った途端、離せなくなった。

 興味が引かれた。


 彼がどんな人間で、どうして勝てもしない相手に堂々と向かっていけるのか。


 私、ことクローザは経験がない。

 なんせ女の人間しかいないところにきて、そこで働かせてもらっているのだから。

 だから私は自然と出会いを求めていた。


 自慢ではないが、多少は身体に自信はあった。性に関しての知識もある方だと思う。

 別に誰でもいいって言うわけではなく、自分の性格と相性が合う相手なら良かった。


 そんな時、急に任務が入った。


 内容は自分達に敵対している学園の建造物の破壊、また人材確保。

 主に破壊がメインで、人材確保に関してはそこまで重要な任務ではなかった。


 この話が来た時少し期待したが、上司の話によると男はいないらしく、生徒から教師にかけて女オンリーと言われた。


(そんなもんだよな)


 運良く出会ってそのまま堕ちていく純粋で綺麗な恋ができるなんて思っていなかった。

 そもそも男子がいたとしても純粋な恋なんてできるわけがなく、完全に諦めていた。


 だからだろうか。


 恋なんてしたことがなかった私が、たった一人の男子を見ただけで完璧な恋に堕ちてしまったのは。


 欲しいと思った。

 彼が私のものになってくれたら、あんな思いはもうしなくて済む。






「クローザ、多分あの脳筋あの教師に負けるわ。まあ仕事は十分してくれたからいいけど」


「ねえ、あの男子、私もらっていいかな」


「……は?」


「人材確保。立派な任務でしょ?」


「ま、まぁそうだけど………。あんた変なこと考えてない?」


「……いやー、少し…ね?」


「………はぁ〜。全く」


 もう一人の女が呆れたようなため息を吐く。


「先輩にもちゃんと『夜』、貸してあげますから」


「…………………そ」


「フッ……少し喜んでるでしょ?」


「作戦は!!」


「クスクスッ。そうですねぇ、さっき奪った服をきて先に先輩が——————————」









「ふっ」


「っ!」


 突然私たちの真ん中に現れた女性に警戒心が向く。


 今私は深奈を、椿さんが日菜ちゃんを抱えています。

 手の空いている南さんと美坂さんで対応を……………。


 ふわっっ


「……え?」


「ごめんね?この子は貰っていくわね」


「っ、深奈!」



 解放率………25%

 


 最大出力で追う。

 が、


(ダメだ!速い!)


 全く差が縮まらない。それどころか差が広がっている気がする。


(羽咲さんはあの女一人で手一杯。あの羽咲さんでさえ手一杯ってことは、さっきの巨体の男よりも桁違いに強い!)


「っ!深奈君!」


「おおっと!行かせないよ!」


「くっっ!!!」


(もう後先考えてる場合じゃない!!)



 解放率………30%っ!!!



「ふぅっっっっ!!!!」


「へ〜、このスピードについて来れるんだ。一時的にとはいえ自慢できるレベルだよ」


「っっ!!!!」


(あと持って20秒!)


「まあ、追いつくことはできないと思うけどねぇ」


 女はスピードをさらに上げる。


(まだ上げるの!?)


 本っ当に!!!



 筋力解放率………33%っ!!!



(これが限界ィィィィィィィィ!!!!)


「あぅっ」


 が、首を叩かれ一瞬にして勢いが無くなる。


「あらあら、解放することに頭使いすぎよ。目の前でわざわざ止まってあげたのに」


 女は倒れかける七瀬を片腕で受け止め、ゆっくりと地面に置く。

 そのまま耳元に口を近づけ、


「あなたも彼のこと好きでしょ。でもごめんね?もう私のものだから」


 ドゴォォォォォ!!!




———————







 女が再び前を向き、走り始めた瞬間、その目の前に上から何かが勢いよく降ってきた。


「っ!何?」


「っ!? クローザ!引くわよ!作戦も中断!」


 何かを感じたのか、羽咲と戦っていた女性がクローザに撤退を指示する。


「させませんっ!」


「させてもらう!!」


「なっ!」


 逃げる女性を羽咲さんが捕まえようとするが全力で走りだし、逃げらてしまう。


「その男子は置いて逃げることに集中して!」


(クソッ!せっかく出会えたのに!!!)


「う、うぅぁ………」


(この子、意識が戻った!)

 

 それが分かった直後、クローザは深奈の耳に近づき、


「また今度、君に会いに来るから。その時は自己紹介から始めようねっ」


「ぅえ?」


 深奈をソッと地面に置いたらすぐに走り出す。

 が、何者かがクローザの目の前に割って入った。


「………失礼。私は佐々木と申します」


「っ!そう。私はクローザ。早速で悪いんですけど、そこをどいてくれない?」


「すいません。無理なご相談です」


 フッ


(早っ)


 一瞬にしてクローザの懐に入り込む。


(まあ生徒からしたら、だけどね)


 繰り出された佐々木の攻撃を難なく交わす。


「っ」


「ごめんだけど戦ってるほど時間に余裕はないみたいなんだ。また今度ね」


「待て!!!!」


 てきとうな理由を口にしクローザはその場から風のみを残して消えた。










「………………ふぅ」


(一先ず、一件落着って感じですかね)


「佐々木さん!」


 と、そこに服がボロボロになった羽咲さんがきた。


「来てくれたんですね!」


「………貴方、私に喋りかけるよりも先にしなきゃいけないことありますよね」


「は、そうだ!佐々木さん!お礼はまた今度で!」


「………はぁ〜。全く変わっていませんね、貴方は」


 前からそうでした。ずっとどこか抜けていて、でも戦闘に関しては優秀だった。

 そんな貴方を羨んでいる自分が、あの時はいた。


「………ぁ…………」


 上を見ると、いつの間にか日が高くなっていることに気がついた。






————————————————————

 あとがき


 とりあえずひと段落っすかねー。


 学校が休みだから書けているけどまた始まったら厳しくなると思います吸いません。


 あと、『筋力解放率』のことを今後『解放率』と略すことがあるかもですので、宜しくお願いしますー。


 それでは皆さん、ご一緒に。


杯を乾すと書いてぇぇぇぇーーーーーーーー



 かんぱーーーーい!!!(ぐら○ぶ○)




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