第28話「リベンジ」
(ふぅー)
先に言っておくと、傷が痛い。痛すぎる。
でもここであいつから逃げたら、今後戦うことへの恐怖心が消えなくなる気がした。
だから逃げない。俺が先生を呼びに行かなかったのにはこの理由もあった。
(でも一番の理由は………)
「おいゴリラ!手加減はなしだ!本気できやがれ!!!」
(リベンジだ!!)
「もう、手加減なんかする気ねぇよ。全員ブッ殺してやらぁぁ!!!!」
ゴリラは叫ぶと同時に思いっきり上に飛び跳ねる。
(来たっ!)
「皆んな!タイミング良く上に飛べば回避できる!」
「「了解!」」
何回も喰らってたまるかよっ!!
「学校もろとも消えてなくなれェ!!!」
そのまま急降下してくる。
(さっきより早い!)
「ゥラァァァァァァァ!!!!」
[筋力解放……10%]
「今だ!!!」
掛け声と同時に上に飛び跳ねる。
「ナニッ!!!」
(よし!)
皆んなも避けれてる……!
「ク……っ!避けてんじゃねぇ!!」
「黙れ!!!」
(あんな攻撃、避けるしかねえだろうが!)
「クッッッソが!!!!」
ゴリラが両手を握り合わせ上に上げる。
「させない!!!」
「グッッ!!」
隙を見て七瀬さんが殴る。
「邪魔だっ!!」
七瀬さんを殴り返そうとするが横から美坂さんが蹴りを入れる。
「フッ!!!」
「っ!!!ちぃっ!」
(速!!)
見えなかった。
美坂さんの強みはあれか。
「クッ……!」
ゴリラが一旦距離を取ろうとしたが、俺と椿さんと南さんが迷わず突っ込んでいく。
「行かせねぇよっ!!!」
『ドダッッッッ!!!!』
「「!?」」
ゴリラは地面を思いっきり殴り、辺り一面を土埃にした。
(煙幕!?)
まずい、何も見えない。
「卑怯だぞ!」
クソッ。目を開けるのもしんどい。
この土埃の中敵を探すのは困難。
(いや、それは相手も同じじゃないか?)
そう思い動こうとした瞬間、土埃が急に出来た風に流れ出した。
「!皆んな、来るぞ!」
今の風はゴリラが上に飛び跳ねた時に起きたもの。
ただ問題はいつ落ちてくるか分からないということ。
「合図に合わせて!!!!」
誰かがそう叫んだ。
(見えてるのか!)
信じれる。皆んなのことなら心から……!
[筋力解放……10%]
『ビキィィィッ!!』
「痛ッッッ!!!」
「深奈!?」
(今に来て足の怪我がっ!)
まずいまずいまずい。これだと動けない。またあれをまともに喰らったら間違いなく死ぬ。
「一人落ちたみたいだなぁ!!」
上空から叫び声がする。
「深奈、どこ!?」
このままだと皆んなにも被害が出るかも。それは避けないと……っ!
「大丈………」
『まずいと思ったらすぐ逃げてね。分かった?』
『さっき嘘ついたじゃないですか!』
(っ………………!)
クッッッソが!!
「自分のことだけ考えて!生き残ることを!……いっ!」
「ちょっ、待って!アンタそれ……」
「飛んで!!!!!」
合図がでた。
クソッ!なら腕だけで飛んで少しでも攻撃を軽減させて………!
「痛ッッッッ!!!」
「もうオセェェェッ!!!!」
「っ………!!」
(もうダメだ………っ!!)
「っちくしょぉぉぉ!!!!」
フッ
「……ぇ?」
一瞬。
何が起きたのか分からなかった。間があいた後、隆起は発生することなく、風だけが強く肌を掠めた。
風で土埃が消え、辺りが見えるようになる。
辺りを見渡しゴリラがいる方を見る。
「………テ、テメェ……」
そこには案の定、殴るモーションのまま固まっている巨大な男と、それを片手で止めている一人の女性が立っていた。
「な、何しや………」
「あなた………何してるの?」
「っ………!」
「「「………っ!!」」」
それは男とは比べ物にならないほどの圧。
(っ……。気を失いそうになる)
でもその圧は、怒りそのものとも言える。
彼女はなぜ怒っているのか。
「私の寮生に、何してるのって聞いてるのよ」
それは羽咲さん、俺たちの寮母だから。
♢
(速く!速く行かないと!深奈さんや皆んなが戦ってるんだ!私だって!!)
みんなと別れたあと、私はとりあえずさっきまでいた場所を目指してた。
あそこには先生が数十人いるからそのうちの何人かを引っ張ってこようとした。
でも………
『ちょっと!早く応急処置して!キツくなってきたんですけど!』
『もう少し耐えてください!まだ処置が済んでません!』
『こっち人手が足りなくなってきた!』
これでは先生呼べる感じじゃないです。
でも皆んなが………!
「あ、あの!あっち側に何人か先生来て欲しいんですけど!」
「ちょっ、無理言わないで!これでもキツキツなのよ!あなたも応急処置手伝……」
「失礼しましたァァァァァァ!」
全然ダメです!
もう一分ほど経ってしまってます。もしかしたらもう皆んな…………。
「っ!!!!」
いや!皆んながそんな簡単にやられるわけないです!
私は私のやるべきことをしなきゃダメです!
(でも、誰もこっちに来てくれる感じじゃ………)
いや、身近にいるじゃないですか。強くて、頼りになる先生が。
それからは筋力解放率を25%ほど出して走っていた。無我夢中だったから、後先なんて考えられずただ目的地にひたすら走った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
(もう既に筋肉が限界を迎えています…っ!でも、片道行ければ帰りの片道は先生だけで大丈夫です!)
速く!速く!
ガチャ
「あ!お帰りなさ………日菜ちゃん!?」
「は、羽咲さん。み、皆んなが………」
焦る羽咲さんに手短に現状を話し、場所も話した。
「私はもう戻る体力は、残ってないです。羽咲さんだけで、行ってください」
「行かなきゃだけど、日菜ちゃんのその足の治療の方が…………」
「羽咲さん!!!!」
「っ」
「速く……速く行かないと……っ………皆んなが………っ……死んじゃうっ!」
「っ!!」
こんな時に泣くなんて、私はあの時から何も変わってないんだと実感してしまう。
こんな弱い人間が同じ場所にいたら、足を引っ張るに決まってる。
どちらにしても行かない方がいい。
「………分かったわ」
(良かった。これで私のお仕事はおしまいです。皆さん、どうか無事でいて………)
「でも、日菜ちゃんも連れて行く」
「………………ぇ?」
「だって、日菜ちゃんも戦ってるじゃない。こんなに大怪我までして」
「で、でも……私みたいな弱虫は………」
ふわっ、と一瞬にして花に包まれたかのような感覚になる。
そのまま頭を優しく撫でられ………。
「よく頑張ったね。えらいえらい」
「ひっ、うぁぁっ」
羽咲さんの胸を涙で濡らしてはいけないと思いながらも、どうしても治らないそれは足の怪我なんかよりも大怪我だった。
「……ていうか、戦闘に参加してる人間が、勝敗を見ないで終わるわけないじゃない?」
「っ………へへっ………。そうかもです」
「よし!速くしないとでしょ?後ろ乗れる?」
「はいっ……!」
やっぱり羽咲さんは母性に溢れすぎてます。
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