第27話「作戦」
(痛ったっ)
あの攻撃をまともに喰らっていたら今もずっと寝ていたまんまだったろう。
というのも、俺はゴリラの攻撃が地面を隆起してくるものというのを知っていた。
理由は、始めこの場所に来た時、異様に地面が荒れていたから。
そしてあそこまで地響きが大きいという事は、使われた技が地面に関係している可能性があると予測したから。
と言っても……
Q.地面で暮らしている人間に地面を利用した技を繰り出されたらどうなる?
A.何もできずただ喰らうしかない。
そう、普通の人間なら。
でも今の俺はただの人間か?いや、俺が知ってる普通の人間とはまるで別物。
筋力解放を身につけたら化け物同然だろ。
だから俺はその化け物の力を使って高速で逃げた………ではなく、上に飛び跳ねた。
(地面から離れれば技は喰らうわけない!)
結果この結論に至ってできる限り全力で飛ぶようにしたが、まあうまくいくわけもなく直に喰らうよりは軽減されたろうが、案の定とんでもないダメージを負ってしまった。
(でも、この状況はよく分からない)
今俺は気絶していることになっているため、それを演じ切らなければならない。
ただ声を聞いていると、間違いなく南さんの声がする。
(様子を見に来たら俺が捕まってたって感じかな)
正直今すぐ逃げたほうがいいだろうが、俺が捕まっている以上引くという判断はしないだろう。
だが、俺はこのゴリラの強さを知ってる。間違いなく強敵。人間じゃない。戦って勝てる相手じゃない。
今皆んなは俺をどう奪うかを考えてると思う。
でも、奪って逃げたところでまたあの隆起の技を出されたら逃げきれず全滅。
(俺たちでは打つ手無し、か)
………いや、ある。一つだけ。
(俺が動けば………)
でもどうやって息を合わせよう。
俺の考える作戦は最初が肝心。
俺が急に動き出したら皆んながそれに合わせてくれるだろうか。
んや、十中八九無理。
なら、コイツにバレずにタイミングを一つにする方法は…………。
『オマエもか?オマエもオレが頭悪そうに見えたか?コイツにもさっき言ったんだが、敵を見た目だけで判断するのは良くねぇぞ』
コイツどんだけ見た目で判断されたくないんだよ。
まあいいや。ちょうど皆んなから背を向けた。
頼むぞ!
『………5』
頼む………!気づいてくれ!
『………4』
やっぱり指だけだと気づかないか……?
『………3』
ダメだ………。やっぱ急に動き出した俺に皆んなが合わせてくれることを願うしかないのか………?
『………2』
誰か………!
「待てって言ってるでしょ。逃げるの?」
明らかに挑発的な口調。普段の南さんを知っていれば違和感を抱かないわけがない。
(気づいてくれた!)
静かにチラッと皆んなを見てみたら、俺の生存確認ができたことによる安堵の顔が垣間見えた。
『………1』
皆んなが囲むように動いた。
(良かったぁ………。伝わって)
でも、一人だけこの状態で少しニヤけている人がいるのだが………。
(全く。どうせこれで貸し一つだ、とか思ってるんだろうなぁ、七瀬さん)
まあ、この状況は俺が作ってしまってるわけだし、それくらいは貸してやろうか。
『………0』
貸しは作ったら返す。これは俺の中での決まり事。
(死んだら地獄行きだと思え)
自分に言い聞かせる。
だって、皆んなから恨まれるからな。
そんなことを考えながら、さっき受けたダメージを怒りに変え、それを化け物の力に変え、ゼロで全ての指が平に収まった手でゴリラの顎を砕いた。
♢
「ぐがはっっっ!!!!」
顎を死角から殴られ俺を手から離しよろめく。
「はぁっ!!!!」
「ぐふっ」
椿さんが背中を思いっきり蹴っ飛ばし、ゴリラは吹き飛んだ。
「ふぅ、皆んな。ごめんな」
「ご、め、ん、で………済むわけないでしょうが!!!」
「そうよ!心配したんだからね?」
そう言いながら詰め寄ってくる南さんと椿さん。相当お怒りのようで………。
「本当すいませ………」
「全くですよ!すぐに帰ってくるって言ってたのになんで帰ってこなかったんですか!」
「馬鹿!アホ!マヌケ!カス!」
「いやそれただの悪口だから!貶してるだけだから!」
心配させたのは悪いとは思ってる。思ってるけど何か受け取りたくない言葉が多い。
ずっと黙っている美坂さんも怒ってないっていう訳ではないらしい。なんか………怒ってないっていう訳ではないらしい。
「後でちゃんと謝るから、とりあえず聞いてほしい」
「分かった。作戦あるんでしょ?」
「うん。俺の考える作戦はこうだ」
まず誰か一人が先生を呼びにいく。筋力解放すれば1、2分ほどで呼んでこれるはず。
あっちの戦闘はさっきほど激しい音はしないから多分少し余裕ができてきてるはず。
その一人以外は時間稼ぎ。先生が来て、俺があいつの特徴やらを軽く教えればきっとやってくれるはず。
「なるほど……。いいと思う」
「まあ、私もどちらかといえば賛成派ね」
「でも問題は誰が呼びにいくか、ね」
「それは日菜に任せようと思ってたんだけど」
「え!私ですか!?」
と、驚く日菜。
それに対して、
「それについては私は反対ね」
「同じく」
椿さんと南さんが反対してきた。
ここで時間を使うのは無駄だと思うのだが……。
「何でですか?」
「あなた、今の自分の姿見てみなさいよ。血だらけよ?左足なんかは深い傷があるように見えるんだけど?」
「気のせいです」
「馬鹿にしてる?」
「私も怖いですけど、深奈さんがこの状態で戦うのには反対です」
日菜までそっちに行ったか。
「いいすか?俺は、絶対にここに残ります!これは俺が考えた作戦で、俺はこの傷のことは考慮した戦い方も考えてあります」
「………本当ですか?」
日菜が上目遣いで聞き返してくる。
「俺が嘘ついたことあるか?」
「さっきすぐ帰ってこなかったじゃないですか」
ぷくーっと頬を膨らませて怒ってくる日菜。
「それはごめん。でも今度は本当だから、安心して。二人も信じて欲しいんだけど?」
「はぁ、時間ないみたいだし、分かったわ。でも体に異変を感じたら私たちのことは気にせずに引くこと、いい?」
「うす」
『ドゴーーッ!!!!』
ゴリラが復活したか。そのまま寝てもらって良かったんだけどな。
「痛てぇなぁぁ……」
「みんな!アイツは一言で言えば脳のある脳筋だ!」
「矛盾!!」
「倒そうとはせずに!ミッションは時間稼ぎ!初っ端から全開で行くぞっ!!」
「日菜!行って!」
「はい!皆んなも気をつけて!」
一瞬にして走り去った日菜を横目に、俺たちは再び戦闘を開始したのだった。
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