第25話「ゴリラ」

 

 電光石火。

 この言葉がふさわしいだろう。


 空から降ってくる人間。加えてタイミングよく地上からも大勢の人間がくる。


 しかも良くも悪くも全員女性。やはり見込みがあるのは女性だけなのだろうか?


 と、そこでさっき指示してくれた先生が先人切って叫ぶ。


「初めが山だ!全力でいけーーー!!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


 ザ、オトコって感じの掛け声だが、全員女っていう違和感がなんか面白い。

 



 そこからは激しい戦いになった。


 初めの先生たちの口調からすれば、もしかしたら余裕なのではと思ったが、全くそうでもなかった。

 

「全然余裕じゃないじゃん」


「ね」


「ど、どうしましょう……。私たちも参加した方がいいんでしょうか?」


「……多分、連携取れなくて足引っ張る………」


「…で、ですよね」


「経験の差、ね」


(そういえば、クラスのみんなは大丈夫かな)


 皆強いから平気だと思うけど、中身はまだか弱い女の子。

 余計なお世話かもしれないが心配になる。



 『ドドォォォォォォォォォン』

 


「「「!?」」」


「な、なに!?」


「校舎の方からだ」


(異質すぎる音。とんでもない地響き。…嫌な予感がする。先生方はあっち側にもいるはずなのにこの爆音…)


「………ちょっと見てくる」


「は、はあ? 何言ってんのよ。今の音聞こえなかった?」


「聞こえたから行くんだよ。大丈夫、すぐ戻ってくるから」


 俺はそう言い、筋力解放は使わずに走りだす。


「ちょっ、待って! 深奈君!」


「すぐ戻ってくるってー!」


「深奈さん!しん—————」


 






 おそらくさっきの音の場所まできた。というかそうとしか思えない。

 さっきの音の正体と思われるものを見た瞬間、俺はそれを確信した。



「………な、なんだこれ」



 校舎が半壊している。



(……………こ、こっち側を守っていた先生たちは…………)


 あたりを見渡す。

 瓦礫の山が視界の邪魔をする。


「ぇ………………………」


 半壊した校舎の下に何人もの人が赤黒く染まっていた。


「ち、ちょっと……冗談でしょ………」


 すぐに駆け寄り声をかける。


「……………脈はある」


 脈があるかを調べたらまだ息はあるようだった。その中で一人の教師が俺の声に気づいたようで、消えかけている声で話す。


「ば、バカ…すぐに逃げろ……。バレる前に………」


「いや無理ですって。俺こう見えても治療の知識少しはあるんですよ。そのまま動かないでください」


 そういう知識が出てくる漫画を読んだことがあるからな。難しいのは覚えてないけど、止血の仕方くらいは覚えている。


「私たちは……大丈夫だから………早く……………………っ!?」


「?」


 俺の後ろを見て話が止まる。


「おいガキ。何してんだ?」


 振り返るとそこにはゴリラがいた。






 はぁ、全く。

 なんであいつはあんなに行動力があるのだろう。しかも悪い方で。

 あんな地響きが起こるくらいの音がしたら普通は近寄らないと思うんだけど。

 しかも先生達もいるんだし、酷いことにはなってないでしょうし。


「……はぁ」


「あはは……まあ大丈夫じゃない?深奈君もすぐ帰ってくるって言ってたし」


「そうよ。まあ七瀬ちゃんは少し過保護なところあるからね」


「いや全く過保護ではないですけど」


「じゃあ恋愛感情があって、彼に離れてほしくないから?」


「違いますよ!変な解釈しすぎです!私はただ………ムカついただけですから!」


「顔赤くなってるけど?」


「ち、違います!違いますから!」


 全く!椿さんは恋愛脳すぎます!

 冷静に考えてそんなわけないですよ。

 本当、あの男に惚れる女がいるのだとしたら見てみたいです!


「でも、やっぱり心配です」


 ほら、日菜ちゃんもこう言ってる。


「………………………」


「?」


 ふとした時、ずっと下を向いている小南ちゃんに少し違和感を覚えた。

 でもその違和感を感じたのは私だけではなかった。


「小南、どうかした?」


 南さんが聞く。


「……………すごく、嫌な感じ」


 顔が暗い。まあいつも明るくはないけど、いつも以上に暗く感じます。少し焦っているようにも見えます。


「……………私たちも行った方がいい…。取り返しのつかない状態になる前に」


「と、取り返しのつかない状態って」


「や、やめて下さいよぉ〜」


 取り返しのつかない状態。つまり怪我どころで無い状態。

 そんなことを言われたら嫌でも連想させられます。彼のそうなった姿を……。


 あいつはまだ弱い。ここに来て一ヶ月。手を抜いた私と同レベル。

 先生レベルの敵と相対したら確実にやられます。

 

 ………………………………。


 よく考えたら、先生達が何十人もいる中であの爆音が出るほどの攻撃。


 ……先生達がいるのに?


 嫌な予感……。


「…行きましょう」


「「うん」」

 

 みんな同じことを考えてたらしい。

 

「でもここを離れて良いんでしょうか?一応生徒も戦闘に参加みたいな雰囲気でしたよね」


「まあ、後で怒られる分にはいいよ。みんなで仲良くね」


「確かに、赤信号はみんなで渡れば怖くないって言うものね」


「やってることは変わってないけどね」



 『ドガァァァァァァァァァァァァァン』



「きゃっ!!」


 なに!?

 また同じところから爆音。

 この思考から同時に、全員が最悪の状況を思い浮かべる。

(もしこの音に深奈が巻き込まれていたら……!)


「早く行こう!」


 南さんが猛スピードで走り出す。それに続いて皆んなが走り出す。


 全員筋力解放を使っています。できれば温存したいとは思いますが、後々のことを考えるほど余裕はありません。


 全員が全員、冷や汗が止まらないほどに焦っています…!


(深奈………!!)








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