第23話「敵襲」

 朝方


「…し……ん………き……し……くん」


 女性の声がする。

 何を言ってるか分からないが布団を取られて寒いので、とりあえずあったかい物を…。


「ち、ちょっと!な、し、深奈君!起きてってば!ちょっ!? やめっ…」


(うるさいなぁ。寒いから大人しくしてくれ)


「い、良い加減にっ、ひゃっ!?そ、そこはっ………い、いい加減に、しなさいっっ!」


「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


 な、なんだ!? 痛い!


「はあ、はあ、はあ、やっと起きた……」


「いったー。………え、羽咲さん?何してんですか?夜這い?」


「違います!そんな呑気なこと言ってられる暇があるなら早く着替えてください!」


「? 何かあったんですか?」


「敵です!敵が今攻めてきているんです!」


「え………」





 ーーーーーー思考停止ーーーーーーー






 テキ? 

 寝起きだから頭が全く働かない。

 早過ぎないか?昨日の夜戦う相手がいることと現在の関係やらについてやっと知ったってのに、もう敵きたのかよ。


「とりあえず分かりました」


「じゃあ着替えたらリビングきてね。すぐ移動するから!」


「了解です」


 そう言って羽咲さんはバタバタしながら部屋から出て行った。


 俺はその直後すぐさま戦闘用の服を着た。

 といっても特にかっこいい模様とかは無い。ただ自分が一番動きやすいなと思っている服だ。


 着終わったらすぐにリビングに向かった。

 そこにはすでにみんな集まっており、緊張感が漂っていた。


「これで全員ね。それじゃあ今の現状を話すね。私たちの学校は今、敵に包囲されています」


「え………?」


「すでに私たちは不利な状況にあります」


 みんな戸惑っている。包囲されてるってのはかなりやばいと思うのが普通だろう。

 でもここで疑問が浮かんだ。


「なんで包囲される前に気づかなかったんですか? この学校のセキュリティーって低くないですよね」


「そうね。今までは敵が近づいてきたら学園長が一番早く気づいて対応したんだけど、昨日から学園長、隣町に出張に行ってるのよ」


「え!ってことは、今学園長いないってこと!?」


「うん」


 南さんが絶望した顔をしている。

 そりゃそうだ。一番強い人が近くにいない。そんな状況を知ったら心配にならないわけがない。


「じゃあ今攻めてきたら負けるんですか?」


「…………いや、学園長ほど強い先生はいないけど、先生たちは皆強いから大丈夫かな!」


「なら…………良かった」


「そうだよね!考えてみれば学園長が規格外なだけで他の先生も強いよね!」


 皆の表情が少し明るくなった。

 戦う前からネガティブな気持ちだとそれだけで戦闘に支障が出る。


 まあ雰囲気を悪くさせないための虚言だと思うけど。

 

「じゃあ私たちは何をするんですか?」


 いや流石に生徒に戦わせるわけないだろ。避難のする………ん? 戦闘服はなぜ?


「お手伝いです」




 え?





 数日前 敵軍基地



 この部屋には高価なものしかない。誰が見ても初めにそう思うと確信できるほど不気味な部屋で………。


「はぁ?すぐに行くべきってどういうこと?まだ全然準備もしてないんですけど?」


 女が苛立ちながら眼鏡に言う。


「お、落ち着いてください。実はとある情報を手に入れまして」


「情報?………その内容は?」


 眼鏡が冷や汗をかきながら答える。


「……近頃、学園長が珍しく隣町まで出張するらしいんです」


 女は目を見開き、周りの雰囲気が一瞬で変わる。

 立っていられなくなり後ろに倒れ込む眼鏡。


「…………確かか?」


「は、はひぃ…………………っ!?」


 一瞬で女が消えた。上にも下にも後ろにもいない。


(こんなところ来ない方が良かった……)

 

「…一ヶ月後の作戦とその日行くの、成功の確率が高いのは?」


 何処からかはわからないが、脳に響く声。


「は、はっきりとは言えませんが、敵の学園長のレベルがまだ完全に分からない以上、このチャンスは逃さない方がいいかと……」


「………ふっ、…くっくっくっ……」


 遠のいていく女の笑い声。

 だがどの方向に消えたのかは分からない。


「………クックッ、あの方が動いた……!」


(あの人は天才だ。トップに立つ器とはあの人のことだろう。 

 そんな人が動いた。おそらくあの人自身は戦闘に参加しないだろうが、司令塔として動くなら敗北の二文字は飾らないだろう)


「クックックックっ……………」


 眼鏡は一人になった部屋で不敵に笑った。

 





 実行日

 敵軍  クローザ



「ねえ、今は学園長いないって本当の情報なの?」


「何回も言ってるけど、うちの情報管理ガリ勉クソ眼鏡が言ってるから本当よ」


「…その人信じていいの?あんたがつけたか知らないけど、その名前聞いて信じたくなる人いないわよ」


「そりゃあ私だって信じたくない。でも今までのあの情報管理ガリ勉クソ眼鏡の予測、情報は確かなものばかりなの。だから信じるしかない」


「………ふーーん。………………その呼び方疲れない?」


 黒髪ロングの女、クローザが聞くが返答はない。


「……アンタ、ちゃんと動き頭の中に入れてんの?」


「入れてますよー。私は最後に暴れればいいんでしょ?」


「ざっくりしすぎ。もっとちゃんと覚えてきなさいよ」


「すいませんしたー」


「全く………」


 呆れながらため息を吐く。


「そんなことよりここってほんとに男いないの?」


「いないわよ。私も少し監視してたことあるけど、男子は本当にいなかったわ。本当はいるらしいけど、皆引きこもってるって」


「えーー、つまんないのー。私男の子と遊びたいんだけどー」

 

「はぁ………………」

 

 まったく……と言いながら学校まで続く森の中を歩いた。



 マッスル


「………………」


 唯一の男、マッスルは一人で先に学校のそばまで来ていた。行こうと思えばいつでも行ける距離だ。


「くくっ………!こりゃぁもうバレてんなぁ。外に教師達しかいねぇや」


 目に黒い影を浮かばし、光さえも飲み込みそうなゴツイ身体。

 周囲が殺気で塗れている。

 

「時間はまだかよぉ………………。どう壊そうかなぁ………。人間をやる趣味はねぇが、邪魔してきたら…………」


 この男の武者振るいが止まることはない。




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