第21話「筋力解放率」



「よし、シンナ。どんくらい基礎が身に付いたか調べようか」


「マジすか!」


 俺は今、学園で訓練中。


 皆を越すという目標の日まではあと残り一週間。

 今のところそこそこ順調だと思う。

 今まででの最高筋力解放率は10%。大木は一発で倒せるくらいだな。

 この力を出した時学園長は『この短時間でこの成長速度はすごいぞ』って言われた。


 よくよく考えると、女子は一年で15%出せれば高い方らしいし、俺三週間でこれはすごいな。


 でも聞いた話によると、パーセンテージが上がれば上がるほど上がりづらくなるらしい。

 (あと一週間。厳しいかなぁ)


「深奈さーん、学園長ー、今から何するんですかー?」


 とそこに、愛菜さんが走ってきた。


「ああ、コイツの筋力解放率を測りに行こうかと思ってな」


「そうなんですか。………私も行って良いですか?」


「いいぞ。ならお前もついでにやるか?」


「良いんですか!?」


「シンナの面倒見てくれてる礼にな」


「おお!」


「コイツはクラスでも上から三番以内に入るくらいの実力者だからな」


「いえいえ〜」


 俺はこの前まで最高で10%。クラスの平均は15%。いける!!!


 そこから歩いて五分。測る場所に着いた。


「よし、そんじゃあシンナ、お前から中に入れ」


「はい」


 真っ白な部屋に一人入る。

 測り方は簡単。この部屋にあるダミーを本気で殴り、その衝撃から色々結果が出る、というような感じ。


 前やったのは確か一週間と少し前くらいか。


 特別にやらせてもらっており、学園長には感謝しかない。


「準備はいいかー?」


「はい」


 俺は構えの態勢に入る。


「よし、いいぞー」


「ふぅ…………ふんっ!!!!」


 ズドーン!!!!!!


 確実に前回よりも衝撃が大きい。

 ついでに前回よりも右腕への衝撃も大きい。


 (痛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 俺が痛がっていると、学園長が外に出ろと指示してきた。


「めっちゃ痛いっす……。んで、結果はどうでしたか?」


「数値は11%だな」


「これで11かよぉぉぉぉぉ!!」


「い、いやこの短期間で11%って、どうなってるんですか?」


「コイツは才能持ちだからな。あと、そこまで悲しむ事はないぞ、シンナ」


「1%ですよ?これが泣かずにいられますか」


「いや、このパーセンテージの基準はその人間の筋肉量だ。つまり前よりもお前自身の筋肉量が増えたんだ。だから数値だけ見ればあまり増えていないように見えるが、現実的に見ればおそらくそこそこ上がってるだろうな」


「……………………」


 難しいです。

 とりあえず数値はあまり上がってないけど実際は数値以上に強くなってるってことか?


「あんまピンときてないな………。具体的に言うとだなー、んーー……愛菜の10%と俺の10%は同じだと思うか?」


「…………な、なるほど」


 人によって1%の幅が違うってことか。


「………ついでにだが、この機械は有能だからな。前の筋肉量の場合での数値も見れるぞ。見たいか?」


「それは凄く見たいですね」


 学園長はその機械のボタンを押した。

 画面に映ったのは………


「じ、17%!?」


「とりあえず15%はクリアでいいのか?まあいいか。クリアー」


「…………案外喜ばないのな」


「いや喜んでますよ。これで皆と並べたってことですよね。案外早かったなぁ」


「…………お前に期待した俺が馬鹿だった。喜んで無いから理解してんのかと思ったけど………。お前に一つ言っといてやる。この前コイツらの筋力解放率の平均は15%くらいっていったよな?」


「…………言ってましたね」


「あれは一定の時間内ずっと保っていれる数値だ。要するに、コイツらは本気で殴れば20%は普通に超えるってことだ」


「いやでもすごいよ!ここに来て三週間で17%なんて見たことないよ!」


「……………は?」


 最高の平均が15%じゃないの?

 てっきりそのつもりでいたんだが………。


「がっはっはっはっはっは!やっぱり勘違いしてやがった!」


 笑ってやがる………っ!殴りたい、今すぐに殴りたいっ!




 それから愛菜さんがやった。

 数値は26%で、前回よりも1%上がっていた。

 それが嬉しかったらしく、凄い飛び跳ねて喜んでいて、俺に抱きついてきた時は胸が顔を包み込んできて俺は俺を保つのに必死だった。


 26%か………キツすぎる……。





 帰り道


「ん?あれって………」


 歩いていたら前に美坂さんらしい後ろ姿があった。


「美坂さん?」


「…………神田さん、どうも」


「帰り道に同じ寮の人と会うのは初めてですね」


「………そう…………」


 ………………会話が続かない。

 まあ別に話さなくても良いんだけど、ずっと無言というのも何か嫌だ。


 とそこで美坂さんから話しかけてきた。


「殺しの才能………凄い」


「え?す、凄い?」


「……昨日、聞いた。尋常じゃないスピードで強くなってる。凄いね」


 まさか美坂さんに褒められるとは思わなかった。いつも反応はしても長くは話さないからな。


「そう言ってくれると素直に嬉しいです。まあ、殺しの才能があるなんて全く感じないんですけどね」


 よくよく考えてみれば、殺すための能力が高いんだよな。

 じゃあ俺はそのうち人を殺す職につくのだろうか。だとしたら今すぐにでもそんな才能を捨てたいのだが………。


「………本当に凄い。私も、その才能が欲しかったな………」


「………………………」


 ……………。

 いつもはあまり喋らなくて、欲なんて無さそうに見えるからだろうか。

 この言葉を言った時の顔が、どこかすごく悲しげに見えた。

 もう一度その横顔を見たら、いつも通りの表情に戻っていた。



 そのまま特に話すこともなくボケーっと歩いていたらすぐに寮に着いた。


 俺はご飯を作らないといけないのでそのままキッチンに向かい、早速料理を始めた。

 


 今日はカレーだ。皆大好きなカレーだ。

 おそらく何人かは帰ってきているだろうから、匂いで気づく人もいるだろうな。

 

 とそんなことを考えていたら早速リビングに誰かが来た。


「深奈さん!この匂いは!!まさか!!!」


「そのまさかだよ」


「カレーだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 降りてきたのは日菜さんだった。

 カレーが好きなのか凄く上機嫌だ。正直うるさいほどに。

 

 こんな喜んでる日菜さん初めてだな。本当にカレーが好きなのだろう。


「もうほとんど出来てるし、みんな呼んできていいよ」


「分かりました!」


 元気に返事した瞬間、一瞬で部屋から出て行った。

 どんだけなんだよ。

 

「呼んできました!」


「いや速くない!?」


 出て行ってから十秒も経ってないぞ?

 絶対筋力解放しただろ。なんか異様に疲れてるし………。


「今日はカレーらしいじゃない。人参は小さめでお願いね?」


「もうできるので今更言われても変えられませんよ」


「…………カレー、辛口?」


「いや、中辛にしました」


「………そう………辛口、食べれない」


「そうなんですか。なら良かったです」


 辛いのが苦手な人がいると思ったから中辛にした。どうやらこの選択は当たっていたようだ。

 これは大事なことだから覚えておこう。美坂さんは辛いものが苦手っと(書き書き


 とそこで、まだ帰ってきてなかった人が帰ってきた。


「ただまー。ってこの匂い……カレー!?」


「はい!早く手洗いうがいしてきてください!もう出来ますよ!」


「了解!」


 南さんもカレーが好きらしい。

 味、大丈夫かなー?心配になってきた。


 


 

 カレーは皆おかわりしてすぐになくなってしまった。

 見る限り皆満足してくれていたから安心した。

 

 食べ終わってからは皆ゲームを始めて盛り上がっていた。

 この時間は皆が笑っていて好きだ。


「………………………」


 でもふとした瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ何故かあの時の美坂さんの悲しい顔が頭に浮かんだ。








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 敵軍基地

 

「マッスル、破壊力はあれから増した?」


 女が巨体の男に聞く。


「黙れ。トレーニング中だ。どっか行け」


「酷いわ〜。せっかく女が来てあげたのに」


「女は興味ねーんだよ。欲しいのは力だ」


 男は女を睨みつけ、眼鏡の男に視線をやった。


「おい。お前の薬飲んだけどよ、やっぱり変わってねーぞ。どうなってんだよ」


「………やはり、あなたは今の力が限界なんですよ。あの薬を飲んでも変わらないということは……」


「ちょっとー。あんた唯一の戦える男なんだからちゃんと働いてよねぇ〜」


「黙れ!俺はこの力があれば学園長とやらも一発で倒せるわ!」


 巨体な男マッスルは苛立ったように言った。


「………私も生では見たことないですが、あのお方でさえも強いと言っていらしたので、油断は禁物かと………」


「黙れクソ眼鏡!お前は雑魚だからな!頭使ってりゃ良いんだよ!黙ってろ!」


「………黙れ黙れうるさいぞ。ろくに会話しないならさっさとトレーニングやれ」


「……………ケッ」


 急に口調が変わった女に言われ、男は苛立ちながらも部屋から出て行った。


「………あと一ヶ月とちょっと………待ちきれませんね……今すぐにでも壊しに行きたい…………」


「うっわ、あんた本当にキモいわね。何か生理的に受け付けないわ………」


「…………………」


 男は咳払いをし、パソコンの画面と向き合った。


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 あとがき


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