第20話「寮母の暖かさ」


 現在、夕方五時。


 玄関の前にて正座しております。

 


 あの後俺と七瀬さんは学校にすぐ向かった。てっきり羽咲さんに説教をされるかもと思っていたけど、早く学校行けって言われたので学校に行った。


 その後もいつも通り訓練を普通に受け(まだ個別メニュー)、さっき学校から晩御飯を作るために走って帰ってきたのだが、玄関を開けたらニコニコ顔の羽咲さんが仁王立ちで待っていた。

 俺はその瞬間朝のことを思い出し、瞬時に正座した。


 そして今に至る。


「深奈君?正座なんてしなくて良いのよ?」


「い、いえ!自分がしたいからしているのであります!」


「そう。それは良い心得だわ。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 ひぃ!!!


「………あのね?深奈君。別に怒ってるわけでは無いのよ。先に言っておくと頭突きしようとしたことに関しては特に何とも思ってないのよ」


「…………………へ?」


 思わず顔を上げると羽咲さんがしゃがんでいた。


「そう。怒ってないのよ、私は。でも、なんかさ、私さ?多分、頼ってほしいんだよね」


「……………」


「私がおかしいのかもしれないけど、君が七瀬ちゃんと訓練してる時、少し寂しくなったんだよね。私は頼られないんだなーって」


「いえ、そんな事は………」


 そんな事は………あるかも知れない。


 俺は女性がどちらかと言えば苦手だ。表社会にいた時は話すらあまりしなかったほど。

 そんな俺が急に女性と、しかも年上の人に頼み事や我儘を言えるようになるわけがない。だったら俺に対してだけなんでも言う七瀬さんの方が色々言いやすい。

 

 でも、寮母の羽咲さんは少しでも俺の負担を減らすために自分から頼られることを望んでいた。 

 

 そこに気づかなかった。


「ね?多分、深奈君は女性と接したことがあまり無いし、耐性が無いんだよ。だから皆に敬語だし、自分を犠牲にすれば良いとか考えるんだよ。初めの話し合いの時みたいに」


 確かにこの寮に来た時、七瀬さんにこの寮での生活を拒否された時、俺は自然に自分が出ていくことを考えた。

 実際それが一番早いと考えたから。


「………要するに、羽咲さんは僕にもっとかまってほしいと?」


「い、言い方が気に入らないんだけど、一言で言うとそんな感じかも。頼ってほしいんだよ。私側からすれば拉致して無理やりここに住まわせてしまってるから、少しでも返したいんだよ」

 

「…………まあ、拉致した事はもう良いです。多分あのまま表社会でいつも通りの日常を送っていたら、今のこの楽しい非日常を知らずに死んでいたと思うので。………拉致じゃなければもっと良かったかもですけど………」


「………ごめんね?面倒な寮母で」


「謝らないでください。あと寮母さんがこんな可愛い人なら面倒くさくてもオールオッケーです」


「…………またそうやって女性を虜にしようとしてるでしょ。そうはいかないから。私はそんな言葉に心揺らされないから」


 顔赤いですよ。

 目が泳いでますよ。

 落ち着けてないですよ。


「羽咲さんをイジるのは楽しいです。これだけでも充分癒しですよ」


「遊ばないでください!私はもっと他のことで手助けしたいんです!」


「ご飯〜何にしようかなぁ〜」


「し、深奈君〜」




————————————————————

 七瀬視点



 私は今、晩御飯を食べ終わって部屋でゴロゴロしています。

 でも、今見ている動画の内容が全く頭に入ってきません。


 理由は多分、というか確実に今日の朝のことでしょう。


 深奈と朝練をしていた時のこと。


 初めにランニングをした。

 その時点で少しおかしいと思った。

 二週間前の休日にやり合った時は少し運動をしただけで息切れしていて、しばらくは体力向上が訓練内容だと思った。

 でも今はどうだ?十分とはいえ、私の中でのハイスピードに食らい付いてくるほどの体力。この短期間でどう訓練したらそうなるのか全くわからなかった。

 でもここまでは男女の差というもので理解が追いついていた。


 そう、ここまでは。


 次にやった実戦では、二週間前とはまるで別人だった。

 本人は多分気づいていないが、あれは性別だけで現れる差では言い訳にならないほどに強くなっていた。


 この短期間であの頭の回転の速さ、判断能力、瞬発力、筋力、全てにおいて一般人ではまずできないでしょう。

 これもおそらく『殺しの才能』とやらの作用。ずるい。

 

 私はあの時確実に攻めていた。深奈も受け流していたがあのままやっていたら体力的に私が押し切っていたでしょう。

 それはおそらく深奈も分かっていた。

 だから一回わざとやられてカウンターを入れようとしたのでしょう。

 私は一発良いのを入れた瞬間気を緩めた。

 それは今でも思い出せる。だからこそ悔しい。完敗だ。


 おそらくあそこで羽咲さんが割って入らなければあいつの頭突きは当たっていただろう。

 

「はぁ………」


 一発やられたようなもんだ。一年で鍛えた戦闘能力が二週間やそこらで簡単に抜かされるとは思わなかった。

 

 (まあ、負ける気はないけどね)


 私は深奈が最強になる事は確実だと思っている。

 もしかしたら本当にあの学園長も超えることができるかも知れない……………それはないか。


 でも、もし本当に強くなるのであれば、あいつのことは嫌いだし、好きになれないけど、私は…………………

 


————————————————————

 あとがき


 学校が近づいてきた。





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