第19話「俺はどのくらい強くなったのか試したい」

 

 ここに来てから二週間が経った。

 

 寮の生活にはすっかり慣れ、学校にも馴染んできた。

 まあ相変わらず話す相手は少ないが……。

 


 訓練を開始したあの日から今日まで、訓練内容はあまり変わっていない。

 ただ、訓練の時間は増えている。


 初めは授業内のみでやっていたが、やっていくうちにやる気がみなぎってきて、始めてから一週間しないうちに朝練もいつの間にか始めていた。


(よし、今日も頑張るかー)



 ここ三日くらいは毎朝五時に起きまず、歯磨き、次に顔洗い、朝飯作り、着替えなどを淡々とやり、朝ご飯は簡単なのを作って、後に起きてくるみんなの分はラップをしておく、というのが一連の流れとなってきた。


 この流れはそこまで時間がかからないので寮を出るのは毎日六時ごろになっている。


 と、玄関で靴を履いていた時、後ろから人の気配がしたから、振り向こうとした瞬間声をかけられた。


「……………深奈、あんた本当にこの時間から学校行ってるのね………」


 髪がまだ少し乱れているが、寝起きなのだろう。


「あ、七瀬さん。すいません、起こしちゃいましたか」


「いや、たまたま起きただけよ。………朝練してるのね」


 バレてたか。


「すぐにでも皆に追い付かないといけないので……」


「………………朝練、一人でやってるの?」


「まあそうですね。体操して走って筋トレして、最後にその辺に落ちてる棒拾って素振りしてますね」


「…………………………」


「?」


 どうしたのたろう。

 ずっと俯いたままじっと考えている。


「………………………て、手伝ってあげようか?」


「………え?」


 ま、マジ!?

 あの僕に対してだけ清楚感を無くしてキツく当たるツンデレ毒舌七瀬さんが!?


「べ、別にあんたが練習相手いらないっていうならいいんだけどね!あと!私がやりたくてとかじゃ……」


「良いんですか!?七瀬さん、頭でも打ったんじゃないですか?」


「あ、あんたねぇ………」


 おっと。つい変な言葉が出てしまった。

 危ない危ない。


「というかあんた、私には敬語使わないとか言ってなかったっけ?」


「………確かに。なぜ敬語を使っている?」


「ふっ、体が勝手に敬語を使うべき相手だと思ってるんじゃないの?」

「いや、それはないかと」


「即答!?」


 それは無いだろ。こんな暴力やら暴言やらを理不尽に投げつけてくる人。………まあ美人ではあるけど。

 

「でも、本当に朝練に付き合ってくれるんですか?」


「まあ、あんたがしてほしいっていうならしてあげるわよ」


「お願いします!!」


「っ!?ま、まあ、そんなにしてほしいなら付き合ってあげるわよ。準備運動してて。ご飯食べたらすぐ行くわ」


「あざーす!」


(よっしゃー!丁度対戦相手が欲しいと思ってたところなんだ!)


 この二週間でどこまで基礎力を上げられたのかを知りたかった。

 自分でも分かるほど強くなったのが昨日で分かったのだ!

 なんせ、体力がどのくらい増えたのか校庭を限界まで走ったら、初日よりほぼ同時間で10周も多く走れていたのだ!

 まさか二週間でここまで体力がつくとは思っていなかった。

 

 (どのくらい強くなってるのかな♪)


 体操をしながらそんなことを考えていると、七瀬さんが運動着に着替えてやってきた。

 ………が、その姿を見て少し困惑した。

 理由は………


(なんか、エロいな………)

 

 そう、なんかエロかったから。

 簡単だろ? 俺だって男だ。仕方ない。


「やってるわね。まずは何するの?」


「は、はい。いつもは走ってますが、何か良い自主練方法を知っていれば教えてください。色々試したいので」


「分かったわ。………結局タメ口じゃないのね」


「…………だんだんと使っていきます。なんか年下でない異性にタメ口なんて使ったことないんで、変な感じになるんですよ」


「…………そ」


 七瀬さん、なんか悲しそう。

 女性がそういう表情するとこっちが悪いことした気になっちゃうんだよなぁ。俺の弱点だな。

 そ、そんなにタメ口使って欲しかったのかな?


「…走るわよ」


「………分かった」


「………………………」


 そのまま俺たちは微妙な空気のまま走り始めた。

 走ってるところは学校の近くにある林。

 校庭を走っても良いのだが、どうせなら走りづらいところを走った方が練習になるだろうと思いここを走っている。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」


「あんた意外と体力あるじゃない。この前やったときは少し動いただけで息切れしてたのに………」


「あのっ、僕これでもっ、今話せるほどっ、余裕っ、ないですからっ!」


「あ、ごめん」


(くそっ!何でこんな道こんな走っても息切れしてないんだよ!)


 なんだかんだで十分くらいは同じスピードのまま走り続けている。それもハイスピードだ。

 なのに、なのにだ。俺はゼェゼェ言ってるのに隣は少しハァハァいってきたくらいだ。


 まだこんなに差があるのか。


「……そろそろ良いんじゃない?結構動いたでしょ」


「そうですねっ」


 俺たちはそのまま寮の近くまで戻り、ランニングをやめた。いつもはもう少し走るけど、今日は速かったから限界です。


「…………正直このスピードであんたが十分も走れるとは思ってなかった。二週間でよくこんなに体力上げれたわね。これも男女の差かな?」


「そうですかねっ、はあ、はあ、」


「まあ、まだまだね」


 くそっ!ニヤけてやがる。

 馬鹿にしやがって………。


「それじゃ、次なんだっけ?」


「いつもなら筋トレですけど、今日は面倒いので素振りをしようかと」


「素振りだけ?」


「まさか。実戦もしてみますよ」


「そう。なら負けた方ジュース一本奢りね」


「乗った」


 あまりに不利すぎるけど、ここで乗らずして男ではない。

 いいだろう。やってやるよ。負けるのは見え見えではあるが、負ける気はない。

 とりあえず教わった細かい動きや技、立ち回り方などを試してみよう。


「とりあえずその辺からいい感じの棒を拾いましょうか」


「汚いけど、まあいいわ。深奈、あんた泣いても知らないからね?」


「黙って棒探せよババァ」


「こ、コイツッ!!」


 くっくっ。効いてる効いてる。


(………ん?)


「ま、待って!まだ始まってないから!ちょっ待って!まだ俺棒拾ってないから!」



………………………………




「それじゃあ始めるわよ」


「何か始まる前から痛みのデバフがかかってるんだが?」


「…………………この石が床に落ちたらスタートね」


 無視ですかそうですか。


「怪我させちゃまずいから私は手抜きで行くけど、そっちは本気で来ても良いわよ」


「怪我させられる前に怪我させてやるよ」


「言うじゃない」


 そう言って七瀬さんは小さな石を上空に投げた。


 そして地面に落ちた瞬間、一瞬で空気が変わった。


(……………まずはどう来る?)


 相手の様子を伺っていると、早速七瀬さんが動いた。


「うぐっ!?」


 やっぱり速いっ。

 でも前よりは見える。


「ふっ……っ!!!」


 一瞬不敵な笑みを浮かべ、体勢を直した俺にまたすぐに攻撃を仕掛けてきた。


「っ!」


 (反撃の隙すら与えない気か!?)


 でも、その場合の対処法はすでに学園長に聞いている。


『たまに凄まじく速く動ける奴がいてな、そういう敵を相手にして自分が劣る場合、取るべき行動は一つ。距離を取ることだ。距離の取り方はその場の地形をうまく使えば大抵できる。こればっかりは経験がものを言う』


 俺は瞬時に周りを見て、腰あたりまでの大きさの石を見つけた。


(あそこならっ!!)


 俺は方向転換して、七瀬さんを自分ごと石に近づかせる

 そのまま下がっていき、七瀬さんの攻撃を受け流しながら背後にまで近づいた石に腰を乗せ、上半身だけ背後に倒し、その勢いで七瀬さんの顎を蹴った。


「ふんっっ!!」


「くっ!」


 が、当たらなかった。でも、当たることは前提として考えていない。


 (よし、これで距離を離せた)


 七瀬さんが蹴られるのを避けるため一本背後に引いたことにより、石を挟みながらかつ、距離もそこそこ取れた。


「はあ、はあ、もう懐には来させませんよ」


「はぁ、はぁ、はぁ、」


 そりゃそうだ。あんだけ棒を振ったら息も少しは切れるだろう。

 まあ俺の方が息切れはしてますけどね。


「ふぅ……………っ!!!」


「っ!」


 と、一つ息を吸い込んで猛スピードで俺に突進してくる。


 懐には入らせたくないため、出来るだけ攻撃は受けるのではなく避けたい。



 でもそう簡単に出来るものでもない。


(速すぎっ!!)


 何回かこの攻防を繰り返したらおそらくこっちが先に体力の限界を迎えるだろう。

 まあ、やられっぱなしってのも嫌だし、一発くらい当てたい。


 とそこで俺は一つの攻撃を思い浮かべた。


「ふぅ……っっっ!」


「うっ!!」


 俺は七瀬さんの攻撃を一発わざと、でもわざとだとバレないように受けた。

 攻撃が当たったのは腹部だった。クッソ痛い。でも……


(さあ、俺の番だ!)


 俺は一発良いのを喰らわせていい気になっている七瀬さんの右肩を掴み思いっきり引き寄せた。


「んなっっ!!」


「いい気になってんじゃっ、ねぇー!!!」


「っ!!!!」


 そう、俺はそのまま頭突きしようとした。

 俺も痛くなるのは知っている。でも、どうしても一発食らわせたかった故の行動。

 俺は頭を振りかぶった時点で良いのが確実に入ると思っていた。


 でも、現実はそう甘くなかった。


 横から手が出てきて俺の頭をチョップしたのだ。


「痛!!!誰だよ!こんな良い、とき……」


「……深奈君?あなた今、女の子に頭突きしようとしてなかった?」


「……………………してません」


「私の目を見て言える?ほら、目を見て?恥ずかしがらずに、ほら?」


 横やりを入れたのは他でもない、寮母の羽咲さんだった。




———————————————————— あとがき


 すごく疲れてます。理由はまだ無い。


 夏ですから皆さんも夏風邪や熱中症、流行りのコロナには気をつけてお過ごしください。




 家庭科の課題誰かやって

 



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