第17話「帰宅」


 羽咲明希視点



 (………深奈君、大丈夫かなぁ。)


 心配です。とても心配だ。


 あの学園長は良い人だ。私がここに来た時も良くしてくれた。


 あの学園長は強い人だ。物理的にも、精神的にもこの学園であの人を勝る人はいないだろう。


 あの学園長は天才だ。戦闘中での頭の回転に関して言えば今後超えるものは出てこないだろう。

 

 でも、すごく心配だ。一番安心できる人が側に付いているのに何故か心配だ。


 理由は多分、私が母親気質だから。


 別に子供を産んだこともないし、妹がいたわけでもない。でも昔から年下の面倒を見るのが好きだった。だから今は寮母なんて仕事をしている。


 寮母の毎日は本当に楽しい。皆とゲームしたり、恋バナしたり、テレビを見たり。私はこんな生活ができている今が本当に好きで、なによりも守りたいのだ。

 だからこそ、私は皆から目を離したくない。何よりも大事な子達だから……。



 深奈君はおそらく、他の男の子みたいにならなければすぐに学園最強になれるはずです。

 『才能持ち』なんてそうそういませんから。


 この前の手合わせでは本当に驚きました。

 戦闘初心者の人があそこまで考えて行動に実行出来るなんて今まで見たことがないくらいです。


 でもいつかは敵と戦う時が来ます。確実に。

 最近はだんだん敵が活発になってきてる気がするので、そう遠くないうちに戦争が起こるでしょう。


 それを考える時はいつも泣きたくなります。


 もしあの子達の中の誰かが犠牲者になってしまったら。

 もしあの子達の中の誰かが死んでしまったら。


 そう思ったら胸が千切れそうになります。

 

 でも、だからこそ、そうならないためにも私が守らなければならないのです。あの子達は手助けをしてくれれば、元気でいてくれればそれで十分。




 この場所は私が死んででも守り抜きます。




 ♢



 学園放課後


 今日は戦闘訓練の見学だけで終わった。俺は明日から本格的に始まるらしい。

 

「はぁ………」


(疲れた)


 理由は言うまでもなく、朝から集めている視線だ。


(これは慣れないな)


 とそこへ愛菜さんが近くに来た。


「神田さん、放課後に学園内を回る予定でしたよね。行きましょ?」


「ん、ああ。よろしく頼むよ」


 俺が椅子から立っただけで皆こっちを向く。

 何なんだよ………。


「はぁ…………」


「……あの、疲れてますか?私は別に明日でも良いですよ?」


「ああ、いや!大丈夫だ。平気平気。疲れてはいるけど、こんな面倒なことさっさと終わらした方がいいでしょ?」


「へ、平気ならいいんですけど………」


 気を使わせてしまった。

 とりあえず職員室と保健室、あと食堂の場所を覚えれれば良いか。


「ではまず職員室に行きましょう!」


「お願いしますー」


 元気だなぁ。





 二分くらい廊下を歩いたら着いた。意外と近いところにあった。


「ここが職員室です。でも担任の学園長はここにはいないから覚えててね」

「分かりました」

「ついでに隣のここは保健室です。怪我とか具合が悪くなったらここに来て治療してもらってね」

「分かりました」


 一つ下の階


「ここが食堂です。結構美味しいと評判で、早めに来るのをお勧めします」

「やっぱり人気なんですね」

「やっぱり?」

「実は一回、ここで食事したことがあるんだよ。先生に連れられてね」

「そうだったんですね」


 そんな感じで色んなところに連れていってもらい、気がつけば五時半になっていた。


「あ、やべ。そろそろ帰らないと晩御飯作るの遅くなるな」


「え、深奈さんが作ってるんですか?」


 学園内を回っている間に仲良くなり、いつの間にか名前で呼ばれていた。

 これが陽キャか。


「そうですね。とある事情で」


「そうなんですね。では今日はこの辺で解散にしましょうか。ほとんど回れたのでよかったです」


「本当ありがとう。助かったよ」


「いえいえ。他にも質問などがあれば声をかけてください」


「分かった」


 良い人に出会えた。

 最初は後ろからクラスの人たちが付いてくるのかと思っていたが、おそらく愛菜さんが一声かけてくれたのだろう。感謝。


「そんじゃあ帰るわ。また明日」


「はい、さよなら」


 軽く挨拶を交わし俺は寮へ向かった。






「ただいまー」


 ドタドタドタドタドタ!


 (な、何だ!?足音?)


 そこに、奥から走って羽咲さんが現れた。


「深奈君おかえり!どうだった?怪我とか無かった?何か変なことされなかった?」


「大丈夫ですよ。楽しかったです」


「そ、そう」


 この感じだと羽咲さん、一日中俺のこと心配してくれてたんだろうな。


「すいません。なんか心配させちゃったみたいで」


「いやいや!楽しかったなら良かった。…あの後学園長に何かされた?」


「いや、特に何もされてないですよ。……というか羽咲さん!今の学園に男子生徒いないっていう情報は言われたけど、その人たちが全員引きこもってるっていう情報言われてなかったんですけど!」

 

「え?言ってなかったっけ?今は皆引きこもり中だよ」


「言われてません!………はぁ……羽咲さんは真面目で優しいけど、忘れっぽいですよね」


「んな!? し、深奈君までそれを言うの?皆そう言うんだよぉ〜」


「まあ実際そうですし……。でも少し抜けてる女性って可愛いと思いますよ」


「え!?か、可愛い!?やだぁ〜照れる〜。って、だめよ私!こんなあからさまなお世辞、信じちゃだめ!」


「それ初めて会った時も言ってませんでした?………可愛いと思うのは本当ですよ?」


 そう言ったら一瞬で目の色が変わりジト目で見てきた。


「………………深奈君は女垂らし。そうやって女性を虜にしようって作戦で…………」


「ご飯作りますよ〜。今日は何が良いかな〜」


「し、深奈君〜」


 かまってちゃんか。








 みんなが帰ってきた頃にはすでにご飯は作っていたい。皆お腹減らして帰ってきてるんだ。至福の時間を少しでも与えたい。


 とそこで………


「「「ただいまー」」」


 みんな帰ってきたかな。

 俺はリビングのドアから顔だけだし……


「ご飯できてますよー!」


「もう!?お腹すいたー!今日何ー?」


「七瀬ちゃん。手洗ってからね」


 今まで無かった生活。全く想像すらしてなかった日常を今目の当たりにして、俺らしくもないがこんな日々が続けば良いなと思った。












 ♢



 敵軍基地


「おい眼鏡、作戦どうなってんのか教えろ」


 体のでかい男が眼鏡をかけた知的な男に聞いた。


「………本格的に潰すのはまだ先の話です。でも近いうちにやることは決まっています」


「じゃあそれを教えろ」


「……教えてもあなたはすぐ忘れるじゃないですか」


「ウルセェ! さっさと教えろ!!」


「………はぁ。まず先にしなければならないことは、寮または学園全体を物理的に壊すこと。教師らはその後です。まずは生活する場所を潰せるかが鍵です。この作戦に失敗すれば我々第三部隊は確実に落とされます」


「……分かった。実行の日にちは?」


「今日からちょうど二ヶ月後の夕暮れ。…それまでにやることは一つ。壁は愚か、地をも揺るがす程の力、破壊の力を高めることです」


「俺にピッタリじゃねーか。学園の破壊は任せろ。ガキどもに俺のパワーを止められるやつぁいねぇだろ」


「………そうですね」


 体のでかい男は大きく笑いながら暗い部屋から出ていった。


 一人になったその部屋で眼鏡の男は不敵な笑みを浮かべた。


「さて、パーティーの時間が近ずいてきましたね。         ……………なんであんなに笑ってたんでしょう?」


 疑問に思いながらも元の仕事に戻るのだった。







————————————————————

 あとがき


 胸糞悪い系は無しです。(例、ゴブ◯レ

 普通に戦わせます。


 そういうのは作者が心から嫌っているので。





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