第16話「学園長がナンバーワン」


 教室の前まで来た。

 学園長には『少し待ってろ』と言われたので今一人で廊下に立ってます。


 自己紹介でなんて言おうか悩んでいたら教室の中から声がした。


「ええ!男の人ですか!?」

「このクラスに男性の転入生なんて珍しいですね!」

「どんな人かなぁ?」


「面白い奴だぞ!俺もさっき会ったばかりでよ………………」


 いやハードル上げないでください学園長!


 さっき俺面白いこと何もしてないから!勝手に面白いと思って勝手に笑ってたのアンタだから!


「よし、そろそろ良いだろう。シンナ、入ってきて良いぞー」


 学園長から入れという声がかかった。あまり気乗りはしないけど行くしかない。


 俺は引き戸の取っ手に指をかけた。


 ガラガラ


「………………………」


「くっくっくっくっ!緊張してんのか?」


「してますよ」


「そうか。そんじゃ、自己紹介頼む」


「はい。ええっと、神田深奈です。先週の金曜日にここに来ました。寮は第9棟寮です。以後よろしくおねが…………」


「きゃぁーー!本当に男性よ!」

「お、男なんか!男なんかぁー!!」

「久しぶりに見たなぁー、男性」

「ついにアオハルが私たちにも来たのね!」


 急にクラスがうるさくなった。


「おーーい、うるさいぞー。まだ自己紹介中だ。黙って聞いてろー」


「学園長!それはできません!だって男性がうちのクラスに来たんですよ?こんなの今世紀最大の出来事ですよ!」


 それに便乗してクラスの人たちがさらに騒ぎ立てる。


「………まあ凄いことではあるが、あんまりうるせーと無理矢理力で黙らせようかと思ってんだけど」


「「「「……………………………」」」」


 一瞬にして教室全体が凍った。これが学園長の力。

 …………いや怖すぎないか?


「…………ええっと、自分はこの学校の構造とかどこに何があるとか全く分からないので、教えてくれると助かります」


「その辺は学級委員である私が教えてあげます!」


 そこで急に立ち上がった少女。

 学級委員の人が教えてくれるならそれは一番かもしれない。


「それもそうだな。では学校については

愛菜、お前に頼もう」


「了解しました!」


「ずるーい」

「私もついて行こーっと」

「私も!」「私も!」「うちも!」


 やけにうるさいな。男ってそんなに珍しいの?少なくはあるけど何人かは男がいるんじゃないの?


「あの学園長。この学校………」


「学校ではなく学園な」


(どっちでもいいだろ!)


「……………この学園は男が少ないことは聞きました。でもいないというわけではないですよね?なのに何でこんな異性に興味があるような女性しかいないんですか?」


「……お前、明希から聞いてないのか?」


「え?な、何をですか?」


 急に嫌な予感。背筋が凍る感じが……。


「アイツ…………。いいぜ、俺が教えてやるよ。シンナ、この学園には男がいる。数人な。……でもそいつらは全員、現在進行形で引きこもり中だ」


「何じゃそりゃぁぁぁぁ!?!?」


 ひ、引きこもり!?何でだよ!


「じ、じゃあ今この学園内にいる男は……………」


「間違いなくお前だけだな」


「……………………………」


 …………叫ぶ気すら起きない。

 これじゃただのハーレム学園じゃないか。何が「おい」裏社会の学校だよ。これじゃ表社会の大人の学校の方がまだ「おい」しっくりくるぞ。


(羽咲さん!やっぱり言い忘れてることあったじゃないですか!)


「おいっつってんだろぉがぁーーー!」


「うわぁぁぁ!」


 なんだ急に!叫び出した。


「お前大丈夫か?そんなにショックだったか?」


「それはもうえげつないカミングアウトでしたね」


「そりゃ悪いな。でも悪いのは言っていなかった明希だ。後で言っといてやれ。………アイツ何かと忘れっぽいからなぁ」


 学園長も羽咲さんが忘れっぽいこと知ってるのか。もしかして有名だったりするのか?


「どうしたの?顔色悪いみたいだけど……」


 とそこに、学級委員の愛菜と呼ばれていた少女が固まった人混みの中から出て来た。

 急に顔を覗かれたからびっくりした。


「いや、なんでもないよ」


「そう、なら良かった。学園長、この後の流れってどういう感じですか?すぐに授業とかですか?」


「そうだな、お前らはいつも通りやらせる予定だ。俺も一応は近くにいるがコイツの面倒見ないといけねーから、今日はお前が仕切ってやってくれ」


「分かりました。………神田さん、でしたよね。今日の放課後とか空いてます?もし良ければ学校を案内しようかと思ったんだけど……」


「放課後ですね。分かりました。お願いします」


「よろしくね」


 そう言って愛菜さんは固まった人混みの方に走って行った。


「……はぁ…………」


「なんだお前、もう疲れたのか?」


 そりゃ疲れるだろ。

 女子と話すのなんて表社会に住んでた時は全く無かったのに、ここに来たら逆に女子としか喋ってない。たまには男と話したいな。

 

「………あの、なんで男の生徒たちは皆引きこもってるんですか?」


 あ、これ聞いてもいいやつかな?

 でも俺は拉致でここに来させられたんだ。言ったら被害者側だ。これくらいの質問には答えて欲しい。


「…………これを言うのはあまり気は良くないが、お前には言っておこう」


「…………………」


「この学園には表社会からすれば人間離れした身体能力を持つ女が大勢いる。私も含めてな。それは良いことなんだ、我々学園側からすればな。でもそれが男過疎化の問題点なんだ」


 元々過疎ではあるけどね。

 強い女性が多いことが男過疎化の原因ってことか?


「………分かってないって顔してんな。では楽しい質問タイムだ。お前は同年代の女子にボロボロに負ける日々を送って楽しいと思うか?」


「……………………な、なるほど」


 凄く分かった。

 要するに、表社会から来た男側からしたら同世代の女子に負けるのはプライドが許さない、でも何故か女子が馬鹿強くて勝てない。

 今引きこもっているってことは、おそらく女子に負けまくって嫌になったんだろう。

 

 その気持ちは俺もわかる。周りから同世代の女子に負けるような弱い男、なんて思われたくない。

 

「………全くだ。そんなの当たり前だろうに。初めは皆弱い。でも男は体力、筋力、身体能力、それぞれが女よりも遥かに高い。数ヶ月頑張ってやっていれば学園トップクラスの強さを持てていたのだろうが、結局皆、現実から逃げていった。…………ああ、お前は絶対に逃げさせないからな?」


 ………俺はこの人のクラスで本当によかったのだろうか。雑用とかさせられそうだ。


 現実から逃げていった男達はどのくらいの

期間頑張ったのだろうか。


「…………はっきり言って今のところは逃げる気ないですよ。最強と言われてる学園長くらいには強くなる気です。………でも逃げたくなった時は逃げさせてください」


「嫌だ」


「………………………」


 予想でしかないが、多分今の俺が思ってるほどこの学園での生活は甘くない。

 精神的にも肉体的にも限界が来る時はあるだろう。

 だから逃げ道を作りたいんだが………。

 どうやら道は一直線らしい。


「ていうか、お前が俺くらい強くなるって、なれるわけねーだろーが!ハッハッハッハ!」

 

 う、うぜぇ。学園長が生徒を馬鹿にしてやがる………。

 ムカついた俺はこの時誓った。今も涙目になりながら笑い続けているこの人をいつかぶっ倒すことを。








「まあ俺を倒してぇなら、まずは明希をワンパンで落とすくらいには強くならないとな!」



 …………………倒すのはかなり先になるだろう。



————————————————————

 あとがき


 誤字脱字などがあればコメントなどで教えてくれると有難いです。(レビューして欲しい)

 よろしくお願いします!



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