第7話「win-winがいいのでは?」

 

 逃げだした4人を3人がかりで部屋に戻し、今、羽咲さんに説明してもらっていたら、何故か紐でぐるぐる巻きにされて正座させられています。


「サキさん!男子が住むようになるなんて聞いてませんよ!」


 やっぱそうなるよね……。大体予想はついてました。


「……………確かに。聞いてはない………」


「まあ、良いんじゃないですか?羽咲さんが決めたなら」


「別に良いじゃない。男が一人増えても。うふふ、結構イケメンじゃない………。やっと私の私を捨てられるわ」


 あれ?そうでもない?まあ一人変なこと言ってるけど………。


「深奈君が住むようになることを事前に言ってなかったことは謝ります。でも私が連れてきてしまった以上、私が管轄しているこの寮でしか泊めることができないのよ」


 四人中三人は了承してくれてるような感じだが、一人があまり賛成出来ていないようだ。

 そりゃあそうだ。考えてみれば急に女子寮に男子が入ってきたら拒絶するのは当然だろう。

 やっぱ俺帰った方がいいだろ。俺はその方が嬉しい。寮の人たちも嬉しい。win-winの関係じゃないか!


「羽咲さん、やっぱ自分帰った方がいいと思いますよ。そうした方がwin-winの関係になれますよ」


「それはダメです。私が許しません」


「…………………」


 断られた……。なんでそんなに俺にこだわる?自分の何処をみたら才能だのの確信が得られる?てか俺そんなに殺しの才能あるのか?

 まあここから出られても帰る家がないんですけどね!(泣

 そこで南さんが口を開いた。


「なんでこの男にそこまでこだわるんですか?私もまだ何も聞かされてないんですけど………」


「そうですね。みんな集まりましたしそろそろ言いますか」


「その前に紐を解いてくれま…………」


「深奈君には、『殺しの才能』があります」


「「「「は!?」」」」「ふう〜ん………」


 なんか凄い驚いてる。この才能ってそんな凄いのか?


「この男が……殺しの才能を……!」


「それは……凄いですね」


「ま、まあなんでも良いけど、とりあえずこの紐解いて…………」


「そうでしょ!?だから私が直々に捕まえてきたの!」


「……殺しの…才能……」


 もしかして、この裏社会の中では俺の持つ『殺しの才能』とやらが結構有名な才能なのだろうか。


「じゃあ私たち、いつかこの人に殺されるかもしれないわね」


「「「「っ!?」」」」


 全員こっち向いて少しおどおどしている。

 俺がこの人たちを殺す?いやいや、そんなわけないでしょ。俺人殺しどころか人を殴ったことすらないんだぞ?

 あとさっきから俺無視されてるよねわざとだよねそうだよね。


「なんかよくわからないですけど、僕はあなた達を殺そうとはしません。絶対に。なのでこの紐を早く解い………」


「深奈君は人を殴ったこともないヒヨり人間なので、安心してもらって構わないかと…」


「でも、人って変わりますよね?……それに、気になってたんですけど、なんでそんなにこの男を信じられるんですか?サキさんは凄く慎重で、強くて、優しくて、尊敬できる人です。それはこの寮の人全員が知ってることです。でも今回の件についてだけは納得がいきません」


「七瀬ちゃん………」


「男性が来ることを知らせていない時点で問題なのに、その男性を信じて共に生活しろっていうのは、言ってしまえば丸投げではありませんか?それは流石に勝手ではありませんか?」


「そ、それは………………………」


 まずい。なんか重い空気になってきてる。

 聞いてる限り、羽咲さんはこの寮の人たちにすごく好かれている。

 新生活初日から自分のせいでその友情壊すようなことは絶対にしたくない。



 そこで俺は息を思いっきり吸い………


「スゥゥゥゥゥ…………フン!!!」


 ブチィ!!


「「「「「「……え?」」」」」」


 俺は思いっきり紐を引きちぎった。力任せだ。みんなはあっけらかんとした顔でこっちを見ている。


「この紐、結構劣化してたから腕の力だけで千切れました」


 この紐がボロいことに気づいたのは巻かれている時だ。腕の力だけで千切れるかは分からなかったが案外いけた。


「…自分がこの寮で生活することが皆さんの迷惑になるなら、自分は野宿でも良いです。野宿は野宿で面白そうですし。あ、でもトイレはさせて下さい。流石に野糞は嫌なので……」


 さっきの話を聞いてる限り、羽咲さんの管轄内なら何処で過ごしても良いということだろう。なら何も、友人関係を壊してまで俺がここにいることはない。

 それに俺、良く趣味でキャンプ行ってたし、大丈夫だろ。


 こんな優しい心を持った人間がするような行動、俺はあまり好きじゃないけど………。まあ、自分のためでもある。とりあえずここは乗って欲しいが…………。


「………何言ってるの?」


「……え?」


 ……ん?


「はぁ」


「…え?」


 た、ため息を吐かれました。というか、みんな何故か少し怒ってる気がします。

 羽咲さんの方を見てみたら、羽咲さんも少し頬が膨れています。賛成してくれそうな七瀬と呼ばれていた女子も何故か不機嫌な気がします。


「……深奈君はもうこの寮の住人なんです。私が決めたのでそれはすでに決定事項です。勝手に逃げないでください。ちゃんと話し合って、どうすればこの「寮内」で生活しても良いと言われるのか、ちゃんと考えてください」


 今度は自分があっけらかんとした顔になってしまっている。

 正直、怒られるとは思わなかった。

 思い返してみれば、勝手に拉致してきたとはいえ、こっちでの自分の生活の場を作ろうとしてくれているのに、その当事者が諦めたらそりゃ怒られるわな。


 少しの沈黙後、七瀬さんが口を開いた。


「…………何も考えずに自分の事だけを考えてしゃべってしまいました。すいませんでした」


 おそらく皆に向けての謝罪。この重い空気になったのは自分のせいだと思っているのだろう。


「…良いのよ七瀬ちゃん。こういう大事な話し合いの場であなたのように、自分の意見をはっきりと言える人はそういないんです。私は七瀬ちゃんが真剣に考えてくれていることが分かって嬉しかったよ?」


「…………はい……」


 皆、この二人のやりとりを聞いて表情が和らいでいる。もちろん二人も。


 こういう関係はそう簡単には生まれないし、作れない。まあ、俺はあの輪に入ろうとは思わないけど。


 というか結局俺はどうすれば良いんだ?







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