第5話 一回目の密会
あの印象に強い出来事から二日後、世の学生が一番元気がないであろう月曜日を迎えていた。
勿論僕も例外ではなく、重たい教材が入ったバックを何とか持ち上げ重たい足を頑張って動かしながら学校に向かった。
歩いていると例の公園が見えてくる。金曜日のあの時宇野さんと関わる判断が正しかったのかそれは今でも分からない。
だだし、僕にでも分かることが一つある。それは宇野さんとの関係当分終わりそうではないということ。
宇野さんの様子を見に行ったあの日僕たちは沙耶ばあから二つの任務を与えられた。
一つは月に一回光井旅館に行くこと。
これは沙耶ばあが宇野さんの様子を定期チェックする為のものであり、この際僕も同行するのも条件の一つだった。
僕が一緒に行く必要性がないように思えて、僕は沙耶ばあに抗議したが、沙耶ばあからは「あんたが関わったのだから男なら最後まで面倒見な!」と言われてしまい渋々この条件を受け入れた。
二つ目の条件は下校中一緒に帰ることだ。
これは宇野さんが精神的に不安定だと判断した沙耶ばあが自分が見れない間の監視としての役割を僕にさせるものである。
この提案に対して宇野さんは最初は否定的だった。こちらにこれ以上迷惑を掛けれないことや、そこまで面倒を見てもらうほど弱くはないなどの理由を挙げていたが沙耶ばあには通じなかった。
宇野さんは一度失敗してしまった。どのような問題があったかは僕には分からないが、宇野さんはその問題に対して解決出来ないで挙句の果てには心を一度折られている。
そんな人物がいくら大丈夫だと言っても、その言葉を信用できるほどの価値はない。沙耶ばあもその点について言及すると宇野さんは押し黙るしか出来なかった。
これが土曜日に起きたことに一部だ。この二つの条件は宇野さんがもう安全だと沙耶ばあが判断するまで続く、つまり沙耶ばあの所に行く時に判断が下されるので、宇野さんとの関係は最低でも一か月続くことを示している。
高い確率で多くの変化が僕たちを襲うのだろう。それはもう仕方ないことだと思って諦めているが問題はどのように変化していくかだ。
僕が関わるようになることで周囲に色々な変化が起こる、いい変化もあれば悪い変化もある。
沙耶ばあはその変化について考慮しているはずだ、その上で僕に宇野さんの監視を任せている。つまり、僕ならいい感じにやってくれると信頼されているのだ。
僕はその信頼に応えなければならない。そのためにも考えなければならないことが多くある。
今後の方針について考えながら歩いていると後ろから声を掛けられる。
「優!おはよう!」
「おはよう、
僕に話しかけてきたのは、友達である
誠は細マッチョなスタイルで見た目だけならそれなりに人気がある容姿をしている。
「元気がないな、そんなんだから優の人生は暗いんだよ!」
「僕の人生が暗いことが確定しているように言わないでくれるかな?」
「いや、俺は客観的な事実を述べているだけだから」
言動からわかるように、誠は何かと人を見下す発言をする。まあ、親しい人にしかしないのだが、そう言うこともあって誠の交友関係はそこまで広くない。
顔もスタイルも良いので、普通にしておけばそれなりに楽しく出来るはずなのが、本人曰くそういうことをするのは疲れるし詰らないということなので馬鹿にしても大丈夫な僕などとよく絡んでいる。
「優、学校に着いたら前回教えてもらった問題をもう一回教えてもらえないか?」
「お前、前回の問題ならやり方をメモしたものを渡したはずだが」
「ああ、それね・・・・・・無くした!」
その言葉に僕は深いため息をする。
誠はあまり頭がよくない。ただ、やればできるタイプなので授業中は興味が湧かないと聞かず、聞かなかったところは後から僕に教えてくれと頼んでくる。
それ自体はあまり気にしていないからいいのだが、迷惑を掛けていい友達だと思っているのか、何度教えても聞きに来るなど大変苦労を掛けさせられており、そんな日々が続いたため、いつしか誠の保護者みたいな感じになっている。
「わかった、その問題については後で教えてやる」
「ありがとう!やっぱり持つべきものは友達だぜ!」
「そう思っているなら、少しは迷惑を掛けない努力をしてくれ」
ガッツポーズをしながら喜んでいる誠に僕は呆れながら言う。
「別にいいだろ?優は友達少ないんだから」
「・・・・・・」
こいつに人を思うという機能はないようだ。少なくともお世話になっている人に言うことではない。それに友達が少ないのは関わろうとしていないだけで決して自分の能力不足のせいではない。
しかし、誠が言うことは客観的な視点では事実であり、ここで反撃でもしようなら無駄に高性能な頭をフル活動して僕を言い負かそうとするので、僕は反抗の意思を乗せた視線を誠に送るだけにしておく。
そんな感じで僕たちは学校まで喋りながら向かった。
教室に入ると中には誰もいなかった。それもそのはず、僕の登校時間はかなり早いため大抵は誰もいない教室を独占できる。
早く登校する理由は様々だが、一番は落ち着いて準備が出来ることだ。僕は慌ただしいことは苦手なので誰もいない教室はとても落ち着けるのだ。
ゆっくりと準備していると誠が問題用紙を持ってこちらに向かった来る。
「と言うことでこの問題を教えてくれ!」
「少し待ってくれ」
僕は荷物をまとめ、教えるためにペンとノート取り出す。
一度説明している問題なので僕はスムーズに問題を教えていく。僕自身教えることに関しては自分の為にもなるし、さして苦でも無いため割といろいろな人に教えている。
そこから15分ほど経ったのだろうか、イラストなどを活用してしっかり分かるまで教えていたのでそれなりに時間がたってしまった。
静かな教室も徐々に来る生徒によって賑やかになってくる。
「それにしても今年のクラスは面白いことになりそうだ」
勉強に疲れて集中力を切らしたのか誠がこちらに話しかけてきた。まだ15分しか経っていないのだが、問題も一応教え終わっているので誠の話に参加する。
「どうだろうな?」
「いやいや、確実に面白くなるはずだ!だってあれだけの人物が揃えば絶対なにか起こるだろ!」
そういいながら、誠は一つのグループに視線を向ける。そこには三人の男女がいる。
「全国模試一位を争う天才、将来を有望視されているバスケットプレイヤー、今は休業中である天才女優、これだけでも十分に面白くなりそうだろ」
誠は少し興奮気味に喋る。こういう面白そうなことに関する情報を仕入れる手腕だけはすごい。この行動力をもっと別の事に役立てることが出来たらもっと楽なんだけどな。
ただ、僕の視点からだと誠も運動神経だけは相当にいいはずだ、頑張ればいいところまで行けると思う。
誠はそのことに関してあまり触れないのでこの際少し触れてみることにした。
「スポーツだけで言うなら誠も当て嵌まるな」
「冗談は止せよ、俺は生粋のエンジョイ勢だから比べれられることもおこがましいぜ」
誠は僕の発言を冗談だと捉えて笑いながら否定する。割と本気だったのだが本人が否定するならそうしておいた方がいいだろう。
そんな雑談をしているとある生徒が教室に入ってくる。
「来たな、このクラスで四大有名人最後の一人!運動も勉強もできる才色兼備で社長令嬢の宇野綾香だ」
誠がご丁寧に説明した人物は宇野さんだった。まあ、誠の説明からも分かるだろうが宇野さんは学校から見てもかなりの有名人であり、それに合った影響力を持ち合わせている。
そんな大物である宇野さんと今後関わっていくということがどれ程大変なことになるのかは容易に想像できてしまう。さっきまで出来るだけ考えないようにしていたが、誠の説明と宇野さんを見たことで現実を突き付けられてしまった。
そんなことを考えていると一瞬宇野さんと目が合った。すると、宇野さんは一瞬廊下の方に視点を動かした後、僕だけがぎりぎり分かるように手招きしてきた。
一連の行動から宇野さんが僕に来て欲しいと合図していることが分かる。しかし、今ここで僕が宇野さんの所に行こうとするならば、多くの人から注目されてしまう。
そのことは僕が嫌なことぐらい分かるはずだ。何より宇野さんも嫌なはずだ。するとあの手招きを今すぐだという意味ではない可能性が高い。
ならいつか、それは手招きする前にした廊下を見る動作がキーになってくるはず。廊下を見ているということは教室の外で集まることを示している可能性が高い。
そう思い僕は宇野さんの所にすぐに向かわず、宇野さんが何かしらのアクションがあるまで待っていると、案の定宇野さんは荷物整理した後教室の外へ出ていく。
「悪いそういえば先輩から部活の連絡があるから来るように言われてるんだった、取り合えず今日はここまででいいか?」
「別に構わないぜ」
そう言ってさっきまで広げていた勉強道具を片付ける誠を尻目に僕は宇野さんの後を追う。
ある程度歩くと宇野さんは一つの空き教室に入っていく。僕も周囲に人がいないことを確認してその教室に入る。
教室に入ると宇野さんがこちらを向いて頭を下げた。
「すいません、光井君の為とは言いあのようなややこしいことして」
どうやらあの凝った合図の事についての謝罪らしい。
「頭を上げてください、元々僕の為にしてくれたんですから、謝る必要はありませんよ、こういった時の為に連絡先の交換をしていなかった僕の配慮不足です」
「そう言ってくれるとありがたいです」
宇野さんも下手に意地を張ることせず、こちらの言葉をすぐに受け入れた。こういった気遣いは非常に楽なのでとてもありがたい。
「それで何か僕に伝えたいことがあって呼ばれたんですよね?」
「はい、沙耶さんが付けた条件に対して昼の休みの時間に話し合いたいと思いまして、予定が空いているのか聞きに来ました。」
確かに、一緒に下校するとしても集まる場所や時間などのルールを決めておく必要があるだろう。それが互いの為になる。
「お昼なら空いています、集まる場所はどこにしますか?」
「私はこの場所にしたいと思ってます」
僕は少し考える。今使用している空き教室は基本使用されることが少ないが隣の教室は移動授業で使われる時がある。僕の記憶が正しければ月曜日の時間割ならば隣の教室は使用されるはずだ。
出来るだけ他人との接触などを避けたいはずなので今日この場所を使うのはあまり向いていない。
そう言うことで僕は場所を変える提案をする。
「お昼の時間だと隣の教室が使われるので場所を変えた方がいいかもしれませんね」
「そうなんですか、知りませんでした」
宇野さんはこのことを知らなかった様子で少し申し訳なさそうに言った。まあ、宇野さんが知らないのも仕方がない。普段では使わないところだから知らない方が当たり前である。
僕はこういった情報を集めることが好きなので知っている。こういうことを知っていると一人になりたい時などにとても便利だ。
「しかし、そうなるとここの教室は使えませんね」
宇野さんは困った感じで言う。どうやらここ以外で使えそうな場所を知らないようだ。まあ、密会しやすい場所という時点でその条件に当て嵌まる所は少ないし、それが必要になる時などほとんどないためスムーズにいかないだろう。
まあ、僕はそういった場所について複数当てがあるのでこういった場合で困ることはない。
「場所なら六棟二階の方に使える教室があるのでそちらで集まりませんか?」
「はい、そうしましょう」
のちに何回も行うことになる密会の記念すべき第一回目が終わった。
「同時に出ていくと色々と不味いですよね」
「確かに、他人に見られると困りますね」
あそこまでしたのに一緒に出ていく姿を見られてしまったらすべてが無意味だ。
「光井君どうぞ先に出って言ってください」
「いや、立場とかを考えると宇野さんがここにとどまっている方がリスクがあるので先に宇野さんが出て行った方がいいですよ」
僕がここにいて見つかってもみんな興味がないのでいいのだが、宇野さんの場合ここにいることを見つかれば変な噂が回る。
別にその程度の噂などでは特に困るような事にはならないと思うが、ある程度の対応が必要にはなる。
時間が過ぎるほどに生徒などが増えていくので見つかっても平気な僕よりも宇野さんが先に出ていく方がいいはずだ。
「ならお言葉に甘えて先に行かせてもらいます」
宇野さんはこちらに一礼をしてこの教室から出ていった。
それから5分程度時間を空けた後僕も教室から出ていった。幸い誰にも見つかることはなかったらしく、面倒なことは起きなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます