第15話 お気に入り
帰りの馬車の中、私があまりに大人しいのでウォルフはちょっと心配そうだった。
私はひとり夢の事を考えていた。
アレは私?というよりはアリアだとすると、私の中にアリアが居るってこと?
ただの夢だから気にしなくていい…のかな?
ただの夢じゃない気がするのは私が転生者だからだろうか。
アリアが死んで私が入った。と思っているだけで本当は違うのかも。本当は?
本当ってなんだ?私だって本当にいるはず。アリアもいたはず…いるのか?まだ…ここに…
なんだか怖い話になってきた。
私はなんだ?アリアの体を乗っ取った感じになってんのかな?でも、リーナは本当に死んでいたはず。マティウスが看取ったんだし、間違いない。
でもアリアは?死んだから私が入ったんじゃなく、入れ替わったというか、取り憑いたというか。私オバケなの?怖すぎなんですけど。
グルグルと考えていたらお昼ご飯の為に馬車を停めて休憩する事になった。
なんだか元気の無い私にウォルフは大丈夫か?と声をかけ食事を渡してくれた。
隠れ護衛騎士様はグっと伸びをしながら軽く体を動かし周りを警戒しているようだ。
「あの…隠れ護衛騎士様、この辺にも魔物とか出るのですか?」
と尋ねると
「隠れ…って、私はアリステア・カーンだ。」
「申し訳ございません。アリステア様」
名前判明!隠れ護衛騎士改アリステア・カーン様だって。濃い青色の髪に水色の瞳のアリステアは二十代前半ってとこか、細身の身軽そうな感じだ。
「魔物が出ても私がいるから大丈夫だ。心配いらん。ちょっと最近街道にも多くみられるから用心の為だ。」
「はい、心配はしておりませんが、アリステア様がお疲れではないかと。」
「…お前は本当に変な子供だな。駄々をこねるかと思えば大人のような口をきく。無礼な奴だがマティウス様は気に入っていたようだし。」
は?気に入るって、私を?
「私をですか?ご迷惑をおかけしていると…」
「ヘェ~、自覚はあるんだな。」
「勿論です。睨まれてばかりでした。」
私は色々思い出す。睨まれ怒られバカと言われ、でも最後はちょっと優しかったけど。
「マティウス様は本来あまり子供と話をしない。幼い頃より利発なお子様で、いつも大人とばかり話されていた。」
「優秀な方だとダリューン様にお聞きしました。」
「ウム、だからバカな…いや、子供らしい子供とはあまり気が合わなかったのだろう。」
「それって、私が賢いってことですか?」
「いや、違う。」
間髪入れず否定されたよ。
「多分、面白く思ってらっしゃるのだろう。」
「面白く?」
私とウォルフはお互いに見合って首をかしげる。何か面白い事を言ったっけ?
「マティウス様にズケズケとものを言ったり、字を教わったり。そんな厚かましい子供は今まで居なかったからな。」
思い出すと割と危なかったのね。よく無事に帰れるな、マティウス様は友達いないのかな?いなさそうだな、言えないけど。賢すぎるって人を寄せ付けないところがあるもんね。
アリステアと初めてちゃんと話したがダリューンの様に気さくな貴族だった。そんな貴族ばかりなら良かったが、側仕え様は怖そうだからアレが普通なんだろうな。
私達は食事休憩を終えるとまた馬車に乗り込んだ。
途中、遠くで魔物の鳴き声が聞こえたがこっちには来なかったようだ。何事もなくキルクの家までたどり着いた。
*** *** ***
家の前に着くとジョルジュとラルクが迎えてくれて久しぶりに抱きしめられた。
なんか落ち着く父さんのお腹のフカフカ。
ジョルジュはアリステアに深々とお辞儀をした。アリステアはフムと頷くと
「今回は子供ばかり連れて行ってしまって心配かけたな。だか、成果はあった。我が主も大変満足しておられた。」
「お役に立てたのなら光栄です。」
「追って結果を知らせる。また、娘の居場所はテンプルウッド家に知らせておくように、わかるな。」
「…………はい。かしこまりました。」
アリステアはそのままオルガの家に引き返す為に馬車を出した。
私とウォルフが疲れた〜と言って家に入ろうとするとジョルジュが突然
「ラルク、ウォルフ、話がある。すぐに下の部屋へ来なさい。」
と顔色を悪くして言った。するとラルクが
「父さん、アリアもいた方が良い。自覚しないと大変な事になる。」
と涙目で言う。何?なんなの?私とウォルフは訳がわからず戸惑ったがとにかく皆で二階のテーブルに集まり、席についた。
ジョルジュとラルクは互いに頷きあい、ふぅ〜っと息を吐くととんでもない事を言い出した。
「アリア、お前はマティウス様に何をしたんだ?」
「え!何って…えっと…」
私が戸惑っているとウォルフが
「そう…だな、アレコレ質問攻めにして、字を教えてもらって、暴れて押さえつけられて、自分も連れて行けと駄々をこねて、帰りたくないと…」
「も、もういい…父さん気を失いそうだ。」
ウォルフなんで全部言うの!もっとオブラートに包もうよ。
「…大変だったんだな。」
ラルクがずぶ濡れの捨て猫でも見るような目でウォルフを見た。幸薄そうにウォルフが頷いた。
「そうか…どこでどうなったのか…何かの間違いなら良いが…」
「なに!何なのさっきから、ラルクはわかってるみたいだけど。」
勿体ぶった言い方に段々イライラしてきた。
「さっき貴族様がアリアの居場所をテンプルウッド家に知らせておくようにと言ったろ?」
「うん、言った。結果を教えてくれるってマティウス様が約束してくださったからでしょ。」
「あの言い方はそれだけじゃないだろう…」
「なぜ?何の意味があるの?」
「あれは今後アリアがマティウス様に関わる可能性があるという事だ。」
何だそれ?関わる?結果を知らせるのがかかわるって事?
「大袈裟だよ、そんなの。」
「いや、違う。あの言い方は将来的にアリアがマティウス様に嫁ぐかもしれんという事だ。」
ハァーーー?何がどうなってそうなるの?
分かんない分かんない分かんなーい。
「相手は貴族だ!無理があるだろ!」
ウォルフが立ち上がって叫ぶ。ホントそれ!
「勿論正式な婚姻じゃない。平民だから愛人だろう。」
「あ…あ…あ…愛人!私6才だよ、犯罪だよ!」
私はハンパない動揺で叫ぶと
「バカ、将来的に、だ。……そのハズだ。」
ラルクもっと自信もって否定してよ、怖い!
貴族から所望されて愛人に召し上げられる平民も無い訳じゃない。稀に結婚する人もいる。
玉の輿だし、狙っている人もいるらしい。
いやそれにしてもマティウスは私にそんな気は無いと思うけど。私は最後ちょっとときめいたが向こうはタダの幼児扱いだったしね。ないない。
私がそう話すとジョルジュは少し落ち着いたが、
「そうなら、周りの人が押さえとこうとしたのかな?それならいずれは離してくださるか…」
何それ完全にキープ扱いじゃない。キープとか出来ないから。
「いずれっていつ?どれくらい?」
「マティウス様が誰かと婚姻されて落ち着いたら…だろうな。だが、今アリアを押さえるって事は…まだまだなのだろうな。」
だからいつ?それまで私は結婚はおろか交際もしてはいけないらしい。
ラルクの落ち込み方が酷い。嫁にはやらんと息巻いていたからね。ジョルジュは動揺しているがなにやら考えているようだ。
無言の夕食を終えサッサとベッドに入る。久しぶりのベッドだよ、グッスリ眠るとしよう。
また真っ暗なとこにいた。
今度は目の前に子供が座っている。
うつむいていたが私を見上げる。
……アリアなの?……
コックリ頷く。帰りたいと悲しそうに言う。でも私にはどうやって帰してあげればいいのかわからない。
……ごめんね、どうすれば良いかわからないの……
夢の中のアリアがポロポロ涙をながす。
ごめんね。ごめんね…
私は小さいアリアを抱きしめて髪を撫でながら謝り続けた。
目が覚めたが部屋には誰もいなかった。今度は叫んでなかったようだが涙は流れていた。
はぁ…やっぱり…私は取り憑いたというか…アリアの場所をとっちゃったというか…
のそのそとベッドから起き上がり着替えると部屋をでる。
テーブルには三人共座っていて私が入るとピタッと会話が止まりニッコリと笑って振り返りおはよう、と揃って言ってきた。
はい、何か私の話をしていましたね。
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