第11話 不信感
昼寝し過ぎた私はテントに入っても眠くなる訳もなく。毛布に包まっても目は冴えまくっていた。
隣のウォルフはすっかり熟睡していて軽くイビキをかいてる。
ダメだ、眠れない。
私は諦めてそうっとテントを出た。外では焚き火の側でダリューンが不寝番をしていた。
「眠れんのか?寝過ぎだな。」
そう話し掛けてきた。
「はい…マティウス様は?中ですか?」
「あぁ、さっき覗いたら癒やしをかけていたから…」
「ふぅ〜ん、癒やしの魔術って疲れるんですか?」
「まぁ、大勢に使用したり、大掛かりなのはな。一人位ならマティウス様位のお力なら全然大丈夫だ。」
「それでオルガは治るのですか?」
「衰弱だけなら大丈夫だ。病なら無理だな。」
「癒やしも万能じゃないんですね。」
「万能なら誰も死なんよ。」
ダリューンは何かを思い出したのか少し俯く。何かじゃ無くて誰か、かな?
「ちょっと見てきます。」
邪魔するな、と言う声を背中に聞きながら戸を静かに開ける。
マティウスは調剤机の所に腰かけ何やら書き物をていた。チラリとこちらを見たがまた視線を戻して続ける。
私はオルガの側に行き呼吸を確かめて、ホッとする。生きてる…
マティウスの方へ行き小声で話かけた。
「何をしてるんですか?」
「書き物だ。」
「それはわかりますよ。何を書いてるんですか?」
「…本日の経過と、後はこの薬草棚の中身だな。随分優秀な薬剤師のようだな、オルガは。」
「そうなんですか!」
私は驚いて薬草棚を見渡す。壁一面に小さな引き出しが有り一つ一つに名前を書いてある。
アリアの記憶に無いのは多分興味が無かったからだろう。
オルガは薬剤師だったんだ。
だったら、病で家族を亡くしたのは辛かっただったろうな。
「オルガの旦那さんと子供は病で亡くなってます。」
私はマティウスに告げる。
「それは、無念であっただろうな…そうか、それで一人で研究していたのかもな。」
私も同じ事を考えていたので頷く。
村の人によると前は私と同じ町に住んでいたが、西の村に出稼ぎに父子で出た時に流行り病にかかったらしい。
一人残されたオルガはそれからこの村に来て村外れの空き家に住み着いた。
ジョルジュも前から知っていたようだ。
漠然と聞いていたオルガの身の上話にそんなに深い意味を汲み取っていなかったアリアは無邪気に懐いていたようだが、今の私は別人で元子持ちの母だ。痛いほどその気持ちがわかる。
「そうだったんだ…」
私は涙ぐむと鼻をすする。マティウスがハンカチを手渡してくれた。
私はそれを黙って受け取り激しく鼻をかんだ。
それからマティウスのノートを覗き込む。
「読めるのか?」
「殆ど読めません。昨日から習い出したので、単語がわかりません。」
「なんてチグハグな奴だ。字も読めんのに医術の知識はあるのか。」
「べ、別に知識は無いですよ。疑問を口にしただけです。」
「フン…、で、何が知りたい。」
「今はこの単語が知りたいです。読んでください。」
「はぁ…段々厚かましくなるな…。」
マティウスは溜息をついたがノートに書いてある事を全部読んでくれた。
何度か同じ単語が出てくると、これは?と問題に出してきて私もそれに答え、さながら授業のようだった。
明け方近くまでそれは続き、もう寝ろと促され私はテントに戻って眠りについた。楽しかった。
ニ、三時間たった頃起き出しテントを出る。
またまたウォルフとダリューンは朝練中だった。私はアクビを噛み殺しながらオルガの家に入って行った。
さっきと変わらずマティウスは調剤机の前に居たが突っ伏して眠っていた。
お疲れ様です。
オルガに近づくと目を覚ましていた。
「おはよう、オルガ。気分は?」
「アリア…貴族がいる。」
オルガはやはり貴族が気になる様でチラッとマティウスの方を見ると小声で話した。
「大丈夫だよ。とっても優しい貴族だから。オルガに癒やしをかけてくれたんだよ。」
私はニッコリ笑って答える。するとオルガは首を横に振り
「貴族は火をつける。」
リーナの村の事を言っているのだろうか?
「アレは…病気が広がらないようにするんだって。」
「違う…」
オルガはそう言って、後は口を開かなくなった。何が違うんだろ?
私は何度か質問したがもう何も答えてくれなかった。
諦めて朝食を取ろうと家を出る。直ぐにマティウスも出て来ると
「何を話していた?」
起きてたのか。私はそのままさっきの会話を話した。
ダリューンも側に来て聞いていた。
「貴族に不信感があるのなら、新月魔草の事はきけないですかね?」
「そうだな…」
二人は考えこんでいる。
「何を尋ねるのですか?」
「どうやって手に入れたか、そしてお前や自分の薬湯に入れていたのか、それは効果があるのか、尋ねたい事は沢山ある。」
確かにそうだな、だったら…
「私が二人きりになって尋ねてみましょうか?それなら話すかも。」
「そうかもしれんな…」
朝食の後、オルガに質問する為に色々打ち合わせをする事になった。
質問は新月魔草を何時、何処で手に入れたか。薬湯は効果があるのか。が主だが、
「もしかしたらオルガは他に何か知っておるかもしれん。」
「何かって?」
「新月魔草が効く事を突き止めたなら病の原因も突き止めたはずだ。」
「そうなんですか!」
私は驚いた。マティウスは当たり前だと言う顔で、
「原因が分かってから治療法が確立されるのが本道であろう。」
「そうなんですね~。色々試してたまたま当たりとか無いんですね。」
「当たり前だ。そんな訳があるか、お前はバカなのか。」
「バカは酷いです。知らないだけじゃないですか!」
私はマティウスの暴言にふくれっ面で抗議する。それを見てマティウスは急に口元に手をあてると横を向いて肩を震わせ始めた。
人をバカ呼ばわりして笑うなんて酷いよ。もぉー!
二人のやり取りを見ていたダリューンはニヤニヤして満足気だった。後でウォルフから聞いたが
「あんなに楽しそうなマティウス様は初めてだな。」
何か楽しいのやら。
兎に角、オルガに質問コーナーである。
家の中へ入り、取り敢えず当たり障りのないとこから始めるか。
「オルガ、お腹空いてない?何か食べる?」
家の中には食べ物は無く、私達が持って来ていた物を与えてみる。
オルガはパンを少しと水を摂る。
「あのね、私も熱が出たんだよ。この前帰ってから。」
そう言った瞬間、オルガはビックリして起き上がり私を抱きしめた。
「熱が…吐き気は?」
「あったよ、頭痛も。でも治ったの。オルガが治してくれたの?」
するとオルガは私の頬を両手で挟みながら顔をジックリと見て
「大丈夫、もう大丈夫。あぁ良かった。お前は助かったんだね。良かった、うぅ……」
そう言って泣き崩れた。私は彼女の背中を擦りながら大丈夫だよ、泣かないでと話続けた。
そのままオルガはまた黙ってしまい、私に背を向けてしまった。何もきけなかったが焦っては駄目かな。一度外へ出る。
外では聞き耳を立てていたマティウスとダリューンとウォルフが天を仰いで溜息をついていた。
まぁ、病人だし、もう少し待とうね。そんな雰囲気が充満していた。
ダリューンとウォルフはそのまま鍛錬に取り組みだし、マティウスは書き物を始める。
私はマティウスの横でコレなんて読むんですか?と質問し、マティウスは面倒くさそうだが丁寧に教えてくれ、それぞれ過ごした。
お昼前になり、私はオルガにご飯が食べれるか聞きに行った。
家の中に入って…アレ?えっと…どこにいるの?
「ねぇ…オルガはどこ?」
外に出てダリューンに尋ねる。
ダリューンはすっごい速さで家の中をざっと見ると裏に回った。
異変に気付いたマティウスは眉間にシワを寄せ御者だと思っていたけど違うっぽい人に何やら支持をだした。
ダリューンは家の裏に何か見つけたらしく、御者らしき人と話した後、その人はどこかに消えた。
ダリューンは残ってマティウス様の護衛だ。ウォルフは私の側に来て手を握った。
「今度こそ動くな。」
「…オルガが…」
「探しに行く気だろ?」
私はそっとウォルフから視線をそらす。
そらした先にマティウスとダリューンがいてジッと私を見ていた。
どこにも行きませんよ!わかりました!
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