第9話   調査開始

「何って、知らないから質問してるのですが。」


 私は慌てて答えた。マティウスはそれでも視線をそらさず続ける。


「それにしては質問が的確過ぎる。医術の知識も無いはずなのに私の考えを知っていて導かれるような言い方だ。」

「そう言われましても…」


 ギョっとして両手を振りながら否定するがかなり怪しまれる。


 まぁ、確かに前世では当たり前に平民が知っている医学の知識でもココでは高等なのだろう。どう誤魔化そうか…


「…それで何が言いたい。」

「私はその…ただ…医術者の方には移らないのが不思議だなぁと。」

「そうだ、そこも解せんところだ。我々が現地に到着するのは病が村全体に広がった数日後だ。」

「ではその時点でもう伝染性は無くなっているって事ですか?」


 マティウスは頷く。応援部隊は勿論、移らないように細心の注意をはらっているがそれでも何人かは移るのが今までの経験だろう。


「どう考えても伝染性が変化しているとしか思えんし広がり方も早すぎる。一日、二日程でほぼ全滅だ。」

「潜伏期間では無いのでしょうか?」

「潜伏期間?」


 あ、またやっちまったか!?ウイルスなんかの概念がないと潜伏期間ってないのか?


 ただの家庭の医学的なレベルの私の中途半端な知識をポロリとこぼしてしまい、再び焦る。


「なぜそんな言葉を知っている…」


 あ、ある事はあるんだ。え~っと…


「最新の考え方だ。」


 まだまだ睨まれてる。ここは知らぬ存ぜぬで通すしかない。


「ヘェ~、そうなんですね。」


 私は視線をそらしてなんとかごまかされてくれないかと願う。

 マティウスは何故かそれ以上は追求せず、そのまま就寝となった。




 私とウォルフは二人で一つのテントを使わせてもらえた。幼い子供で女のコなのでちょっと気を使ってくれたらしい。


 マティウスは馬車の中を何やら組み替えて簡易にベットに出来るらしくそこへ。

 ダリューンは御者と見張りを交代しながら焚き火のそばで、側仕えと共にゴロ寝だ。っていうか、御者も見張りとかするんなら騎士なの?気がつかなかったよ。

 流石に一日馬車で移動し、さっきは際どい話の流れで神経すり減ったのかすぐに爆睡してしまった。






 翌朝、目覚めるとウォルフはもう居なくてテントの中で一人だった。

 まだボーッとする頭でモソモソと外へ出ると、そこには朝食の準備をする側仕えの姿がありどうやら寝坊ってわけでもない事を悟る。良かったよ。


 少し離れた所でウォルフとダリューンが朝練をしていた。男の子って…


 私は側仕えの人に挨拶すると、お手伝いしますと申し出たが素っ気なく断られた。

 貴族様の口にする物を平民の子供に触らせる訳にはいかないらしい。


 手持ち無沙汰なのでそこらをブラつく事にした。


 焼け野原の村が見えるところでは流石に休めないと少し離れた所で野営していたのだが、何度か訪れていた場所なので土地勘はある。


 少し行けばオルガの家だ。行ってみようか?一人はマズイかな?

 サッと行ってサッと帰ればいいかな、っと勝手に判断しそちらへ向っていると、


「一人でどこへ行く?」


 ギョッと肩をビクつかせ振り返るとそこに朝日に眩しく煌めくイケメン貴族マティウスが眉間にシワを寄せ美しく睨んでいた。


「お!お早うございます。どこ、どこにも行きませんよ。」


 私はブンブンと首を振り否定する。ちょっとクラクラしたよ。


「ふん…其方からは目を離さぬ方が良いみたいだな。」


 そう言ってダリューンを呼ぶと何やら話している。側で聞いていたウォルフが驚いて私の方に駆け寄る。


「アリア!勝手するんじゃ無い。お叱りをうけるぞ!」

「ブー、もう受けた感ありまーす。」


 私は不満げに口を尖らす。まだ行っても無かったのに。ブーブー。


 その後、朝食をとると早速村へ…正確には村の跡地へ向う事になった。

 馬車と側仕えと御者はそのまま待機で四人で向う。


 昨日も衝撃を受けたがやはりここへくると涙ぐんでしまう。私は口をキュッと結び泣くのを我慢しながら跡地の中へと入る。


 村の入口だった所からさらに奥へ。村長の家があったり、それぞれの小さい家が立ち並んでいた辺りへ来た。


 確か私リーナが最後にいたのが、この辺の小屋の前だったから…


 私はその場所で立ち止まりそこにあった腰かけるのに丁度いい石を見つける。


 コレだな、最後の場所。


 そこに座るとその時の状況が思い出された。数時間で亡くなったリーナとしての人生、アレは何だったのか。私は考えこんでしまう。


「嬢ちゃん何か思い出したのか?」


 流石にそのまま放って置いてはくれずダリューンが声をかけてくる。

 私はハッとして我に返りテヘっと笑って誤魔化す。


「あー、やっぱり直ぐにオルガの所に行ったと思います。」

「ではそちらへ行こう。」


 マティウスは私を促すと皆で村外れのオルガの家を目指した。


 暫く歩くと家が見えてきた。


「良かった、燃やされてない!」


 私は駆け出すとオルガの家の戸口に手をかけようとした。すると、


「待て!私が先に確認する。」


 マティウスが止めに入る。


「いえ!私が先です。何かあるといけないですから!」


 ダリューンが素早く取って代わると、軽く膝を曲げながら腰を落とし剣を抜いて片手で構え反対の手で戸をゆっくりと開ける。


 その姿をウォルフが小声でオォ〜っと言いながらキラキラした目で見ていた。

 騎士様だよって感じッスか。すっかりダリューンに心酔しているようだ。


 静かに戸を開けて中を覗くとダリューンが


「誰か倒れております。しばしお待ちを!」


 スっと中に入った。私は直ぐに続けて入ろうとしたがマティウスに遮られ後ろからウォルフに肩を掴まれた。


「ダメだ。アリアは外だ。」

「だってオルガなら知ってる顔を見れば安心するじゃない。」


 私は食い下がったが首を横に振られる。


「どんな状況かわからないだろ。」


 ウォルフにそう言われドキッとする。それはオルガが無事じや無いって事?そんな…


 私は震えて息苦しくなりウォルフにしがみつく。


 お願い…


 家の中に入ったダリューンがマティウスをよび、二人で何やら話している声は聞こえる。が、内容はわからない。

 少ししてダリューンが桶を手に出て来てウォルフに水を汲んで来るように頼んだ。ウォルフは私にここから動くなと言い聞かせ井戸に走っていった。


 私はオルガの家に入ろうと戸口に向かうと直ぐにダリューンに捕まった。


「いま動くなと言われたばかりだろ!」

「うぅー、離して!オルガは?オルガなんでしょ?無事なの?」


 呆れ顔のダリューンは、さほど力も入れずに私の首根っこを掴んだまま


「大丈夫だ、生きてる。マティウス様が診てくださってるからジッとしてろ。邪魔だろ。」


 その場にとどめられた。

 私は暴れて絞まる首をムググっと堪えながら地団駄を踏む。


 スキあらば駆け込もうとするので終いにはダリューンに荷物の様に小脇に抱えられてしまった。


 数分でウォルフが水を汲んで帰って来ると私を見るなり驚いてダリューンに謝ると私を受け取りしっかり手を繋いだ。


 ダリューンは桶を受け取り中に入って行った。

 中では窯に火をつけお湯を沸かしているようだが、まだ家に入る許可が出ないのでイライラとしながら待っているとやっとダリューンが出て来た。


「意識が戻った。怯えて話が出来ないようだから嬢ちゃんちょっと来てくれ。ただしあまり近寄るな。安全かまだわから…」

「わかりました!」


 私はウォルフの手をすり抜けるとダリューンの横をダッシュで通り家の中へ飛び込んだ。


 中ではベットに横たわったオルガの側でマティウスが立っており勢いよく近づいた私を抱き留めると少し下がらせた。


「まだ触れるな!状態がわからん。」

「ムゥ…オルガ、私よ!アリアよ!大丈夫?」


 マティウスが後ろから私のお腹の辺りに手を回して抱えそれ以上は近づけない。もどかしさで八つ当たりにマティウスの腕をバンバン叩きながらオルガに声をかける。

 流石に幼女の力なんてたいして何とも無いが呆れ気味な感じのマティウス。

 それを見てダリューンが慌てて私を受け取りまた荷物さながら小脇にかかえオデコにピシッとコンパチをいれる。


「落ち着け!大人しくしないと外に出すぞ!」


 そう脅され我にかえった。


 大きく溜息をつかれ、ゴメンナサイとあやまった。


「とんだ娘だな。」


 マティウスとダリューンは声を揃えてつぶやいた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る