第8話 旅のお供
ダリューンは無言で地面を見つめそんなダリューンを私は見つめていた。
みんな無言で成り行きを見ていると黒いフードのイケメン貴族マティウスがやって来た。
「ダリューン、どうした?」
ダリューンは我に返り立ち上がると手を払い
「あぁマティウス様、この嬢ちゃんが面白いこと言い出すので…」
私に話を振った。
オ〜イ、止めてよ。また私なの?
ジョルジュを見るとサッと私のそばに来て後ろから口をグッと抑える。手が大き過ぎて鼻もふさがれる。
「申し訳ありません。子供の言う事ですから。」
焦る父、気持ちはわかるが緩めてくれないと死んじゃうから!
私はモガモガと抑えられた手から逃れようと暴れる。
「…手を話さないと気を失うぞ。」
マティウスは無表情に注意する。ジョルジュはハッとして手を離してくれた。
助かったよ。危なかった。
私が命拾いし、ジョルジュがあたふたしていると、
「時間が惜しい。」
マティウスの一言で馬車に乗り込む。
流石にマティウスと私達だけ乗り込むんじゃ無くダリューンも一緒だ。まだマシだな、ダリューンは話しやすいし。いや、話しかけちゃダメなんだっけ。
貴族マジ面倒い。
御者台にはマティウスの側仕えらしき人と御者がいて全部で6人の旅だ。
馬車の窓から手を出してジョルジュとラルクに別れを告げた。
二人共号泣なのは言うまでもなく。ダリューン引きまくって苦笑い、マティウスは無表情のままでいよいよ旅立った。
馬車の中は四人がけで私達は向い合せで無言で座っている。
私とウォルフは少し伏し目がちに、マティウスは顎に手をやり何やら考え中。
ダリューンは軽く咳払いをしてマティウスの方を見る。
「なんだ?」
「さっきの話なのですが…」
ダリューンは私を見ながら
「この嬢ちゃんが小さい村ばかりが流行病にやられてるんじゃないかって。」
「…ほぅ。そこに気がついたか。」
マティウスがこっちを見て答える。
なんて余計な事を言いやがる。私はダリューンが話しやすいから素朴な疑問を投げかけただけなのに!
ウォルフは私の肩を抱いて引き寄せ、私もスゥーッと近づく。
ダリューンはまたもニヤリと笑い楽しそうだ。人の気も知らないで!
「確かに最近は辺鄙な村ばかりだ。それはそうなんだが初めはそうでも無かった。」
「私が知っている所は小さな村ばかりですがもっと前から出ていたのですか?」
ダリューンはちょっと驚いて続ける。
「そうだ。去年より急激に増えているが、その二年ほど前から例年より流行病が増加傾向にあり調査は始まっていた。」
つまりこの四、五年前から原因不明、病名不明の流行病が広がりつつあったらしい。
旅人通過で成り立っていた領地としてはそういう所には気を付けていたらしく意外と調査開始は早かった。
だか全く手掛かりが無いままどんどん広がりかなり焦っているらしい。
調査は領主様直属の医術者の中でも優秀な者が選ばれて研究がなされているらしい。
「マティウス様も研究なさっているのですか?」
私は思わず聞いてしまう。ウォルフはオイッ!って感じて私を見ていたけどもう面倒くさいので子供の振りして話してしまう。実際見かけは子供だしね。
「私の師が責任者でその関係で私も加わっている。」
「主な症状は何なんですか?」
「咳に始まり嘔吐、頭痛、発熱、最後は意識の混濁だな。」
「みんなに病気が移るのですか?」
「そうなんだか…そうとも言えん。」
「なぜですか?」
私はポンポンと質問を投げかけそれに丁寧に答えてくれるイケメン貴族、それを面白そうに見るダリューン、一人蚊帳の外感のウォルフ、それぞれの旅は続く。
「其方はなぜそんなことを聞く?」
流石にこんな平民の子供が次々と質問してくるのが気になったのか、マティウスが不思議そうに眉間にシワを寄せ問う。
「あの村の人はみんな顔見知りです。リーナは友達だし、オルガだって大事な人です。」
「…そうであったか。」
「なぜそうなったのか知りたいのです。なぜ病にかかり、なぜ治らず、なぜ死んだのか。」
「私もそうだ。なぜか知りたい。」
マティウスは無表情に戻ると
「そして治したい。」
ポツリと言うとそのまま黙って一人思考の海に沈んでいった。
途中で馬車を止めてお昼ご飯を食べている間もマティウスは一人で側仕えに給仕されながらお昼ご飯中もトリップ。
私とウォルフとダリューンは三人で一緒に食べていた。
「ダリューン様はマティウス様とは一緒に食べないんですか?」
「あぁ、まぁ、あの方はよく考え事をなさるからな。俺はどちらかと言えば賑やかなのが好きだから。」
「へぇ〜。賢い方は色々考えなくてはいけなくて大変ですね。」
「待て待て、俺がバカみたいじゃないか、嬢ちゃんひどいな。」
「エヘッ、違いますよ。ダリューン様は護衛が任務でしょ。そちらに力を入れて頂かないと。」
私はナイスフォローを送り難を逃れる。
「調子のいい嬢ちゃんだな。」
黙って見ていたウォルフはもう諦めたようで自分も少しづつダリューンに話しかけていた。
「ダリューン様は騎士なんですよね?」
「そうだが?」
「魔物とかの討伐もなさるのですか?」
「あぁ、ウォルフも魔物退治したことあるのか?」
「はい、この前は畑にグズモットが大量に出没したので応援に行ってきました。」
グズモットとは畑を土の中から荒らす害獣でモグラかネズミかって感じの小型の魔物らしい。
魔物は小物で少数なら農民達各々で退治するが大量に出没すれば町の組合に応援を要請される。
大物や小物でも大量発生なら騎士団に討伐要請するのが通例なのだ。
「そうか、最近グズモットは多いな。アレはすばしっこいが強くは無いから簡単に殺れるだろ。」
「はい…俺もそう思ってたんですがあまり上手く退治出来なくて…」
「ムムッ、それはイカンな。今からちょっと鍛えるか?」
「はい!!」
ウォルフは思わぬ提案に目を輝かせて立ち上がると宜しくお願いしますっと頭を深く下げた。
コレだから男の子は、はぁ…。
棒切れを剣代わりに持ち張り切って訓練を始めたウォルフとダリューンからそっと離れた。
ダリューンは何も起きない護衛ばかりで暇を持て余していたのか、元々教えるのが好きなのか楽しそうだ。
マティウスはまだまだトリップしたままだったので少しブラつく。
あまり遠くへは行けないのでグルっと辺りを見る。フムフム…なんにもないね、ちょっと草木が枯れ気味だな。雨が少ないせいだね。なんて思っているうちにまた馬車に乗り込んで出発する時間が来た。
やっと日も沈みかけた頃リーナの村があった所に着いた。
なんだここ、一面焼け野原だ。
かろうじて建物があった場所が確認出来るくらいで柱一本立っていなかった。燃えかすが点在してるだけだ。
「酷いよ…こんな…」
私は以前の村の記憶を思い起こして泣けてきた。
残ってるよ、私の中に。アリアの目で見たこの村が焼ける前の風景が。
みんなの笑顔も、働く姿も、楽しそうな声も。
無言で涙する私をウォルフは静かに隣で髪を撫でてくれる。
マティウスもダリューンも何も言わず、そこから少し離れた所に野営の準備をする様に支持していた。
調査は明日からだ。
食事を済ませみんなで飲み物を手に焚き火を囲み何となく明日の段取りを話し出す。
「明日はアリアの行動を辿って行きたいと思うが…大丈夫か?」
マティウスは私とウォルフに確認する様に話す。ウォルフは私を心配する、私はそれに笑顔で応じて向き直り
「大丈夫です。その為に来たんですから。」
「そうか。無理はさせたくないが事は急務だからな。頼んだぞ。」
「ただ、本当に私で役に立つのでしょうか?」
「フム、この病についてわかっている事は突発的である事、強い伝染性がある事、死に至る事。」
「マティウス様は今までどれくらいの村をまわったのですか?」
「五つだ。今年に入ってからだからな。」
ここでも一年は十二月ある。日本と大体同じで四季もある。今は初秋だ。
「医術者は皆様病にかかってないのですか?」
「派遣された医術者及び護衛、側仕え、下働き達は誰もかかっておらん。」
マティウスは少し睨むように見る。ビクつく私に追い撃ちをかけるように
「其方は何か知っているのか?」
と詰問された。
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