第6話 旅の同行人
当然、その日は三日後の話で家族会議は紛糾していた。
貴族様からの下知なのだから逆らえる訳はないのだが、庶民には庶民の生活がある。店をほったらかす訳にいかない。
だが私は密かに喜んでいた。
兎に角もう一度村へ行けるのだ。当初の目的達成!テッテレー!
流行り病から回復したかどうかは調べようも無いだろう。
結局わかりませんでしたって事で許してもらうしか無い。でも原因究明と治療法の解明は確かに必要だから出来るだけ協力するっと。
最終的に会議は誰が私に着いて行くのかが話し合われた。
未成年どころか幼女である、もちろん一人で行かす訳ない。
ジョルジュは明後日に仕入れの予定があるのがなんとも悩ましかったようだ。
本来なら保護者の自分が行くべきだし着いて行きたい、だが店の仕事もある。
という訳で同行は兄弟のどちらかになった。
いつもなら外的な事はウォルフがこなす事が多いので今回もそれで即決かと思いきや、大人しいラルクが珍しく絶対に自分が行くと気負っていた。
心配MAXの兄ゴコロは大変有り難いが行動力ならウォルフの方がある。
体格的にもガッチリしてるのはウォルフだから最後はラルクに諦らめてもらうしかない。
ラルクは私が危険な目に会うかも知れないのに家で待つのは嫌だったようだ。
「アリアすまない…俺は役に立たない。情けない兄だ。」
思っていたより落ち込みだしたのでビックリした。
「そんなことないよ、たまたま今回はウォルフの方がむいてるってだけだよ。適材適所って言うでしょ、ラルクは店をしっかり守ってね。父さんも留守だし。」
「アリア…お前いつそんな言葉覚えたんだよ。さっきも貴族様にちゃんと挨拶出来ていた様だし…。」
おっと危ない、私は子供だった。ちょっと違和感無くなるくらい勉強してる姿をみせないとな。いつまでも子供の振りも大変だし。
「私だって成長してるんだよ。オルガとかにも色々教わったし。ケガの薬草だって知ってるんだよ。」
私はエッヘンと胸を張った。これは本当の事で、オルガは薬草に詳しかった。いつも色々な薬草を採ってきては小屋に保管していた。
きっと家族仲良く暮らしていた当時は良いお母さんだったに違いない。
私やリーナの事を時々急に抱きしめてくれる時があった。普段は無口でしかめっ面だがふと優しい顔をする。私アリアは母がいなかったのでお母さんってこんな感じかなって思っていたものだ。
次の日、まだ少し落ち込んでいるラルクは言葉少なく朝食を済ませると仕事に向かった。
ジョルジュは昨日から色々な注意事項を並べては溜息を付くというとってもウザい…いや心配してくれてるんだよね、黙って聞いていよう。
ウォルフはいつ戻れるかわからないのでとりあえず三人いる従業員に一通り説明をし自分が居ない間は交代で一人店に泊まって貰うことにした。
ラルクが家に一人になるのを避けたのだ。
今までこんな事無かったし今回は結構落ち込んでいるのでいるので様子を見ててもらう為だ。
ジョルジュは三日ほどで戻る予定だが遠出の時は何時も一人の従業員を伴うので今回は彼らに負担がかかる。
特別手当が必要だな。ウォルフは溜息をついてラルクに相談に行った。
私はなんとか軟禁は解除されたが家からは出られない。リビングでボーっとしているのもなんなので折角だから勉強する事にした。
少しでもココの知識を増やさないと駄目だ。
勉強ならラルクに聞けば良い。頼りになる兄だと思わせれば少しは気が晴れるだろうし。
私は店の奥の部屋に行く為に階段を降りて行った。
階段下では兄達が何故か昨日と同じ青い顔で奥の商談室兼事務所を見つめていた。
なに?怖いんだけど。
私が驚いてそっと降りていくと気付いたラルクが人差し指を口に当ててシーッとする。
「また貴族様が来た。今度は大人の貴族だ。お前は上に行ってな。」
「えー!私も見たい。」
「バカ!見たいじゃない!また何か言われたらどーするんだ!」
私達は廊下で小声で言い合った。
すると騒ぎが聞こえたのかドアが開くと中から見知らぬ顔が覗いた。
「あぁ、お前かぁ。ちょっとこっちに来い。」
なんだか軽い感じで呼ばれた。私だよね?
だから言ったじゃないかという兄達を横目で見ながら私は部屋へ向かう。
部屋に入るとジョルジュは昨日よりは幾分マシな顔色で私を手招く。
「アリア、ご挨拶を。こちらは護衛騎士のダリューン・バーソロミュー様だ。」
「アリアです。宜しくお願いします。」
護衛騎士って貴族様の、だよね。貴族様の護衛って事はやっぱり貴族様なんでしょ?
イケメン貴族と違いかなり体格が良く背が高く日に焼けて強そうな雰囲気だ。二十代半ばってとこか、笑うと目がなくなるタイプで鼻筋も通っておりこれまたイケメンだ。
如何にも騎士って感じの革鎧を身に着けて帯刀している。
「あぁ気楽にな。俺は貴族と言っても下位の貴族だ。これを持って来ただけだ。」
そう言って革袋をガチャリと置いた。何?
「昨日はマティウス様が急にいらして驚いたろ?すまなかったな。本来なら呼び出すなり、俺が先触れをだし伴をして来るはずなのだがあの方は少し変わっておってな。下の者を時々困らせるが悪い方ではないのだ。」
そう言って人懐っこく笑った。紫の髪に青い瞳、思わずつられて私も笑う。
「あの方はマティウス様とおっしゃるのですか?」
私がそう聞くとジョルジュは慌てて
「も、申し訳ありません。アリア!口を慎みなさい。」
あ、叱られた。名前呼んじゃダメだったみたい。失敗、失敗。
「あの方はマティウス・テンプルウッド様だ。俺と違って上位の貴族だからちゃーんと丁寧に対応しろよ。まぁそんなに固っ苦しい人じゃないけどな。」
イケメン貴族の名前がやっと判明した。本来ならお付きの人がいて、その人から名前を紹介されるんだって。
でもこの前は一人でいきなり来て、聞きたい事があるって話が始まったからこっちから訪ねるタイミングを失ったまま、イケメン貴族呼ばわりしていたのだ。もちろん私の心の中だけだが。
身なりで貴族だとはすぐに分かるが名乗らないとかかなりの変人だな。
ダリューンの方が優しそうで接しやすそうだ。どっちみちマティウスには直答はあんまりする機会ないだろう…って待てよ、私かなり話してるな。既になんどか睨まれてるし。
よし、大人しくしとこう。上位貴族だ、怖い怖い。
ダリューンは仕度用にお金を置いて明後日、宿に来るようにと言い残し帰った。
カッコ良かったな、イケメン二人と旅か。
本来なら楽しく過ごせるところだが相手は貴族だ。チラ見で我慢しとこう。
私は置いていかれた革袋を指差して
「ねぇねぇ、幾ら入ってるの?」
兄達も気になるのか近寄ってくる。
ジョルジュは袋を開けると中を見て、えっ!と驚くと中身をテーブルに出した。
そこには大銀貨が5枚入っていた。兄達もギョっとして流石貴族様!と二人で頷いていた。
お金の単位はリムルと言って上から金貨、銀貨、銅貨だが庶民は殆ど銀貨と銅貨しか扱わない。銅貨には大きさの違う三種類がある。感覚的には十円玉、百円玉、千円玉って感じだ。金貨銀貨は大と小の二種類。
大銀貨は十万円って感じかな。つまり五十万リムルだ。大金だ。金持ちか。前世シングルマザーでお金には苦労していたのでなんだか切ないよ。
今回の旅で費用が渡されるなんてとっても助かったようだ。ジョルジュは早速私とウォルフの旅支度を整える為に買い物に出ていった。
私は勉強する事を思い出し落ち込んでいたラルクに頼りになる兄を実感してもらう為にお願いポーズで
「ラルク、字を覚えたいの。教えてくれる?」
上目使いに可愛く頼むと、ラルクは一瞬驚いた後パッと笑顔になって
「アリア!勿論だよ!さぁ、ここに座って。いま石版持って来るよ。」
張り切ってラルクは部屋を出た。
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