第3話

放課後、私は職員室へ呼び出された。

呼び出されたことなんて今までで一度もなかったから、少し嫌な予感がした。

職員室に入ると、奥の部屋へ案内される。

奥の部屋には、何故か担任と母親がいて、ものすごく嫌な予感がした。

私の隣に母親、向かい側に担任という並びで座り、開口一番、母親がこう言った。

「音々、あなたは部活を辞めなさい」

あまりにも突然で、声が出なかった。


なんで。なんでなのお母さん。

私がプロを目指してること、お母さんが1番分かってるはずなのに。

理解してくれてると思ってたのに。

毎朝私が走ってることも知ってるでしょ。

試合勝ったよって言ったらいつも私以上に喜んでくれたじゃない。

そんなのおかしいよ。

ここで辞めたらプロになんてなれない。

なんで急にそんなこと言い出すの。


色々な感情が激しく蠢いて、言いたいことが何一つ言えずに私は黙りこくった。

母親は尚も話し続ける。

「最近、成績下がってきているでしょう。

全部知っているのよ」

図星を突かれて、私は頭を垂れた。

担任はそれを見かねてフォローしてくれた。

「しかし、下がったとはいえ学年で5位です。雪咲さんの成績は十分優秀ですよ」

でも、母親にそれは通用しないのだ。

「1位でなければいけないのです。これから先の音々のことを思って言っているのよ」

諭すように言われてしまうと、こちらは何も言えなくなる。

うちは、いつも1位でいなさいという教育で、私は今まで何とかそれを守ってきた。

担任もそれ以上は何も言わず、沈黙が続く。

静かなはずの職員室の音までもはっきりと聞こえてきて、息が止まりそうなほど苦しい時間だった。

沈黙を破ったのは、やはり母親で。

「そういうことで、先生。申し訳ありませんがこの子は部活を退部しますので」

勝手に話を進められて、私は声にならない喉から出た音でそれを遮る。

ならば、と母親はこう提案した。

「なら、しばらく部活を休みなさい。また

1位をとるまでよ」

それもイヤだ。

夢がまた、遠のいてしまう。


結局、私は何も言えずに、気がつけば走り出していた。

全てを無視して、どこまでも。

 

✻ ✻ ✻


涼太と委員会の仕事をしている最中、部屋の外を誰かが駆け抜けていった。

部屋の中の皆は不思議そうな顔をしていたけど、俺は足音だけで分かる。

涼太も勘付いたようで、ふたりで顔を見合わせる。視線が交錯した瞬間、何故か火花が散った気がして、ああそうかもなと気づく。

ここにもひとり、恋敵がいたか。

負けないけど。

「俺が行く」

涼太にそう言い捨てて、俺は駆け出す。

ここは譲ってはいけないところだから。

ごめんな、涼太。

委員会中に突然教室出ていく俺に周囲は唖然としていたけど、そんなのどうでもいい。

はやく、彼女のところに行かないと。

呼び出されたことしか知らないけど。

俺を不安にさせるほど、壊れそうで消えてしまいそうな足音だったから。

待ってろ音々。今行く。















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