第1話 

あと10秒。9,8,7…。

カウントダウンするタイマーを横目に、私はディフェンスと仲間の位置を確認。

ドリブルに緩急をつけ、一瞬でディフェンスを振り切りゴールへ。

ゴール前の背の高い選手を抜くため、姿勢を低くして素早く突破する。

3,2,1。

ビーー。

ブザーの音と同時に、私が放ったボールはネットへと吸い込まれていった。

51−49。

ギリギリで私たちのチームの勝利。

「音々さすが。ブザービートじゃん」

チームメイトのひとりはそう言ったけれど、私はこの結果に満足できない。

客観的にみて、こちらのチームのほうが技量的に上なのだから、もう少し点差をつけたかったところだ。

まわりが勝利で沸き立つなか、私はひとりで次への課題を考えていた。


✻ ✻ ✻


私の夢はプロのバスケットボール選手。

身長が150cmで止まっても諦めることなく、そのぶんスピードや技術を磨いてきた。

何言ってるんだと鼻で笑う奴は多いけれど、夢は努力すれば必ず叶う。

常にそう自分に言い聞かせている。

そんな私が習慣にしているのが、朝のジョギング。朝早く起きるのは苦手な方だけれど、走ることは好き。

日が昇りきっていない時間帯はまだ町が眠っていて、何故だかすごく落ち着く。

澄んだ空気のなかを、一定のリズムで進む。

走り出したときは乱れていた呼吸も徐々に走るリズムに重なっていく。

身体が軽くて、どこまでも行ける気がした。

もう一歩。もう一歩。

走ることが楽しくなってしばらくすると、今度は息が切れてくる。

辛い。苦しい。休みたい。

それでも走る。そう思ってからの一歩一歩が私を強くしてくれるから。

ようやく走り終えた頃、日は昇りきっていて、街も少しずつ動き出していた。

高台からみる町の景色は、温かくて平和で。

自分が走っていたときの苦しさなんて、何も知らないかのように、日に染まっていた。

町を見下ろして、私は静かに気合を入れた。

今日も頑張ろう。
























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