描かれた青春は。
わたぬきふる
プロローグ
雨の降る放課後のことでした。
皆が帰っていったあとの昇降口はどこか寂しげで、雨の匂いに包まれていました。
用事があって帰りが遅れてしまった私は、急いで下駄箱へ向かい、靴に履き替えました。
そうして、外に出ようとしたとき。
私は、少し不思議な光景を目にしたのです。
ひとりの女子生徒が、傘をささずに外へ駆けていきました。よく見ると、上靴のままで荷物も持っていません。
俯きがちに駆けていった彼女の足どりには、今この瞬間を必死に生きる懸命さと、若さ故の不安定さがありました。
しばし私がぼう然としていると、今度はひとりの男子生徒が、傘を持って颯爽と駆けていったのです。
きっと先程の彼女を追いかけていったのだろうと、何故かそう思いました。
彼の横顔が決意に満ちていたからかもしれません。
まるで、青春の1ページを切り取ったかのような、素敵な光景でした。
彼らが去って行った方向を眺めていると、私はふと人の気配を感じました。
視線を巡らせると、昇降口の別の入り口に、ひとりの生徒が佇んでいました。
おそらくは男子生徒であったと思います。
何故そのような言い方をしたのかというと、彼が中性的でとても儚げな印象であったからです。
彼は私と同じように遠い目をして、私と同じ方向を静かに見ていました。
“目は口ほどにものを言う”
その言葉が、彼の姿を雄弁に物語っていました。
ただ何も言わず、そっと唇を噛み締めて。
握りしめるとも開くともつかない手が、ぎこ
ちなく宙に浮いていました。
まるで彼らを引き止めるような。
彼も、追いかけていきたかったのでしょうか。きっとそれが出来なかったのは、彼の想いと、彼らとの関係性にあって。
徐々に弱まる雨もあいまって、それは、とても切ない青春の1ページでした。
この光景に出会ってから、私は彼らの物語を知りたいと強く思うようになりました。
そこにはきっと私の知らない想いや、願いがあると思うのです。
これは、小説家志望の女子高生が描いた彼らの1つの物語です。
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