第35話 笹パワー
『笹を1000枚ベットし、パンダが命じる』
「笹を出すのは俺なのね」
1000枚って、また大量だな。アイテムボックスから出す時は数を指定できるので正確に一枚も違うことなく出すことができるんだぜ。
というわけで、パンダが訴える通りに笹の葉をばら撒く。
『笹メテオ』
空が――緑に染まる。
「隕石……?」
「毒々しい緑色だが」
「ひゃあああ」
三者三様の感想を述べている間にも、緑が凝縮しいくつもの塊と転じた。
緑の塊はそれぞれが50センチから1メートルほどのラクビーボールみたいな形をしていて、数が多い。全部で30くらいはあるだろうか?
「にゃーん」
パンダの鳴き声に応じ、緑の塊が天から城壁に突き刺さる。
城壁がガラガラと音を立て、崩れ去った。
え、ええええ。
でたらめな破壊力に開いた口が塞がらない。
「げほ……」
しかし、粉塵が物凄くて口元に服を当て目を細める。
視線の先には敵兵のみなさんが茫然と立ち尽くしていた。
ちょっと待て。こいつはとってもマズイ状況ではないだろうか?
兵と俺たちを隔てる障壁が取り払われた。
「……まだ(城壁の)予備はある……」
笹と大事な城壁を消費しただけで、特に得るものもなく……いや、粉塵で喉がイガイガしたな。
それ、メリットじゃないだろうに。
ところが――。
兵士たちが膝をつき、馬に乗った騎士らしき連中までもが下馬し剣を鞘に納めたではないか。
この後、伯爵も出てきてしっかりとオハナシを聞いてくれたのだった。
釈然としないが、結果的にうまく行ったのでよしとしよう。よしとさせてくれ。一番納得がいっていないのは俺なんだから!
◇◇◇
伯爵と共に彼の領地に向かっている。さっきまで一触即発だったじゃないかって?
昨日の敵は今日の友。少年漫画ぽいだろ。現実は昼ドラよりもドロドロしているかもしれんがね。
まだまだオハナシしなきゃならないんだよな。これが。
大和には抑えとして王宮に行ってもらった。彼だけでなくロザリオと騎士団長が約束を違えないかどうか目を光らせてくれている。
俺はその間に伯爵領ってわけさ。
「大和さんをお一人で向かわせてよろしかったんでしょうか」
「俺も迷ったんだ。政局的には大和が王宮にいた方がいい」
後ろに乗るカルミアの声には迷いがある。
俺も同意見だったんだ。彼女に話を合わせるために言ったわけじゃなく、本心から大和も同行した方がいいと考えていた。
カルミアと騎士団長は立場上、政治的な判断はできない。しかし、俺と宰相、王が交わした書状の内容を伝えてある。
書状にはいろんな決め事が書かれているわけなのだけど、その中に目の前の危機が去り、裏切って何かし始めた場合は王の命も無効とし、騎士団は動かないとある。
彼らが私兵を持っていないとは言い切れないが、いたとしても少数だろう。既に多数の私兵を抱えているのなら、騎士団に圧力をかけているだろうから。
王都を制圧できる武力を保持しておらず、内に自分達の武力を打倒しうる勢力を置いたままにするなんて暴挙には出ないと高を括ることだってできた。
だが、奴らは想定の斜め上を突き抜ける可能性を秘めている。
なので、不測の事態発生に備え、大和がいてくれた方がいい。
「大和の戦いぶりを見れていれば、心配することもなかったんだけどさ」
「大和さんは異世界からの来訪者です。多少の難事は易々と突破してくださると思うのですが……」
不測の事態が発生するということは、大和の身に危険が及ぶことと限りなくイコールに近い。
騎士団もいるのだけど、ロザリオと二人か一人きりでいる時に多数から襲われたら……そいつらを打ち返せるのか……とかさ。
心配しても送り出してしまった今となっては後の祭りだ。
「俺はこれでもバトルマスターなんだぜ。それに、ここに来てからも稽古を怠っていない」なんて言って、いい笑顔で王宮に行ったんだよな。大和のやつ。
『イケメンはひょろ僧とは違う、ようです』
「どういう意味だよ、それ」
『パンダは笹が食べたいようです』
「……。俺のことを励ましてくれたのか?」
そうかそうか。
足を止めたパンダの背から降り、笹の葉を与える。
噛まれた。
なんだよもう。そうか、噛むのは照れ隠しなんだろ。
照れるならもう少し大人しく照れて欲しい。
「痛っ!」
『パンダは笹が食べたいようです』
ここで怒っていてはいつものパターンに陥ってしまう。
伯爵の兵もいることだし、変な隙を見せたくないので、ここは我慢だ。
感謝するんだな。パンダ。俺の寛容さに。
「神……パンダさんが大丈夫と言うのです。大丈夫です!」
「だな……」
ほんわりとはにかむカルミアに少し癒される。
そうこうしているうちにパンダは笹の葉を完食したのだった。
伯爵領って遠いんだな。一日じゃ到着しなかったよ。
そして、今の今まで勘違いしていたのだけど、伯爵と辺境伯は別人だった。ロザリオから聞いていた情報だったのにな。
覚える派閥が多すぎて細かい内容まで把握しきれてなかったんだよね。
伯爵は王都で権勢をふるっていた人物で辺境伯は伯爵と結託して彼と共に王都まで攻め上がった協力者である。
一蓮托生といえば聞こえがいいんだけど、それで領地を他国に占領されてりゃ世話ないわな。
そんなわけで、伯爵領ではなく辺境伯領だったというわけさ。どっちにしろ変わらんし、覚える必要もないけどな!
パンダの速度に慣れていたので、軍の行軍速度だと時間がかかった。
一日じゃ到着しないどころか、ここに来るまで丸二日かかったよ。一応、夜を警戒し元カルミアの家の中に引きこもって寝た。パンダに結界を張ってもらう万全の体制でね。
食糧も笹も一ヶ月くらいじゃ食べきれないほど持っているから、補給切れの心配はまずない。
笹の葉は森エルフが量産してくれたし、村まで戻れば補充したい放題だ。なので、全部使ってしまっても構わないぞ。
もっとも、暖炉の燃料にしたとしても使いきれないけどね。
「あの小川を越えたら辺境伯領だそうです」
「やっとかー」
カルミアが腕を伸ばして示す通り、川幅一メートルほどの川のせせらぎが見える。
これが辺境伯領との区切りなのだろうけど、ちょいとジャンプすれば超えることができる幅だ。
一応の目印があるだけマシなんだと兵士から聞いた。いや、正確には聞こえてきた。
兵士とは一切会話を交わしていないのだ。脅してオハナシしただけに、相当怖がられている。
パンダが一定距離まで近寄ると、ささっと兵士が距離を取るからな。
こっちにとってはこの方が好都合なわけだけど。ちょっとばかし寂しい気持ちがなくはない。
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