第28話 お尋ね者
「なるほど。貴殿を拉致した者は宰相派でないことは理解いたしました。では、一体……」
「無職を失敗だとミスリードできると考えた宰相派を快く思わない誰かですね。今暴れている伯爵派なのか、ダブランダー一派なのか、それとも案外、宰相派を煙たく思っているかもしれない王派とか」
「そうであれば、貴殿を前にして失礼極まる話ではありますが……その……」
「俺を亡き者にしちゃった方が確実ですよね。俺もそう思います。だけど、そうしなかった理由は資金が欲しかったんじゃないかと考えたのです」
「理解いたしました。貴殿が暴挙……失礼。扉を収納したお気持ちも察することができました」
「正直、扉を回収したのはちょっとやらかしたかなと思ってはいる……でも、後悔はしていない」
レストランで大和から王国の話を聞き、衝動的にやってしまった。
ちょうど鉄の扉が欲しかったのもあってさ。鉄の扉でイメージしたのが、王城の入口扉だったんだよね。
行ってみると案の定、鉄の扉が鎮座していて、あとはまあ、そういうことだ。
街の中はそこら中からあがる煙でてんてこ舞いであり、俺のしでかしたことに対する対応能力に欠けていた。
しかし、騎士側のロザリオを目の前にして扉を収納したのはどうなんだ?
完全に顔が割れているじゃあないか。
いや、もし俺を逮捕しようとするならとっくに彼女は動いている。
このまま一旦トンズラする予定だし、鉄の扉はありがたく使わせて頂くぜ。
◇◇◇
「じゃあな。一週間後にまた会おう」
「おう。何食わぬ顔で王城に戻る」
「無茶は禁物だぞ」
「分かってるって。ロザリオもいるし、俺なりに慎重に行くぜ」
カルミアの家でしばらく休憩した後、パンダの結界を解き外に出る。
話し合った結果、大和とロザリオは街に戻り、俺たちは森エルフたちのところに向かうことになった。
大和たちを森エルフたちの元まで連れて行くことは何ら問題なかったのだけど、彼から謝辞してきたのだ。
というのは、街と王城でもっと情報を集めるためである。
今ならまだ、「街を散策して戻ってきました」と言っても問題ないから。
これが俺たちと共に移動して、二日ほど経過しちゃうと何食わぬ顔で戻るわけにはいかなくなる。
もっと情報を集めてからでも遅くはない。といっても、安全確保ができないようならば、即撤収をと伝えている。
スマホとは言わないけど、通信手段があればもっと綿密に計画を立てれるのだがないものねだりしても仕方ない……。
馬に乗る大和とロザリオに向け手を振る。カルミアは両手をブンブンと振っていた。
対する大和らも片手をあげ応じる。
「あ、ああああ」
「蓮夜? 敵襲か?」
「いや、俺が鉄扉を拝借する時、大和たちもいたよな?」
「大丈夫だ。お尋ね者にはなってないとロザリオが言っている」
「そ、そっか。よかった」
「森エルフの男の単独犯、で処理されるみたいだぜ」
「分かった。引き留めてすまなかった」
「普通、まず最初にそこを確認するだろうに。とっくに分かってるって思ってたぜ」
苦笑する大和と今度こそ別れる俺たちであった。
あまりに鮮やか過ぎて大和たちが近くにいただけで、犯人グループではないと認識されたのかな?
もしくはロザリオがうまく処理をしてくれた? まあいい、大和たちがお尋ね者になっていないのなら問題ないぜ。
深く考えるのは止めとこう。
◇◇◇
「たのもー」
「たのもーです」
戻った。結界の中にある新森エルフの村へ戻ったのだが、森エルフの村人たちが俺を見かけるたびに挨拶をしてくれる。
いやあ、気さくで俺のことを受け入れてくれているのは良いのだ。良い事なのだけど、みんながみんな「たのもー」なのは……。
「墓穴を掘ったか」
「んん?」
可愛らしく顎をあげこちらに目を向けるカルミアであったが、原因を思い出した俺は頭を抱えたい気持ちで一杯だった。
人間流の挨拶が「たのもー」だとミスリードさせたのは、他ならぬ俺である。
適当に誤魔化したつもりが、村人の善意によって親しみを込め「たのもー」という挨拶をしてくれているのだ。
相手の習慣を真似して親しみを込める彼らに今更何も言えん。
あ、あああ。大和がうまく訂正してくれないかなあ。
……他力本願でうまくいかないことを俺は知っている。仕方ない。俺が気にしなければいいだけの話……。
「たのもー。戻ったんだな、レン」
「アザレアまで……」
「思った以上に早かったが、不測の事態があったのか?」
「うーん。いろいろありはしたけど、鉄の扉はちゃんと入手した。さっそく設置に行こうぜ」
「……分かった」
妙な間があったな。アザレアの表情からは何を考えているのか読み取れない。
ところが、実際に鉄扉を出すと彼女は口元をヒクヒクさせて呆れた様子になる。
「これほど大きな扉をよくぞ用意できたものだな」
「まあ、うん。あはは」
「敢えて触れずにおこうか」
「そうしてくれた方がいいと思うよ?」
扉のサイズは必要十分だったので、俺が最初にくぐった結界への入口と池の北側に扉を設置し、ここを解放することになった。
設置後、二日ほど族長をはじめ魔力の扱いに長けた人に森の精霊の流出具合を観察してもらう。
その結果、扉に関しては特に問題ないだろうとのことで、ホッと一安心する。
俺にとって驚くべきことは扉じゃあなかった。いや、扉に関しては村人の誰もがアザレアと同じで思った以上の大きさに立ち止まって凝視していたけど……。
扉を設置してからたった三日で、村は様変わりしたのだ。
畑が拡張され、木々が切り倒され二か所に別れていた集落は一つに繋がる。
果樹園も同じく三倍ほどになり、全ての果樹が実をつけていた。
植えてからたった三日だというのに。
畑は土のまま丸裸なのだけど、朝に種を植えてすぐさま「収穫できる」。
あっという間に備蓄も倉庫一杯になって、村人の農作業はお昼までに全て終わってしまう始末……。
森の精霊と森エルフの魔法を最大限活用すれば、これくらいのことは余裕だと族長が言っていた。
アイテムボックスやら何より、こっちのが恐ろしいわ。
俺以外は全然驚いていないんだけどね……。むしろ、丸太を次々にアイテムボックスに収納したり、池の水を干上がらせたりした方が村人にとって驚きだった模様。
隣の芝生は青く見えるってやつか。何だか意味を間違えている気がする。
午後の空いた時間には衣類や道具を作ったりと、こちらも魔法を使うことができるので物によってはあっという間に作れてしまう。
そんなわけで、僅か三日にして村のインフラと衣食住が整ってしまったのだ。肉を除く。
誰もが喰うに困らぬ、平和でみんな仲良く暮らしていける村があっという間にできあがった。
これで当初の目標は達成したなと思っていた四日目のこと、事件が起こる。
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