第27話 どろどろの王国派閥

 アイテムボックスから出したカルミアの家でテーブルを囲み、大和が持ってきてくれた情報の再確認を行っている。

 その際に彼から飲み物や食べ物を頂いた。

 

「コーヒーまであるのか。うめえ」

「に、苦いです……」

「森エルフ界にはコーヒーがねえのかな?」

「九段様は森エルフの言葉も解するのですね! ご学友の方も!」

『パンダは笹が食べたいようです』


 だああ。一気に喋ると何が何やらになってよくわからんくなってくるな。

 とりあえず、結界を張ってガソリン切れのパンダに笹をやることにした。

 一応補足しておくと、最初にコーヒーうめえと発言したのが俺だ。

 

「ちと話を整理させてくれ。基本的なところからだけど、大和と俺を召喚した張本人が宰相ガルシア一派ってことだよな」

「おう。そうだぜ。あの街はアストリアス王国の王都アストリアで、王国の中枢だったってわけだ」


 メモを見ながら俺の言葉に応じる大和である。王国の名前を記憶していないんだろうな。俺もまるで頭に入ってこないので人のことは言えない。

 噛まなかっただけでも、なかなかやるではないかと思う俺である。


「そんで、ガルシア一派が最大派閥で、その次が王とその信奉者たちだっけ。変な話だけど、王国なのに宰相が一番権力を持ってんだな」

「身分的には王の方が宰相より上だよな? 王国と言う名前だし?」

「実権力が別にあるってのはよくあることだ。まあ、宰相主導で召喚の儀式を行った。そこまではいい」

「ええっと。待て、メモを」


 俺たちに水晶を触らせてきたのがアブラーンという名前で、大和曰くかなりのやり手だそうだ。

 宰相の懐刀といったところ。

 宰相派が王派をも取り込み、一枚岩に見える王国もそうではない。

 女騎士が所属するどの派閥にも組みせず、政治的には完全中立を掲げる騎士団長派とか、宰相派の追い落としを行おうとする伯爵派? だっけか。

 他にも第三グループと呼ばれる商人との繋がりが深いダブランダー一派とか、いろんな派閥が存在する。

 

「要点を絞ろう。召喚を行ったのも召喚の儀式が何たるかを知るのも宰相派。ここは認識の相違がないよな?」

「おう。召喚者はそれなりにありがたがられている? うまくいえねえな。ステータス? になるっていうのか」

「うん。大和の元に毎夜のように美女がやって来るってところから、召喚者を取り込もうと各派閥が頑張っているのが分かった」

「あれ、言ったっけ?」

「いろんな派閥のことを聞いた、美女が来るという事実から容易に推測できる。その裏にあるのは、召喚者そのものと召喚にかかる費用の二つがあるんじゃないか」

「そうなのか?」


 あれ、予想が全然違ったのか……。

 合点がいってない様子の大和に不安になってきた。


「宰相らの思惑は分からん。自分の権力を誇示するためなのか、召喚者の力を借りて成さねばならないことがあったのか、何か聞いているか?」

「んー。宰相派のことは間接的にしか聞けてねえんだよ。その辺探った方がいいか?」

「できるのなら……だが、今の王国は相当乱れているんだよな」

「まあ、な。宰相派に対する伯爵派とダブランダー一派の抗議活動が過激になってきている。治安維持に騎士団まで出動している始末だぜ」

「その理由が『俺』だったんだよな」

「そう聞いている。彼らは召喚の失敗を秘密裡に葬り去ったと騒ぎ立てている」

「それだよ。そこで騒ぎ立てるのだったら、召喚に莫大な費用がかかってんじゃないかってさ」

「そうか!」


 どんと机に拳を打ち付けハッとなる大和に対し、こちらはホッとする。

 よかった、彼と考えがズレてなくて。

 

「大和。この先、どうしたい?」

「どうって。帰る手段を探るんだよな? ええっと。宰相派を調べるのがいいんだっけか」

「俺も同意見だ。この際、俺を攫い、森エルフの村へ売り払った一派のことは捨て置く」

「売り払った一派とは、市ヶ谷殿、それはどういった意味なのですか?」


 大和と俺の会話に女騎士ロザリオが口を挟む。

 彼女とカルミア、パンダはそれぞれ言語が異なり、言葉が通じない。

 しかし、俺と大和の言葉は全員に伝わるのだ。他の三人の言葉も俺と大和には日本語で伝わる。

 これが言語能力の力なのだ。

 こっそり日本語で大和と会話したり、なんてことはできないけど、便利な能力である。

 

「ロザリオさんは召喚の儀式とか召喚者について、どのように聞いてますか?」

「宮廷魔術師が相当な時間をかけ、魔力を注ぎ込み、召喚の儀式が執り行われると聞いております」

「召喚者についても教えていただけますか?」

「もちろんです。召喚者とは異界から招かれし英雄と聞いております。この世の物とは思えぬ素晴らしい力を秘めていると。ここにおられる九段様や貴殿のように」

「俺は失敗召喚者だったということなのでしょうか?」

「分かりません。失敗など青天の霹靂です。召喚者とは異界から呼ばれるのです。無事、王国に降り立つお方が凡庸であるはずがありません」


 ロザリオは武闘派の騎士団長派だっけか。彼女の召喚者に対する認識が騎士団の認識と同じと見ていいだろう。

 何しろ大和の世話役となるくらいだ。騎士団長派の中でも召喚者に対する造詣が深いはず。そんな彼女の認識が今聞いた通りである。

 

「ロザリオさん、貴重なご意見ありがとうございます」

「いえ。ですので、私には何が何やら想像もつかないのです」

「俺と大和が召喚された際、ぞろぞろに人がやってきたんです。その全てが宰相派だったとは限らないと見てます」

「はい。その場に騎士団の者も控えておりました。宰相派以外の者、または他の派閥に情報を伝える者がいるやもしれません」

「そこで俺の『無職』という情報が伝わった。無職となれば、何も知らぬ者からすれば『使えない』と喧伝することができる……と考えた」

「喧伝……適当にでっち上げたわけじゃなかったのですか!」

「俺の考えですが――」


 そう前置きして、自分の予想をロザリオに説明し始めた。

 正直なところ、無職であっても言語能力とアイテムボックスがあるだけで役には立つ。大車輪の活躍とまではいかないにしてもね。

 宰相派としては、莫大な資金を投入して召喚したわけなのだから、少しでも回収しなきゃいけないと考える方が自然だ。

 懐柔し、できぬなら無理やりにでもアイテムボックスを使わせるとか、いろいろ手はある。

 調べれば俺のアイテムボックスが規格外だってすぐに分かるだろうし、ね。

 そうなりゃ、いろいろ便利に使うことができるぞ。商売をすれば莫大な資金を回収することだって夢ではない。

 でも、現実は違った。

 寝ている間に攫われ、売り払われたのだ。

 下手人が宰相派の可能性が極めて低い。彼らは俺がいなくなると困るからね。そら、アブラーンがガッカリした態度を取ることは頷ける。

 水晶玉の判定によると、召喚特典という最低限の能力は持っていたが、プラスアルファが一つもないように見えたからな。

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