第22話 お出かけ準備
「しかし、カルミアでいいのか?」
「カルミアがいいんだ」
「レンさん……わたし、どこまでもついていきます!」
なんて会話をアザレアとカルミア姉妹としていたのだが、恋がどうというお話しではない。
場所は家でいっぱいになった畑がある方の広場である。
向いているのはアザレアなのだけど、彼女はパンダがいるとちょっとなあ……というわけでカルミアについてきてもらうことにしたのだ。
村人の中には彼女より適した人はいる。だけど、見ず知らずの人と二人きりなんて、ぼくちんにはハードルが高いの。
カルミアだって全く経験がないわけじゃないらしいし。結界の中に来る前は普通の村人として過ごしていたのだから問題ないさ。
問題があるとすれば、俺の方である。
「レン。そなたがいかねばならぬのは仕方ない。しかし、急がずともいいのではないか?」
「畑のこととか、俺には全く分からないし力になれない。だけど、運ぶことなら俺以上に適した奴もいないって」
「ううむ。やはり私も行こうか」
食い下がるアザレアに親指を立て問題ないと示す。
「パンダが二人乗りだからな。いろいろ心配事は尽きないけど、そこは族長とカルミアの言葉を信じる」
「神獣の姿を知る者は村に住む森エルフしかいない。そなたはテイマーとして振舞え。それと、魔道具は絶対に体から離さぬように」
「貸してもらった鏡で見たけど、全く姿が変わってないが……本当に効果があるのか?」
「問題ない。これほど森の精霊に満ち溢れている結界の中でも見破ることができないのだから」
首から下げたチョーカーにしか見えない認識阻害のマジックアイテムの革紐に手をやる。
これをつけていたら、俺の姿が森エルフのように見えるというけど、未だに信じることができない。俺も族長みたいなスラリとしたイケメンになっているのかなあ。
パンダを置いて行くかどうかは悩むこともなかった。パンダが笹を欲しがり、俺に付きまとうから仕方ない。
俺としてもパンダが戦えることが分かったので、護衛役にもいいかなとありがたい。アイテムボックスに笹の葉が死ぬほど入っているから、笹が尽きることもないのさ。
移動にもパンダがいると楽だし速いと、連れて行かない理由がない。
それにしても、鏡で確認できれば不安解消できたのだが。
革紐を引っ張り手を離す。
そこへ、カルミアがグッと両手を握りにこっと微笑む。
「大丈夫ですよ。ちゃんと、耳が長くなって尖ってます」
「お、そうか。スラリとしたイケメンになった?」
「……あ、あの」
「その先は言わずともいいよ……」
「レンさんはカッコいいと思います! わ、わたしはそう思ってます!」
首まで真っ赤になり焦った様子のカルミアに物寂しい気持ちがこみ上げてくる。
そ、そっか。イケメンにはなってないのね。そのままの俺で耳だけ長くなった、というわけか。
お、落ち込むものか。
元々の顔や体つきのままだし、元より悪くなっているわけじゃないんだ。そうだそうだー。
「問題ない。耳を見せておけばいい」
「それ、フォローになってねえぞ」
「そなたはそれなりに男前だ。変化がない方がよいだろ?」
「……お、おう」
アザレアに止めを刺されてしまった。
おっと、無駄話もこれくらいにしておかないと肝心なことを忘れそうだ。
「アザレア。確認させてくれ。カルミアも間違いがないか聞いておいて」
「必要なものは鉄か銅の扉。扉そのものだけでいい。無ければ板でもいい。もしくは加工できる職人を連れてきてもいい」
「扉か板は二か所でいいんだったよな」
「移動の利便性を考えると、二か所は欲しいところだ」
アザレアの言葉にカルミアもうんうんと頷く。
族長や村の年長者と会話した結果、結界はこの広さのまま維持した方が良いとの結論になった。
畑、果樹園、笹の木エリアを拡張したとしても、今の広さで十分足りる、むしろ余るとのこと。
俺が当初計画した時は、植物育成魔法の事を分かっていなかった。彼らは果物と畑でとれる作物だけで生活していけるからな。
更に、材木なんてものも植物育成魔法を使えば、量産可能ときたものだ。
といっても、結界の外に出ないとはならない。外との交流もあるだろうし、狩りや旅に出たりといったことも必要だ。
なので、結界の外へ行くことができるようにしておかなければならない。俺だって外に出るし。
日中帯だけ外への出入り口を開けておけばいいんじゃね、と思っていたが、それは危険だとのこと。
出入り口から森の精霊を垂れ流すと、それに惹かれてモンスターや猛獣が寄ってくるんだってさ!
考えてみれば至極当然のことだけど、対策として森の精霊を遮断できる鉄か銅の扉をつけたらどうだということになった。
夜間は結界そのものを閉じるけど、日中は結界を開け、物理の扉を開閉することで外に漏れだす森の精霊を最小限にしようというわけだ。
「四か所くらいあった方がよくないか? その方が移動しやすいし」
「そこはできれば、でいいんではないか」
「分かった。入手するものは扉か板で、お金が足りない場合は霊薬を売るんだったな」
「そうだ。店はカルミアなら分かる。道中もカルミアに案内してもらうといい」
森エルフの霊薬は怪我を癒すポーションらしい。薬草を煎じて森の精霊の力を注ぎ込むと霊薬になる。
人間の街で高値で取引されるとのこと。
これを売って、俺を買う資金にした……のだと思う。あえて族長もアザレアも口にしなかったが。
「他に何か注意しておくことはあるかな」
「人さらいには気をつけろ。神獣から離れぬように」
「ん、街ってまさか、王都か」
「小さな村では鉄扉や大きな鉄の板は手に入らぬだろう。私はそなたが元犯罪者などという戯言を信じてはいないが」
「俺はともかく、カルミアは必ず守らないと」
「心配せずともよい。そなたはそなたの身を守ることだけを注視しろ」
え、えええ。それは男の子としてどうなの……。
しかし、王都に戻ることができるのか。こいつは一石二鳥だ。
ついでにあの馬鹿どもの様子を探る。大和と会う事ができれば最高なのだが、欲張らないようにしなきゃな。
カルミアもいることだし、無茶は禁物だ。慎重に事を進めよう。
ところが、当の彼女はのほほんとした様子で、大きな瞳で俺を見上げてくる。
「もしもの時はわたしがレンさんを護りますね!」
「いやいや、それは。俺が君を護る」
「嬉しいです!」
「は、はは」
ん、そうか。カルミアには魔法があった。
いかついゴロツキどもでも、華麗に魔法で撃退してしまえるのか?
俺は俺で身を護る手段はある。
本気でまずい時はパンダを頼ろうと思っているけど、巨大な熊の首を一撃で折ってしまうほどのパワーだから人間を攻撃したら……確実にスプラッターだな。
できれば、そういうことはしたくないので、パンダは最後の手段にしておきたい。
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