第13話 盛大な勘違い
結界の中に戻る頃にはすっかり暗くなっていた。
日用品だけじゃなく、食事も持ってきてくれたアザレアに感謝だ。といっても、フルーツときゅうりのようなものを挟んだパンだけであったが。
肉か魚が欲しい……。なので、俺だけ保管しておいた焼き魚を食べることにした。
パンダ? 奴は道中も含め、笹を貪り食っていたさ。もしゃもしゃとね。
「それにしても、その空間魔法は凄まじいものだな」
「途中で何度も見たじゃないか」
「だとしても、だ。何度見ても感嘆の声しか出ないさ」
「そんなものか」
「そうですよ! わたしもまだビックリしちゃいますもん」
食事の後に手を洗うため、収納した手ぬぐいを出したらアザレアとカルミア二人からそんなことを言われてしまった。
「アザレア、今日はもう遅い。確認したいこととやらは明日でいいかな?」
「もちろんだ」
「じゃあ、今晩は久しぶりに妹と一緒に寝て、明日またな」
俺はパンダの腹を枕に寝ることにしようかな。
話がまとまったというのに、カルミアが余計なことを口にする。
「レンさんはご一緒してくれないのですか」
「ご一緒……そうか、レンは人間だったものな。仕方あるまい」
そこおお。変な風に察しないでもらえないか。
俺はカルミアに何もしていない。無実です。無実なのですぞ。
「床でパンダと一緒に寝るから」
「ぎゅっとしてくれないのですね」
だあああ。それやばい、絶対に勘違いされる。
そおっとアザレアをチラ見したが、ピクリと眉が上がってた。
こいつは勘違いされたこと確定かもしれん……。
「姉さんがいるだろ。な」
「むうう。ベッドをもう少し大きくしなきゃ、ですね」
「それをするなら、もう一台ベッドを作ろうぜ」
これ以上何も言わないでくれと心の中で土下座しつつ、無理やり話しを打ち切る俺なのであった。
◇◇◇
その日の深夜のことでした。
パンダの寝息がうるさい。あと、パンダの体温が高すぎて寝そべっていたら暑い。
肌寒い季節に布団も無しだってのに、パンダカイロなら真冬でもいけるかもしれんな。
暑い。かといって離れると寒い。どうしたもんかなこれ。
そうだ。いいことを思いついたぞ。布団はもってきていないが、タオルなら何枚か森エルフの村から持ってきた。
直接毛皮の中に沈み込むから暑いのだ。ならば、タオルを敷いてその上に寝そべればいけそうじゃないか?
「やはり、眠れぬのか」
「暑くてな」
起こしてしまったか。ベッドから降りたアザレアが寝そべる俺を見下ろしてくる。
「そうか、人間だものな。火照っても、それが人間という種族の
「ちょ、何をして」
「火照っているのだろう? 私じゃあ嫌か? そなたなら、私は構わぬのだが」
「ふ、服を元に戻して……そう言う意味じゃなくて、純粋にパンダの体温が高すぎて暑いだけなんだって」
「人間はそういうものだと聞いていたが、そなたは違うのか?」
アザレアは真剣そのものだ。はだけた服から谷間が見え隠れしていて目に毒ってもんじゃない。
今日が満月じゃなかったら、見えなかったかもしれないけど。満月よ、なんて罪な野郎なんだ。
「だれかれ構わずなんて、猿じゃあるまいし……」
「人間は短期間で子供が増える。だから、つまりだな。そういうことじゃないのかと思っていた」
「その考えは改めておいた方がいいと思うぞ」
「そうか。すまなかった。てっきりカルミアと毎夜めくるめく夜を過ごしているのだとばかり」
「森エルフだって誰とでもいいってわけじゃないだろうに」
「そうだな。エルフは男の方が少ない。子供も滅多に産まれぬのだよ。交わってもなかなか、な。その分、人間に比べて長寿ではあるが」
ふむふむ。森エルフは人間より長く生きる。なので、子供が生まれる数が少ない。
自然の摂理のように思えるけどな。ネズミは数が多く、寿命が短い。対して大型の動物は子供の数が少ない代わりに長寿だ。
これに似たものなのかも、と勝手に自分の中で納得する。
真実は分からない。頑張って調べる気もないけどさ。
「俺のことは気にせず眠ってくれ。せっかくの久々の姉妹の再会だってのに、俺とパンダがいてすまんが」
「そのようなことは微塵たりとも思っていない。むしろ、神獣とそなたと床を共にできることを嬉しく思っている」
「そ、そうか。こんなんだけど……」
「愛らしいではないか」
グガアアアアと腹の音なのか寝息なのか分からない音をたて仰向けにひっくり返ったパンダに向け微笑むアザレア。
そうかなあ……これが可愛いって森エルフの美的感覚は分からん。
彼女らにしてみたら、こんな奴でも神獣として奉っているんだものな。ご神体だと思えば、傍で寝ることはありがたいのかもしれん。
アザレアがベッドに潜り込む。
さて、んじゃま、俺も寝るとするか。
グガアアアア。
「や、やはりうるさい。これどうにかならんのか」
いいことを思いついてしまった。俺は天才かもしれん。
間抜けにも開ききった口にアイテムボックスから出した笹を詰め込んでみる。
よし、静かになった。
タオルを敷いたパンダベッドは中々に快適で、今度はすぐに眠りに落ちる。
◇◇◇
「にゃーん」
「どおおああ!」
な、何なんだよ。もう。ゴロゴロと床を転がり目が覚める。
朝か。
顔をあげるとバンザイポーズで仁王立ちしたパンダが口を開けてこちらを威嚇してくる。
「笹か」
『パンダは笹が食べたいようです』
これ、毎朝の光景になるの?
ちょっとばかし嫌なんだけど……。
ぐだっていてもパンダがうるさいだけなので、たんまりと笹を床においてやった。
「二人はもう外に出ているのかな」
立ち上がってんーと伸びをすると、首筋が痛い。
捻ったかなあ。
たぶん原因はこいつだ。むしゃむしゃと呑気に笹を貪り喰らっている。
ベッドにしたのは俺だし、お互い様ってことで許してやることにしよう。俺も心が広くなったものだ。
自画自賛しつつ、外へと繰り出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます