第12話 再会
「ま、まさかこのようなことが。カルミア!」
「姉さん!」
ひしと抱き合う姉妹についつい俺の目元が潤む。
右手からは笹を出しながらと締まらないが。
森エルフの村は出発したその日のうちに見つかった。途中で二回もガソリン補給があったことは秘密である。
カルミアの記憶だけが頼りだったけど、案外何とかなるもんだな。精霊の気配とやらを辿り、森の中を彷徨うこともなくあれよあれよと森エルフの村まで到着したってわけだ。
パンダと共に森エルフの村までやって来た時は騒然となったが、こんなふてぶてしい奴でも一応神獣だったから、迎え入れられた。
カルミアがいてくれたことも大きい。俺とパンダだけだと、下手したら俺だけ牢屋行きになっていたかもしれん。
パラパラ、パラパラ。
まだ食うのかこいつ。休憩だと分かっているからか、笹をあげればあげるだけ食べやがる。
俺は食事をまだとってないってのに。いや、これはガソリン。ガソリンなんだ。車を動かすにはガソリンが必要だろ。だから、食事じゃあない。ガソリンである。
そう言い聞かせ、うまそうに笹をもしゃるパンダへの殺意を抑え込む。
あれ、今なら蹴飛ばしてもカルミアに羽交い締めにされんな。こいつはチャンス到来か?
ふ、ふふふ。その間抜け面を。
「あなたが神獣と共にカルミアを連れてきてくださったのですか?」
「は、はい……一応」
右腕を振り上げたところで、スラリとしたイケメン森エルフに声をかけられた。
無言で振り上げた腕を元に戻す。そうだった。ここは森エルフの村である。よく考えなくても、神獣として信奉されているこいつを殴り飛ばすのは危険だな。
いつか見ていろよ、パンダめ。自分の短絡さを棚にあげ、心の中でそんなことを思うどうしようもない俺である。
いや、こいつと会話できるのなら森エルフたちだって考えを変えるかもしれない。……ことはないか。精霊とパンダの関係性は分からんが、パンダが精霊の親玉だったとしたらふてぶてしかろうが、森エルフたちの態度は変わらないかも。
「神獣が結界の外に出たことなど、前代未聞です。一体何をされたのですか?」
「神獣……パンダというのですが、彼と会話したんです。彼は彼で森エルフの事情を知らず。外に出たいと言うとここまで連れてきてくれたんですよ」
「そ、そのようなことが。神獣と会話するなど。あなた様は一体……」
「言語能力というやつみたいです。森エルフの言葉もパンダの言葉も俺にとっては同じことなのです」
「言われてみれば、人間に見えるあなたが森エルフ語を完璧に使いこなされておられます」
「人間に見える、ではなく、唯の人間です」
「し、信じられません」
なんてことをイケメン森エルフと話していたら、いつの間にやらカルミアと彼女の姉が俺の目の前まで移動していた。
おや、あ、思い出した!
カルミアの姉は俺をパンダのところまで連れて行った麗人だ。そういや、妹の名前を言っていたよ。今更ながらハッキリと思い出した。
向こうも俺のことが分かっているようで深々と頭を下げた後、涙で真っ赤になった目で俺を見上げてきた。
「感謝する。本当に。一目だけでも会いたいと思っていた。そなたを送り出してから、本当に人間を生贄に捧げて良かったのかとずっと考えていた」
「結果的に何ともなかった。気に病むことはないよ」
「アザレアだ。あの時は名乗れなかった。だが今なら。お前の名も教えてくれるか?」
「蓮夜だ。よろしくな。アザレア」
差し出された右手を握る。
金で買った罪人だと思われている俺のことでずっと苛まれていたなんて、アザレアの人となりが分かるってもんだ。
アザレアと入れ替わるようにして、カルミアが前に出てきてこちらも涙で晴らした顔に満面の笑みを浮かべ両手を開く。
「レンさん、ありがとうございます! 姉さんにまた会う事ができるなんて!」
「カルミアが森エルフの村まで案内してくれたからだよ。俺もとても助かったよ」
「そ、そんな。レンさん。優し過ぎます!」
前からは恥ずかしかったのか後ろからカルミアに抱き着かれ、頬をスリスリされた。
小動物的な彼女の動きにくすりとする。
おっと、感動のシーンもそろそろ終わりにしないと。ここに来た目的はカルミアのためだけじゃあない。
「すいません。森エルフの人たちにある提案がしたくてここまで来たのです。どなたに話せばよいですか?」
「私が族長です。話でしたら私が聞きます」
先ほどのイケメンが族長だったらしい。見た感じ30にも届かないほどだったから、意外だ。
こう族長とか村長といえば、壮年の人と相場が決まってるってのに。ま、まあいいんだけどね。イケメンでも。
「二人だけでパンダの世話をする必要ってないんじゃないかと思ったんです」
「それは……一体?」
「パンダが結界を維持することで過剰過ぎる精霊の流出を塞ぐことができると聞きました。流出すれば精霊の力によって森の猛獣やモンスターが力を増してしまうと」
「確かに、そうです。精霊の力は何も森エルフだけに加護をもたらすわけではありません。神獣の結界にそのような意図があったとは」
族長は理由を知らなかったのか。となるとカルミアも結界の中に入って生活することで気が付いたってところかな。
別に族長が知らないことに対し、不思議に思うところはない。パンダと森エルフは一切のコミュニケーションが取れていなかったのだから。
「そこです。族長。モンスターだけでなく、あなた方の力も増す」
「その通りですが……」
「パンダは結界の大きさを変えることができそうなんです。この大森林がどれだけ広いのか俺は分からないのですが、森エルフ全員を支えるだけの広さにまで結界を広げることができれば」
「そのようなことが可能なのですか……俄かには信じられません」
「可能だとしたら、どうでしょうか」
「大歓迎です。精霊の加護が増せば、作物を育てること一つをとっても人手が少なくて済むようになります。言い換えれば、同じ人数でも耕作地を倍にできます」
もちろんいいことばかりではない。害獣も力を増す。しかし、そこは森エルフも力を増してトントンで済むだろう。
総合的にかなりのプラスになると見ていい。
「レン。それが本当ならば、森エルフにとって福音をもたらす。しかし、急ぐ必要はないのではないか?」
「確かにそうだけど」
会話に割り込んできたアザレアに応じる。
彼女は彼女で何か考えがある様子。
続きを促すと彼女が自分の考えを述べ始めた。
「今の状態を確かめさせてもらえるか? 行くのは私だけでもよい。もしかしたら、しばらく結界をそのまま維持の方が良いかもしれんと思ってな」
「分かった。アザレアを連れて一度戻ろう。それなら一つ、お願いがあるんだけど」
「そなたは恩人だ。何が欲しい?」
「生活必需品が欲しい。特に道具が。結界の中は職人もいないし、素材もない」
「持っていこう。ついでにそなたとカルミアの服も用意しよう」
「助かる」
そんなこんなで森エルフの村からアザレアを加え、トンボ帰りすることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます