第14話 きっとヒカリンには伝わる
「わかったー!」
ヒカリンに応えてすぐさま梢を蹴って反転。真っ直ぐ追ってきてる王蛙真っ正面から――突っ込むと死ぬのですれ違いながら前足に斬りつける。
手に残る感触は皮一枚を引っ掻いた程度だと告げていたけど、コレはコレで構わない。相手の注意を此方に引ければいい。
そもそもここまでデカい相手だと、肉に深く斬り込んだだけで剣が抜けなくなることもある(実体験じゃなくて先生に聞いた話だけど)から予備武器のない今だと寧ろ危険だ。
そして肝心の相手の反応はどうかというと――まだヒカリンと赤羽さんを追いかけていた。
「どこ行くんだ、こらー!」
再び梢を蹴って反転。全力疾走で追い抜きながら、また同じ前足を掠め斬る。ラリってるから痛みはないのかもしれないけど、違和感を覚えさせるぐらいしないとこっちに注意を惹きつけられない。
果たして成果はあったようで、ピンク色の何かが視界の端に映った。
「うっわああああっ!?」
戦闘において時々、行動をしてから自分が何をしたのかに気づくことがある。今回は腕に残る衝撃と自分の体勢で理解できた。
横殴りの軌道でやってきた舌を剣ではね上げたのだ。
つまり、注意を引くことができた。
GEROGEROGEROGERO………
鳴き声とともに王蛙が私を見据える。単純な食欲ではなく、不愉快そうな感情がそこに覗いた。
目論見は今のところ成功。次はどこまで時間稼ぎができるかの段階。
いつもの構えで王蛙をにらむ。いつもと違いヒカリンの強化魔法はないけど、倒す必要はないから無理する必要はない。回避に徹して時間を稼ぐ。
身じろぎ。大技の予兆。
勘に任せて横に飛ぶ、のと同時に地面を切っ先で突く。剣を三本目の足として跳躍力を稼ぐ。
飛びのいた空間を大口を開けた王蛙が通り過ぎていく。噛みつき、というよりは丸呑みを狙った突進。通り過ぎた後のえぐれた地面を見て、避けたのは正しい判断だったと思う。受け流しとかカウンターとか狙っていたら地面ごと呑まれていた。
飛びのいた勢いを殺さずに、前転して王蛙に向き直る。距離があるせいで反撃はできそうにないが、元よりそれは狙っていないので問題ない。
舌はしのいだ、丸呑みも避けた、次は何が来る。
「相手の思考を読もうとしてはいけません。魔物の思考は読めません。二人相手の思考も読めません。危ないものの軌道に身を置かないことを心がけて、避けるのではなく外させましょう」
先生の教えが頭の中にリフレインする。もしかしたら口に出してたかもしれない。
振り返る王蛙に対して間合いを詰める。突進みたいな攻撃は真正面にたつからやってくる。だから顔の斜め前か横当りに陣取りうろちょろして、やりやすい攻撃を前足か舌の二択に限定する!
前足の蹴り上げ、当たらない。
その後のストンプ、の前に一歩下がる。
舌の一撃は口の開閉でタイミングがわかる、から余裕をもって上に流す。
正面にとらえようと向き直る、のに合わせてステップ。位置を確保する。
全て余裕をもって避けている、と言いたいところだけど一発もらえば終わりかねないので神経はガリガリ削れている。
王蛙が手を緩めるのに合わせて、眼球を狙って攻撃する。このサイズ差だと眼球に剣を刺しても潰すのは難しいと思うけど、目に攻撃されれば嫌がってなにがしかの対応をとる。相手に対応を強いればその分攻撃の手が緩む。
さて、このごまかしで、あとどれだけ時間が稼げるか――。
最初に抱いた印象は(大きくなった!?)という自分の声。もちろんそんなはずはない。王蛙からしてみれば、ただ単に斜め前に体ごと移動しただけだ。ただその移動距離が私の予測より大きかっただけの話。
話にならないほどの質量差による体当たり。スピードもないし、体の固い部分でもない。いうなれば、ボクシング練習用のサンドバッグを投げつけられるようなもの。当然喰らえば無事では済まない。
咄嗟に私ができたのは、剣を地面に突き刺して
膨大な質量が剣をへし曲げ、私の体を弾き飛ばす。
ささやかながら殺した勢いのお蔭か、地面を何回か転がって大樹の幹で受身をとる程度の被害で済んだ。
全身が痛いけど、死ななきゃ安い!!
まだ私は生きてるぞ!正直かなり倒れたいけど!!
王蛙の追撃はなかった。というより私の隙を向き直ることに使ったようだ。
さて、ここからどうしようか。剣はもうないから枝でも拾って――。
『準備できました!狼煙に向かって逃げてください!!』
ヒカリンの
「わかったー!今行く!!」
王蛙への挑発もかねて大声で叫んで走る。
私に魔法はないけれど、きっとヒカリンには伝わる。
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