第11話 私には、正義よりも大義よりも大切なものがある
「どうも、赤羽です」
「私は鶴田アキ。よろしくねー」
「柚木ヒカリと言います。今日はよろしくお願いします」
仕事当日、紹介された刑事さん――正確には麻薬取締官だとか――とあいさつする。細面の眼鏡の人物。体格も細長いといった感じだけど、立ち振る舞いに隙がない印象があるのでそれなりに使う人なんだろうなと思う。
私自身は特に格闘技とか武術をやってるわけじゃないけども冒険者を目にすることが多いと、立ったり歩いたりする姿から「ああ、なんかやってるな」みたいなのを感じるようになってくる。場数って怖いわあ……。
「事前にお話しした通り、今日の目的は証拠画像の確保と大麻畑の処分になります。それに関しては私が主に行うことになりますので、お二人には警戒と護衛をお願いします」
「そのことでちょっと確認したいんですが、大麻畑の処分って具体的にどうするんです?」
これは聞いておきたかった。畑の規模のものを一人で処分できるのか?という疑問があったからだ。
「ああ、そこは燃やす方向で行こうかと」
「……割と荒っぽいことしますね」
「他は分かりませんが、ここの〈森〉では森林火災が起きないんでしょう?であればこれが一番手っ取り早いかなと。で、焼いた後は畑に種が残ってる可能性があるんで、終わったらドクダミと葛の種をまいておきます」
「えー……手加減ないですねえ」
そりゃ有効かもしれないけども。やって大丈夫なもんなのかそれ。
「ねえ、ヒカリン。ドクダミと葛ってなに?聞いたような気はするんだけど」
「普通の野草ですよ。ただ生命力と繁殖力がめちゃくちゃ強いんで、畑にまくような真似したら大惨事ですね」
ダンジョン外から持ち込んだ大麻が育つなら、まあドクダミも葛も大丈夫か。
「まあ聴取でわかってる限りあまり大きな畑でもないので、外周を刈り込んで中にガソリンまいて火を付ければ事足りるかなと思っています」
「わかりました。煙の方向だけ気を付けたほうがいいかもしれませんね。私達が吸わないように」
生の草が燃えるかな?とも思ったけどそこまでは私たちが気にする事じゃないか。
「ですので、そのための機材とか燃料でいっぱいいっぱいで魔物への対処はできないので、本当にお二人に頼りきりになります。頼りにしてますよ」
「任せて!ちゃんと赤羽さんが仕事終えるまで死なせないから!」
アキさんが胸を張って堂々と宣言する。その姿はとても快活で頼もしく見える。その姿勢はリーダーの、指導者の、アイドルの姿勢として正しい。
だからこそ私は水を差さなければならない。
「いや、アキさん。赤羽さんが仕事に失敗しても生かして返すのが私たちの仕事ですよ。そこは間違えちゃだめです」
「え?そうなの?」
「はい、クエストの優先順位は1番目が赤羽さんの生還で、2番目が赤羽さんの業務遂行です。この件は、最悪生きていればチャンスはありますから」
そして、クエストよりも優先しなければならないのは私たち二人の生還。これは私がしっかりと心にとめておかなくてはいけない。私には、正義よりも大義よりも大切なものがあるのだ。
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